第28話「剛腕のリューガ」
天才、という言葉にふさわしい存在がいるとすればセイラ・レイフォードしかいないと思っていた。
恵まれた外見も、身のこなしも、剣の才も、天才というにふさわしい存在だと思った。
ひと目見ただけで他人とは違う存在。
傑物、英雄、歴史に名を残す存在になるだろうと思わせる人物。
それがセイラ・レイフォードという人間だと思っていた。
その天才が……
「ガアアアアアアアっ!!!」
「くうううううううっ!!?」
魔王の幹部に、なすすべなく押されていた。
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魔王の幹部、剛腕のリューガが振り下ろす拳。
その拳は、伝説級の武器に匹敵する凶器になる。
「ガアアアアアアアっ!!!」
リューガの拳を盾で止めようとしたノッシュとゲイルが、2人まとめて吹っ飛ばされる。
「アアアアアアアアっ!!!」
リューガが手を振るい、槍を手に迫っていたマシューと、ナイフを手に迫っていたバロンが吹っ飛ばされる。
「『フレイム・インパクト』!!!」
追撃を加えようとするリューガ。その身体にレベッカの魔法が直撃する。
オーガ達を屠った一撃。しかしリューガは拳でその魔法を打ち消す。
「フ、フレイム・インパクトを打ち消した!?」
「オウネーチャン、アツいじゃねえか。……なあ!」
レベッカの元へと駆け出すリューガ。
その前にセイラが立ちはだかる。
「貴様の相手は私だ!」
「オウ! いいだろうともよお!」
友を庇おうとするセイラの心意気に当てられたのか、リューガがセイラに向けて拳を振り上げる。
すさまじい音と大剣を叩く衝撃がした。けれどもそれを気にしている余裕はない。
俺は気を失っているゲイルやノッシュ達を担いで一カ所にまとめる。
「レベッカ! テレポートでこいつらとアスミちゃんを教会へ!」
「で、でも……!」
「早く!」
「『テレポート』!」
ゲイルとノッシュ、マシューとアスミちゃんを連れてレベッカの姿が消える。
アスミちゃんが何やら言おうとしていたが、気にしてる暇はない。
「バロン、歩けるか?」
「……大丈夫。バロン、歩ける」
ただ1人気を失っていなかったバロンも、大ダメージを受けたようだ。肩を貸して城壁の近くへ連れて行く。
カイルとミアが、城壁から降りてきて俺からバロンを受け取った。
「ミア! テレポートは後何回だ!」
「1回よ!」
「ならバロンとカイルを連れて教会に避難してくれ! あそこはサレン様の力で守られてるから魔王の幹部でも入れない!」
「わ、分かったわ! でも、ユイトはどうするの!?」
「あのオーガと戦う」
「オイオイ、無茶を……」
「雇用主が戦ってるんだ、見捨てて行くわけにはいかねえよ」
「……ユイト、死ぬなよ」
「ああ、死ぬのはもうゴメンだ」
カイルとコツンと拳を合わせた後、ミアがテレポートでバロンとカイルを連れて消える。
これで残ったのは、俺とセイラだけだ。
セイラとリューガの戦いに目をやる。
天才、という言葉にふさわしい存在がいるとすればセイラ・レイフォードしかいないと思っていた。
恵まれた外見も、身のこなしも、剣の才も、天才というにふさわしい存在だと思った。
ひと目見ただけで他人とは違う存在。
傑物、英雄、歴史に名を残す存在になるだろうと思わせる人物。
それがセイラ・レイフォードという人間だと思っていた。
その天才が……
「ガアアアアアアアっ!!!」
「くうううううううっ!!?」
魔王の幹部に、なすすべなく押されていた。
「どうしたあ? チビニンゲンが、イセイがいいのは、サイショだけか……なあ!」
「ぐうううううううっ!!?」
リューガの拳が、大剣で受け止めたセイラを吹っ飛ばす。
あの攻撃で砕けない大剣は大した物だが、それ以上にリューガの拳がすさまじい。
ただの拳で、城1つ壊せそうなくらいだ。
吹っ飛ばされたセイラが、こっちに飛んでくる。
俺はその身体を受け止めようとして……仲良く吹っ飛ばされた。
「ぐうっ!?」
「貴様!? 何してる!?」
「見て分かんねえのかよ……! お前を助けようとしたんだよ……!」
セイラの身体を抱えたまま城壁に叩きつけられ、俺の視界が滲む。
ああ痛え……! 防具着けてなかったら、潰れたトマトみたいになってた所だ……!
ていうかセイラの鎧が痛え……!
剛腕のリューガはセイラに興味をなくしたのか、こっちに追撃してこようとはせずズンズンと城門へと歩いて行く。
そして、拳を振るった。
「ガアアアアアアアっ!!!」
武器を持っていたオーガ十数匹の攻撃も耐えていた城門が、一発の拳で破壊される。
リューガが城門だった瓦礫に足をかけ、街へと入って行こうとする。
「待て……!」
「アア?」
「この街には、指1本触れさせん……! 私が、相手だ……!」
街へと進もうとしたリューガを、セイラが呼び止め大剣を構える。
リューガは、興味なさそうな目でセイラと俺を見ていた。
「オウ、ジョーチャン。まだやろうってのか? なあ?」
「キサマの部下を一番多く倒したのは私だ」
「……」
「オーガは仲間意識が強いのだろう? 同胞の仇を取らなくていいのか?」
「……オウ、ジョーチャン。そいつをきいちゃあミノガスわけにはいかねえ、なあ!」
剛腕のリューガが、踵を返しこちらに襲いかかってくる。
「セイラ、こっちだ!」
「なっ!?」
迎え撃とうとしたセイラの腕を引っ張って、城門から遠ざかるよう走る。
「な、なぜ逃げる!」
「アイツ、力はすごいが足は遅い! 少しでも街から遠ざけて、時間を稼ぐんだ!」
「バ、バカ言うな! 騎士として、逃げる訳には……!」
「いいから逃げるんだよ! 俺達次第で、街の人間の犠牲者の数が変わるんだぞ!」
「……」
「緊急警報が発令されて、街の人間は避難始めてるだろうよ。でも全員が避難できてるとは思えねえ。一番安全な教会には人が殺到して混乱してるだろうな。少しでも多くの人間が避難する時間を稼ぐんだ」
「……くっ、仕方ない……!」
騎士としては譲れないだろうが、領主の娘として譲らないといけない部分を刺激し、どうにか納得させる。
そうして俺達は逃げ……
「オウ、ニーチャン。ダレのアシがおそいってんだ……なあ!」
城門から少し遠ざかった所で、突如としてリューガが目の前に現れ拳を振るう。
「ユイト!」
とっさにセイラが、大剣で俺を庇う。
しかし2人仲良く吹っ飛ばされる。
「ぐうううううううっ!!?」
「があああああああっ!!?」
セイラと地面にサンドイッチされ、俺の視界が滲む。
どうして。
どうしてどうしてどうして。
アイツの足は遅いはず。なのにどうして。
俺はリューガの方を見て、地面に奴の足跡がない事に気づく。
「と、跳んだのか……!」
「オウよ、オレサマはアシのチカラもつよいからなあ」
長い髪で目が隠れているリューガの口元が、正解と言わんばかりにニヤリと笑う。
走っても追いつけないからジャンプで距離を詰めるなんてメチャクチャだ。
ただこれでコイツから逃げる事も難しいと分かってしまった。
「シッ!」
俺は煙玉を投げてリューガの視界を塞いだ後、腰に着けたバインド用の縄を放る。
「『バインド』!」
狙いは首と腕。少しでも動きを封じて時間を……!
「オウニーチャン、なんだこりゃあ……なあ!」
腕を振るって煙をかき消したリューガが、バインドの縄をいとも簡単に引きちぎる。
ダメだコイツ! ドラゴンでも十数秒は封じれたのに!
「ハアアアアアアッ!!!!!」
裂帛の気合いを上げて、セイラが剣を振り下ろす。
煙玉で視界を封じている間に回り込んでいたのだろう。
死角からの攻撃がリューガを直撃する。
しかし……
「なっ!?」
「オウネーチャン、痛えじゃねーか……なあ!」
痛いという割に、無傷なリューガが拳を振り上げる。
攻撃後で無防備なセイラにその拳が……
「『フレイム・インパクト』!!!」
「『ホーリー・レイ』!!!」
振るわれる前に、炎の塊と聖なる光の柱がリューガに向けて降り注ぐ。
「レベッカ! アスミ様!」
「な!? なんで戻ってきた!」
「なんでも何も、アンタ達を置いて避難できるわけないでしょ」
「そうです! わたし達だって戦います!」
攻撃魔法を放ったレベッカとアスミちゃんが、杖を構えたまま俺の問いに答える。
「戦いますって……」
「……レベッカ、テレポートは後何回使える?」
「後1回よ」
「そうか、ならユイトとアスミ様を連れて教会に逃げろ」
俺の言葉を遮り、セイラがレベッカにそんな事を言う。
「逃げろって……セイラ、アンタはどうする気なのよ」
「私は最後まで戦う。あの魔王の幹部を倒すまで……」
「無茶言うな、アイツを倒せる訳ないだろ。ここは……」
「……そこのニーチャンのいうとおりだぜ、オレサマをどうやってたおすキだ? なあ? ジョーチャン」
レベッカとアスミちゃん、2人の攻撃魔法を食らったのにピンピンしてるリューガに、戦慄を覚える。
剣もダメ、絡め手もダメ、魔法でもダメ、逃げる事もできない。
攻撃力は桁違い、防御も鉄壁、魔法に弱いオーガのはずなのに魔法も効かない。
やけくそで爆発玉でも投げてみるか?
いや、レベッカとアスミちゃん2人の攻撃魔法も耐えきったコイツの事だ。
爆発玉が直撃しても倒せないだろう。
こんなの、どうやって倒せば……
「……どうやって倒す気かだって? ――こうやってだ」
セイラの剣が、白く光り輝いている。
いつの間にか剣に魔力を注ぎ始めていたらしい。
あの剣、使い手の魔力で威力が上がる聖剣だったのか。
「この聖剣レイフォードは、我がレイフォードに代々伝わる名剣。ドラゴンをも討ち取った剣! キサマもこの剣の錆となるがよい! 『ホーリー・スラーーーーッシュ』!!!!!」
白く光る聖剣を振り上げ飛び上がり、セイラがリューガに向けて剣を振り下ろす。
リューガは、振り下ろされる聖剣に向けて右の拳を突き上げた。
「ハアアアアアアアッ!!!!!」
「ガアアアアアアアッ!!!!!」
聖騎士の聖剣と、魔王の幹部の剛腕の一騎打ち。
白い光と、拳の火花が散り辺りにすさまじい光と音が轟く。
耳のいいアスミちゃんは両耳を押さえ、俺とレベッカもあまりのまぶしさに片目をつむって戦いを見守る。
そんな俺達の前で。
「ガアアアアアアアっ!!!!!」
「うわああああああっ!!!!?」
セイラが、剣ごと吹っ飛ばされた。
「オウ、ネーチャン。今のはオドロイタぜ……なあ?」
剛腕のリューガが、ダメージを受けていない様子で倒れたセイラに近づく。
それを止めに行きたいのに、動けない。
動いたら殺される。
魔王の幹部の圧に押され、俺も、レベッカも、アスミちゃんも動けない。
俺達の前でリューガが、倒れてるセイラに向けて拳を振り上げる。
――動け。
動け動け動け俺の身体俺の足!
しかしいくら念じても動かない、いや、動けない。
セイラが殺されたら次は俺達の番だ。それが分かってるのに動けない。
せめて煙玉を、いや、レベッカのテレポートを、それかアスミちゃんの聖域魔法で防御を。
頭は働いているのに身体が動かない。
リューガが拳を振り下ろす。
辺りにすさまじい音が響き渡り、地面が揺れる。
「セイラ……! セイラーーーーーー!!!!!」
そこで金縛りが解けたようにレベッカがセイラの名前を呼び膝から崩れ落ちる。
しかしリューガが拳を振り下ろした地面に、セイラはいなかった。
「……帰ってくるなり魔王の幹部とはな。久々に本気を出さにゃならなそうだ」
最高の冒険者が、セイラを抱えてニヤリと笑っていたからだ。




