第25話「緊急警報」
「オイレベッカ、俺の分のお茶は?」
「自分で注ぎなさいよ」
「ユイトさん、ユイトさんの分はわたしが注いであげます」
「待てアスミ様、この男にアスミ様のお茶はもったいない。ここはわたしが……」
「どっちでもいいから早く注いでくれ」
朝。
セイラの家の居間で4人で朝食を摂っているが狭くて仕方ない。
昨夜は寝ている俺の布団にアスミちゃんが潜り込んで来ようとしてきたり、
それを阻止しようとしたセイラがなぜか俺にキレてきたり、
1度寝たら何があっても朝まで起きないレベッカはその騒動に気づかず寝こけていたりと色々あって、起きるのが普段より遅くなってしまった。
ここ数日、身体を動かせなかった分朝から鍛錬したかったのに……
セイラが注いだお茶を飲み、食器を片付ける。
4人分ともなると結構な量だ。朝から気が滅入る。
食器を洗い、拭いて棚に戻すと時刻は8時を回っていた。
この時間でもゆっくりしているという事は、今日はセイラも休みのようだ。
休みのようだが薄く化粧をしている。
「セイラ、どっか出かけるのか?」
「いや? 今日は1日ゆっくり休むつもりだが?」
「ならなんで化粧してるんだ?」
「そ、それは……、化粧は淑女のたしなみだ! 何か文句あるか!」
「ねえよ。ねえからキレるな」
突然セイラにキレられ不可解に思う俺。
そんな俺とセイラを何やらニヤニヤ見ながら、レベッカがアスミちゃんに話しかける。
「アスミちゃん、どう思う?」
「化粧ですか……。わたしも試してみたいです」
「アスミちゃんは若いし素材がいいんだからまだ早いわよ。って、そうじゃなくて……ハア」
レベッカが、何やら疲れたため息を吐く。なんだ? どうしたんだ?
足を崩して卓袱台にもたれかかるレベッカ。居候の割に遠慮がない。
ていうかコイツは、最初から俺の前でもだらしない姿を見せている。
一方セイラやアスミちゃんは、そういう姿をあまり見せないよう気をつけているようだ。
……裸を見せるのはいいんだろうか。裸族の基準は分からない。
ただ人の家という事もあってか、昨夜と今日のアスミちゃんは服を着ていた。
裸族でも他人の家では遠慮するらしい。俺の布団に潜り込もうとした時もパジャマだったし……
ついアスミちゃんの裸を思い出してしまい、俺は頭を振って打ち消す。
「俺は今日は花の苗を買いに行くとするかな。ついでに野菜の種も見ていこう」
「あら? ようやく畑に何か植えるの?」
「ああ、そろそろいい頃合いだからな」
「フム……、私もついていっていいか? ここは私の家だからな」
「もちろんいいぞ」
「あたしもついていこうかしら。マンドラゴラとかあったら面白そうだし」
「植えさせんぞ」
「そうだ、私の家の庭を何だと思っている」
「わ、わたしもいっしょに……」
「アスミ様は今日も教会で信者の懺悔を受ける日では?」
「きょ、今日は午前お休みです! お休みという事にします!」
「ダメです」
「ダメじゃありません!」
告解を休もうとするアスミちゃんを、セイラが諭そうとするがアスミちゃんが耳を手で塞いで賛美歌を歌い始める。かなり上手い、耳がいいからだろうか?
『緊急警報発令! 緊急警報発令! 住民の皆様は避難所に避難して下さい! 冒険者の皆様は武装して正門に集合をお願いします!』
そんな賑やかな朝の空気をぶち壊すように、
緊迫感のある緊急警報が魔道具を通じて響き渡った。
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「な、なんだありゃあ!?」
緊急警報が発令されてから、慌てて防具などを身につけ駆けつけた俺達は城壁の上から領の正門を襲っているオーガの集団の姿を見て戸惑う。
10、11,12……20匹ほどのオーガが武器を手に、モンスターの侵入を防ぐための正門を襲っている。
この辺りじゃ見た事ない高レベルモンスターの襲撃に、集まった冒険者達も戸惑いの声を上げた。
「オ、オーガだと!? なんでオーガがこんな所にいるんだ!?」
「あの数は何!? なんであんな数のオーガがこんな所にいるの!?」
「オイオイ……、まさかこの世の終わりか……?」
そこそこの腕利きではあるものの、オーガなんかと戦った事のないこの街の冒険者達は腰が引けてしまっている様子だ。
「『フレイム・インパクト』!!!」
そんな空気をぶち壊すように、
この中でも高レベル冒険者のレベッカがオーガに炎魔法を放った。
正門を襲っていたオーガの1体が、音を立てて倒れる。
「皆! 聞いてくれ!」
そして領主の娘のセイラが、集まった冒険者達に声をかけた。
「私はこれよりオーガ達を退治する! 戦士系の冒険者は私についてきてくれ! 魔法使いやアーチャーなどは、この城壁の上から援護を頼む!」
「「「……」」」
「私はセイラ・レイフォード! この街の領主の娘で、レベル48の聖騎士だ! この街を守るために頼む! 力を貸してくれ!!!」
皆に向けて頭を下げるセイラ。
それを見て腰が引けていた冒険者達の顔つきが変わる。
「……しょーがねえな。こんな姉ちゃんがオーガと戦おうってんだ。皆、力を貸してやろうぜ!」
「ああ! 領主の奴は嫌いだがこの街は嫌いじゃねえからな! 新しく来た神官の子も可愛いし!」
「仕方ないわねえ! やってやろうじゃないの!」
「ああ! この街の冒険者の力を見せてやろうぜ!」
「俺……! この戦いで生き残ったらあの神官の子にデートを申し込むんだ……!」
アーチャーのカイルや、その弟の戦士のゲイル、女魔法使いのミアなどが声を上げる。
……俺の背後に立っていたアスミちゃんは、少し怯えた様子で俺の身体で自分の身体を隠したが。
「それじゃ行くぞ! 魔法使い系は俺についてこい! ゲイル達は姉ちゃん達の指示に従え! 援護は任せろ!」
チームでもリーダーを務める事が多いカイルが、魔法使い達などを率いて城壁に陣取り早速攻撃を開始し始める。
俺もそっちについていこうと……
「オイ、どこへ行く。貴様はこっちだ」
して、セイラに首筋を掴まれた。
俺はその手から逃れようともがいたが、セイラはびくともしない。
「無茶言うなよ! オーガの攻撃なんて、貧弱な俺はかすっただけで致命傷だ!」
「そんな事にはならん。貴様は私が守る、だから私の近くにいろ」
「へ?」
「遠くに離れていると、貴様を守れんだろうが」
俺から顔を逸らしながら、セイラがそんな事を言う。
その横顔が、何だか赤いような……
「オイ姉ちゃん! こっちは準備OKだぞ!」
「ああ! 者ども、私に続け!」
「ちょっと待てえええええええええ!!!!?」
俺は、セイラに首根っこを押さえられたまま城壁から飛び降りさせられた。




