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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第1章「バインドスキルではじまる男の物語」

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第3話「契約成立」

「ん、う~ん……」


見慣れない天井。

見慣れない内装。

寝慣れないフカフカのベッド。


「目が覚めたか」


そして見慣れない美女が目を覚ました俺の前にいた。

痛む頭を押さえ、何があったか思い出す。

そうだ、この美女にバインドをかけてくれと頼まれて…

 美女、ことセイラは時間が経ちバインドの効果が切れたらしく、今は縄が解けた状態で俺の頭を膝枕していた。


「大丈夫か? ベッドから派手に落っこちていたが……」

「ああ、大丈夫だ」


心配そうに俺の顔を覗き込むセイラに向けて手を軽く振り、俺は身体を起こす。

少し頭が痛むが大丈夫だ。……いや、あんまり大丈夫じゃないかもしれない。


「いきなり自分で自分の頭をブン殴って気絶したからどうしたかと思ったぞ。なぜあのような真似をしたんだ?」

「手を出さないようにするためだ」

「は?」

「あのままだと自分を抑えきれなくなりそうだった。だから自分で自分を殴って気絶する事でそうしないようにした」

「そ、それはどういう意味だ?」

「お前さんがあまりに魅力的すぎて、手を出してしまいそうだった。だから自分を気絶させたんだよ」

「……」


 顔を真っ赤にするセイラ。なんだ? 熱でもあるのか?


「そ、それはどうも……ありがとう」

「ど、どういたしまして」

「………別に私は、手を出されてもよかったのだが」

「うん? 何か言ったか?」

「何でもない」


セイラが小声で言った言葉がよく聞こえなかったので聞き返したが、ぷいっと顔を逸らされる。

なんだ? 機嫌悪そうだけどストレス解消できなかったのか?

まさかストレス解消できなかったから、約束を反故にするとか言い出さないよな?

俺はセイラに向けておそるおそる尋ねる。


「その……ストレス発散はできたのか?」

「あ、ああ。おかげさまで、貴様のバインドのおかげでスッキリした」

「そうか、じゃあこれでチャラって事でいいな」


 無事ストレス発散できたという事なので、俺が荷物を抱えて立ち上がると、セイラが慌てた様子で俺の腕を掴んだ。


「ま、待て! どこに行くんだ?」

「どこって……、この街を出て行くんだよ」

「何!?」

「あの店も、似たような商売をしてる他の店も摘発したんだろ? もう商売できないだろうし、冒険者じゃ食っていけないからどこか他の街にでも行くよ」

「ま、待て! それは困る!!!」

「何?」

「その……、貴様にこの街を出て行かれては困る……」

「何でだよ」

「その……、これからも私にバインドをかけてもらいたいからだ……」

「……ハア?」

「頼む! これからも私にバインドをかけ続けてくれ!!!」


 俺の前で三度目の土下座をするセイラ。


「バインドをかけ続けてくれって……」

「今日バインドをかけられてスッキリした。だがこれからもストレスが溜まる時があるだろう! その時また貴様にバインドをかけてもらいたいんだ!」

「変態だ!?」

「ち、違う! 私は変態ではない! いや、変態かもしれない! 変態でもいい! 変態と罵ってくれ! そして私にこれからもバインドをかけてくれ!」

「この変態! そ、そんな事言われても……」

「こんな事他の人間には頼めないんだ! 頼む!」

「いやしかし……」

「仕事を探してるならいい所がある! 住む所も付いている! 金だって払おう!」

「何?」


 セイラの言葉にどうやって断ろうか考えていた俺の思考が止まる。

それを見逃さないかのようにセイラは言葉を畳みかけた。


「私が所有している家の管理人だ。そこを住み込みで管理してくれたら月20万マニーやろう!」

「にじゅうっ……!?」

「む? 安すぎるか? ならもっと高い給料で……」

「いやいやいや十分だ!? 20万マニーも貰えるなら十分すぎるだろ!?」

「そうか? 家令の者達の初任給と同じ額だが…」


 小首をかしげるセイラだが、月20万マニー以上の金なんてこれまでの人生で一度しか手にした事ない大金だ。丁稚奉公してた革職人の工房の月給なんてたったの5万マニーだったし……


「で? どうするんだ? 月20万マニーを選ぶか? それともいくら稼げるか分からない他の街へ行くのか?」

「ぐ、ぐむむむ……」

「さきほど冒険者ブックを見させてもらったが、貴様たったのレベル4だろ? 9年やってレベル4のへっぽこ冒険者じゃ、他の街でも稼げないだろうな?」

「ぐ、ぐむむ……」

「どうする? 私と契約すれば安定収入、しなければどこかで金に困る人生。どちらを選んだ方がよいか貴様でも分かるだろう?」


俺が月20万マニーに惹かれてる事を察してか、立場逆転して強気になったセイラが挑発的にフフンと笑う。

コイツ、今度バインド食らわせた時はヒイヒイ言わせてやる……!


「……分かった」

「うん?」

「お前の提案に乗ろう。これから……」

「『お前』ではないだろう」

「何?」

「『セイラ様』だ。雇用主と従業員の関係になるのだからそう呼べ」


立場が逆転したセイラが強気な様子でフフンと笑いそう言う。

コイツ……! 次バインドをかける時は「もう勘弁してください!」という目に遭わせてやる……!


「承知しました、セイラ様。これでいいか?」

「……スマン、自分で言っておいてなんだが貴様にそう言われると何だかムズムズする。やはり『セイラ』と呼び捨てで呼んでくれ」

「分かった、セイラだな」

「……うん」

「……」

「……」


 名前呼びした途端、何だか甘くてこそばゆい空気が流れる。なんだこの空気。


「と、とりあえず今からその私が所有する家に案内するからついてきてくれ。詳しい話はそこでしよう」

「あ、ああ」


 妙な感じになった空気を振り払うように、セイラが立ち上がる。

俺達は、そのセイラが所有する家とやらに向かった。




****************************




「ここだ」

「ここか」


街の外れにあるセイラが所有する家とやらはオンボロな一軒家だった。

他の家とは小川を挟んで距離があり、完全に一軒だけポツンと浮いている一軒家。

領主の娘が持っている家にしては、みすぼらしい家だった。


「ここは私のひいおじいさまとひいおばあさまが暮らしていた家なんだ。思い出があったから私が受け継いだ。たまに泊まって掃除やら何やらしていたのだが、色々とボロボロになってしまっていてな」


 セイラが鍵を差し込み玄関を開けると、小さな玄関口が出迎える。

開けっぱなしの靴箱に靴は入っておらず、古びた靴べらと古びた靴クリームが転がってるだけだった。


「さ、上がってくれ」


 セイラに続いて家に上がると古びた卓袱台と古びた座布団があった。居間らしい。


「ここが居間、この奥がキッチンと風呂とトイレ。更に奥が私の寝室だ。突き当たりの一番奥は物置だ。今は何も入れてないがな」

「俺はそこで寝ればいいのか?」

「いや、貴様は2階の屋根裏部屋で寝泊まりして欲しい」


 そう言ってセイラが居間の奥の扉を開ける。

そこにはキッチンと、2階に続く階段があった。

 階段を上ぼりきると、真っ暗な空間が広がっている。

セイラと2人でカーテンと窓と雨戸を開けると、中二階のような屋根裏部屋が全容を表した。


「まあまあ広いな」

「ああ、ただずっとほったらかしにしてたせいか、ケホンっ、ほこりっぽいな……」


 セイラがハンカチを口元に当てて咳き込む。確かにほこりっぽい。

でもほこりは掃除すれば済む話だ。


「こんな所で悪いが……、ここで寝てくれないだろうか」

「分かった」

「布団は私の部屋に客人用があるから後で居間に出しておく。それを使ってくれ」

「客人用?」

「私の親友がたまに来るんだ。今は冒険に出かけてるがな」

「はあ」

「レベッカ用には今度新品を買っておくか。今のところ話は以上だ。水は出るし、火も使えるし、風呂とトイレはリフォームしてある。何か質問はあるか?」

「掃除道具はどこにあるんだ?」

「洗面所の所にまとめて置いてある。スマンが私はそろそろ戻らねばならん。明日夕方またここに来るが、ここの管理人になってくれるか?」

「願ってもない話だ。ありがたい」

「分かった。では契約成立だな」


 そう言ってセイラがスッと手を出してくる。

握手を求められているようだ。俺はその手を握った。


「契約書等を明日の夕方に持ってくる。詳しい話はその時にしよう。それまでにこの部屋の掃除でもしておいてくれ」

「分かった」

「それと……私にバインド云々の話は誰にも話さないと約束してくれ。信用してるからな? 絶対だぞ?」

「ああ、約束しよう」


言われなくても分かっている。

人には知られたくない秘密や性癖の1つや2つあるだろうし、言いふらしても誰も信じないだろうしな。

それにこんないい話を、自分からドブに捨てる理由はない。

こうして俺はセイラの所有する家の管理人となった。

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