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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第1章「バインドスキルではじまる男の物語」

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第29話「ジンジャーの実力」

「……帰ってくるなり魔王の幹部とはな。久々に本気を出さにゃならなそうだ」


 黒いターバンで短く刈り込んだ白髪頭を包み、黒いマント、黒のズボンの黒尽くめで背中に紫の鞘に入った刀を背負った冒険者、ジンジャーがセイラを抱えこちらに歩いてくる。


「ユイト、この嬢ちゃんを頼むぞ」

「あ、ああ……」


 ジンジャーが、俺にセイラを手渡し紫の鞘に入った刀を抜く。

セイラはグッタリと気を失っている。アスミちゃんが慌てて回復魔法をかけ始めた。


「ちょ、ちょっと! あの人1人で魔王の幹部を相手する気!?」

「そのつもりだろうな」

「あたし達3人がかりでもダメだった相手よ!? 無茶よ!」

「無茶かどうかは見てりゃ分かる。……ジンジャーが刀を抜いた、本気だ」


 滅多な事では抜かない刀を抜いているジンジャーの姿に、俺は畏怖を覚える。

その本気のジンジャーを前にしても、リューガが不敵に笑う。


「なんだジーサン、オレサマをアイテにしようってのか、なあ?」

「そうだよ、魔王の幹部。お前さん、『剛腕のリューガ』とかいう、あちこちの砦をぶっ壊して回ってる暴れ者だろう?」

「ああ、オレサマはアバれるのがだいすきだから、なあ?」

「知らねえよ。お前さんはここで死ぬからな」


 刀を構えて、ジンジャーが戦闘態勢に入る。

只者ではないジンジャーの気配、それにリューガも拳を構える。


「シッ!」


 ジンジャーが刀から右手を離し、煙玉を投げる。


「オウ!? さっきのニーチャンとオナジじゃねえかこりゃあ……なあ!」


 顔面に直撃した煙玉の煙を、リューガが腕で払う。

その背後で、一瞬で距離を詰めたジンジャーが刀を振り上げる。


「『蒼天斬り』!」


 一太刀で雲まで切るジンジャーの秘剣、蒼天斬りがリューガの背中を斬る。

しかし……


「オウ、ジーサン。イテエじゃねえか……なあ!」


 痛いという割に無傷なリューガが、太い腕を振り回してジンジャーに襲いかかる。

ジンジャーは後ろに飛んでリューガの攻撃を躱した。


「ジンジャーさん! ダメよ! そいつ、セイラの大剣でも傷1つつかなかったの!」

「ほう? なら魔法はどうかな?」


 レベッカのアドバイスに、ジンジャーがスクロールを取り出す。


「『万雷ママラガン』!!!」


 最強の雷魔法が、魔法を閉じ込めたスクロールから放たれる。

黒の稲光が轟き、リューガの身体を数十本の雷が襲いかかる。

しかし……


「……オウ、ジーサン。ビリビリきたじゃねえか……なあ!」


 雷に耐えきったリューガが、宙を跳んでジンジャーに襲いかかる。

ジンジャーが背走してリューガの攻撃から身を躱す。


「……」

「ねえユイト、何でアンタそんな余裕の顔してるのよ? ジンジャーさんの攻撃、2つとも不発に終わったのよ?」


 戦況を見ている俺を、レベッカが突っついてくる。

その肘を払いながら、俺は答える。


「大丈夫だろ。ジンジャーだぜ? 俺達とは違うんだ」

「その余裕はどこから生まれてるのよ? ただ逃げてるだけじゃない」


 レベッカの言うとおり、刀と魔法2つの攻撃でも倒せなかったジンジャーは、現在リューガから逃げ回りながら鉛玉や煙玉で牽制しているだけだ。

ただ、あの目と表情は、余裕があるジンジャ-だ。

ジンジャーが、刀を構えて立ち止まる。


「なんだ? やられるカクゴができたのかジーサン……なあ?」

「ちげえよ。お前さんを仕留める準備ができたんだ」

「オレサマをシトメル? バカなこと……」


 リューガが一歩を踏み出した瞬間、大地が轟音を立てて爆発した。


「な、何!?」

「……爆発玉を、地面に仕込んでいたんだ。私は、見た……」


 いつの間にか目を覚ましていたセイラが、アスミちゃんに身体を支えられながら弱った様子でレベッカの疑問に答える。


「セイラ! 大丈夫なの!?」

「大、丈夫だ……。それより、あれがジンジャーか……」

「ああ、そうだよ」

「噂には聞いていたが、なんて速さだ……。目のいい私でも、追うのが精一杯だった……」

「速さって……、確かに速いけどそんな大した事……」

「あれはまだ本気じゃねえよ。ジンジャーが本気を出したら目で見えないくらいだ。爆発玉を仕込んだ時は、一瞬だけ本気を出してたけどな」

「あれでまだ本気じゃなかったの!?」


 同じ所をグルグル逃げ回ってるから何かやってると思ったが、爆発玉とはエグい。

俺も参考にさせてもらおう。


「グ、グウ……」


 爆発玉の煙と炎が晴れる。そこにはダメージを受けたようだが、いまだに健在の剛腕のリューガがいた。


「オウジーサン、イマのはキイタじゃねえか……なあ!」


 リューガが跳んで、ジンジャーへと拳を振り上げる。

けれどもその拳は、空を切った。


「もうお前さんはシメ―だよ」


 ジンジャーの姿が一瞬にして消える。

拳を外したリューガの身体に、次々刀傷ができていく。

けれどもその刀傷をつけているジンジャーの姿は見えない。

目にも留らぬ速さで動き回っているからだ。


「は、速い!?」

「それだけじゃ、ない……。リューガに、私の大剣でもかすり傷ひとつつけられなかったアイツに、傷を……!?」

「お前さん、体に力を入れて自分を硬くしてたんだろ」


 姿の見えないジンジャーの声が、リューガと俺達にこれまで攻撃が効かなかった種明かしをする。


「こっちの攻撃を受ける前に拳を握ってたのと、筋肉が盛り上がってたのがその証拠だ。自分の身体に力を入れて硬くして、ダメージを寄せ付けなかった。でももう、不意打ちの爆発玉のダメージで力が入らなくなっただろ?」

「ガ、ガアッ!? ガアアッ!」

「ムダだぜ。お前さんの攻撃は遅すぎる。俺には当たらねえよ」


 刀で斬りつけられながら、リューガが拳をメチャクチャに振り回す。

けれどもジンジャーは高速で動きながら避け続けているようだ。

セイラほど目がよくない俺には追いきれないが、かろうじて残像が見える。

斬りつけられながらリューガが、腕を振り回し声を上げる。


「クソが、クソがクソがクソがクソがあああ! オレサマは剛腕のリューガサマだぞおおおおお! 魔王のヤツにもみとめられて、チカラをあたえられた、トクベツなオーガなんだぞおおおおお!!!!!」

「でも、俺より弱い」

「この、クソニンゲンがあああああああっ!!!!!」

「――クソクソうるせえな、寝ろや」

「―――――――――――――――」


 リューガが、声にならない声を上げる。

その胸を、ジンジャーの刀が貫いていた。

ジンジャーが刀を引き抜くと、糸が切れたようにリューガが倒れる。

音を立ててリューガが地面にうつ伏せになる。

あれほどセイラ達が攻撃を食らわせても、びくともしなかったリューガが、だ。


「すごい……」

「ああ、なんて強さだ……」

「これが世界最高の冒険者……」

「俺はそんなもん自称した事ねえんだけどな」


 ジンジャーの強さを目の当たりにして戦慄するアスミちゃん達に、そばに来たジンジャーが膝に手を当てながら言う。

『神速』は足に負担がかかる上に、1日1度しか使えない超高速移動だ。

戦いが終わった。けれどもジンジャーが片手に握った刀は油断なく構え続けている。

それを見て俺も、リューガに目をやり警戒する。


「やれやれ、これでやっと終わりね」


 しかしレベッカが、不用意にリューガへと近づいていた。


「いかん!」

「バカ! 油断するな!」

「え?」


ジンジャーと俺の言葉に、レベッカがキョトンとした顔をして振り返る。

その背後で、リューガが最期の力を振り絞り起き上がっていた。


「クソ、ニンゲンが……! ミチヅレに、このオンナだけでもコロしていくぞ……!」

「……っ!?」


 リューガの振り上げた拳が、レベッカに叩きつけられようとしている。

レベッカはリューガの迫力に押されたように、足が竦んで動けなくなっている。


「「チイッ!!」


俺とジンジャーが、2人同時に懐に手を入れて爆発玉を取り出す。


「「ハアッ!」」


 俺の投げた爆発玉が先に、ジンジャーが投げた爆発玉が後にリューガの頭を直撃し爆発する。

けれどもリューガの振り下ろす腕は止まらない。

そのままレベッカを叩き潰そうと……


「どけっ!」

「あっ……!?」


 叩き潰される前に、俺は体当たりでレベッカを突き飛ばす。

レベッカは駆け寄っていたジンジャーに受け止められた。


「ユイト!」

「ユイトさんっ!」


 セイラとアスミちゃんが俺の名前を叫ぶ。

迫り来るリューガの拳が、えらくゆっくりに見えた。

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