第23話「罰」
「ただいまー……ユイト、戻ってたのか」
「ああ、お帰り。そしてただいま」
ドラゴンとの戦いから3日。
もうしばらく泊まっていけというアスミちゃんをなだめすかし、我が家、もといセイラの家へと戻っていた。
「あのままじゃ貞操が危なかったからな……」
「? 何の話だ?」
「何でもない」
同衾しようとしてきたり、いっしょにお風呂に入ろうとしてくるアスミちゃんと過ごす3日間は、色んな意味でハードだった。
あの子に手を出してしまったら、サレン様に神罰を食らう気がする。
それにしてもあの子、キャラ変わりすぎじゃないだろうか。
これまでのツンケンした態度がウソみたいな豹変ぶりに、正直戸惑いっぱなしだ。
「アスミちゃんの話だともう大丈夫だって事だし。明日からまたここで頑張るよ。庭の畑も、中途半端な状態だからな」
「うむ。アスミ様が大丈夫というのなら大丈夫だろうが、無理はするなよ」
「ああ」
「ところで1つ聞きたい事があるのだが」
「ああ?」
「その『アスミちゃん』という呼び方は、どうしたのだ」
セイラがジトっとした目で俺を見てくる。
……逃れられなかったか。
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「……つまりアスミ様にそう呼べと言われたから呼ぶようになっただけだと」
「ああ、うっかり『アスミ様』と呼ぶと不機嫌になるから仕方なくだ」
「まあレベッカも『アスミちゃん』と呼んでるし、そこはよしとしよう。それより……」
セイラが、険しい目で俺を睨んでくる。
「貴様アスミ様に何をした」
「何もしてねえよ」
「それにしては貴様に対するアスミ様の態度がおかしすぎるのだが」
セイラにジトっとした目で見られ、俺はうろたえる。
確かに、これまで目の敵にされていたのに、今は親愛に満ちた態度で接してるのを見たらそう思われても仕方ないだろう。
いくら命を助けたとはいえ、あの態度は異常だ。
朝もアーンでご飯を食べさせようとしてきたし……
「貴様アスミ様に何かおかしな薬を飲ませたりしてないだろうな」
「してねえ。俺の方が戸惑ってるくらいだ。あの子、態度変わりすぎだろ」
「まあ、貴様のおかげか男嫌いが改善されて、イヤな顔をしなくなったので悪い事ではないのかもしれないが」
セイラの言う通り、あれだけ男の前でイヤそうな顔をしていたアスミちゃんが男性の前でも普通に接する事ができるようになり、アスミ様フィーバーがこの街で起きつつあるのだがそれは置いておこう。
「それはあの子が頑張ってどうにかしようと思ったからじゃないのか?」
「私にはそうは思えないのだが……。まあ、うん。ひとまずアスミ様の事は置いておこう」
そう言って佇まいを直したセイラが、正座で頭を下げる。
「改めて謝罪をさせてくれ。ユイト、この度は済まなかった」
「いい、とは言えないな。あの時は引くべきだった。お前の判断ミスでアスミちゃんやレベッカにまで危険が及ぶ所だった」
「そうだな……。あの時は完全に私の判断ミスだった」
「セイラ、お前自分より強い相手と戦った事なかっただろう」
俺の言葉に、セイラがピクッと身体を動かす。
図星の反応だ。コイツは自分より強い相手と戦った事がなかったのだ。
「お前は強い。確かに強いよ。でも世の中にはお前より強い奴がゴロゴロいるんだ」
「そんな事……」
「いるんだよ。まだ会った事ないだけだ。そう考えるのが冒険者の心得だって、俺の師匠が言ってたぜ」
「……」
ジンジャーから聞いた言葉に、セイラが納得いかない様子で目を逸らす。
どうにも響いてないようだ。
もう一回痛い目でも見ないと分からないのかもしれない。
「それより気になるのはあのドラゴンだ。なんでドラゴンが低レベルモンスターしかいないホブス山に来ていたのか。それが問題だ」
「それは私も気になっていた。人里離れた所に住むドラゴンがなぜあんな所にいたのか……」
「ドラゴンが元々いた場所にもっと強いモンスターでも現れて、ホブス山に逃げてでもきたか……」
「あるいは、魔王軍だな」
セイラの言葉に頷く。
100年程前に突如としてこの世界に現れた魔王。
その魔王が率いる魔王軍は度々人里を襲っており、モンスターもその存在を恐れている。
「こんな辺境の地に魔王軍が来るとは思えないが、サレン様が気になる事を言ってたからな」
「サレン様が? 何をだ?」
「これから俺が、魔王軍との戦いに巻き込まれるとか何とか……。そんな感じの事だよ」
俺の力が必要だとか云々は省いて、セイラにサレン様にお会いした時の話をする。
「フム……。ドラゴンが現れた事で、冒険者達に注意喚起はしているが事は大きくなりそうだな。この街の住人にも注意喚起しておくか」
「それがいいな。新しい教会もできた事だし、避難訓練でもしたらどうだ?」
「そうだな、そうするか」
教会はサレン様の力で守られているため、邪な人間やモンスターや魔王軍が近づけない聖域になっている。
そのため住民の避難場所としての機能もあるのだ。
「その前に、こないだ話した貴様の壊れた防具の弁償を……」
「それならもうギルドの冒険者補償で買い換えたぞ」
「何?」
「クリスが、教会に来たギルドの受付嬢が教えてくれたんだ。死亡補償の金も出るそうだ」
「そ、そうか。では何か他の物で償いをせねばな」
「そんなの別に……」
「いや、私の気が済まない。貴様に償いを、いや、罰を与えてくれ」
罰?
突然出てきた単語に、俺は戸惑う。
そんな俺をよそにセイラが、何やらモジモジした様子でこう言った。
「私に罰として……バインドをかけてくれ」
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普段着とは違う仕事着、黒のパンツスーツ姿のセイラが無防備に俺の前に立つ。
物置の中は薄暗く、イケナイ雰囲気を醸し出していた。
ピッチリとした黒のパンツスーツは、セイラのスタイルの良さを引き出しており、引き締まったヒップラインが際立っていた。
「……手を後ろに組んでくれ」
「あ、ああ」
俺に言われ、セイラが手を後ろに交差させる。
俺はバインド用のロープを取り出してセイラに放り投げた。
「『バインド』!」
「はうんっ!」
後ろ手に縛り上げられたセイラが、物置の床に転がる。
整った顔立ちに、縄で強調された胸、扇情的な尻から脚にかけてのライン。
1000人いれば1000人いい女だというだろうセイラの美貌。
……ここ3日間、生殺しのような状態で色々と溜まっていた俺にはたまらない景色だ。
ちょっと触るくらいなら許してもらえるだろうか。
いや、許してもらえるに違いない。
これは罰だ。
セイラも言っていたが罰だ。
お仕置きと称し尻を叩くくらいなら許して……
そう思い手を伸ばしかけた瞬間、
「ただいまー! あたしが王都から帰ってきたわよー!」
玄関から、レベッカの元気な声が聞こえてきた。




