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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第1章「バインドスキルではじまる男の物語」

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第22話「朝」

「んっ……」


 朝、目が覚めると妙な感触がする。

ふわふわとあったかく、それでいて柔らかく気持ちいい感触だ。

視界の隅に、水色の何かが見える。

手で触れるとサラサラで、触感はまるで上質な絹のようだ。

探るように夢見心地で手を動かすと、何か丸い物を掴む。

張りがあって、けれどもやわらかく、しあわせなさわり心地だ。


「あん……、ユイトさん、大胆……」

「えっ?」


 胸元で声がして、俺の意識が覚醒する。

そこに、裸の天使がいた。


「おはようございます」

「お、おはよう……」


 布団の中に、全裸のアスミ様がいる。

え? ナニコレ? どういう状況?

もしかしてアレ!? やっちゃったの!?

しかし俺は服を着ているし、その……下半身がスッキリした様子がない。


「あの、ユイトさん……。お尻から手を放して頂けると……」

「す、スマン!」


 手で触れているのが、アスミ様の尻だと気づき、慌てて手を引っ込める。


「ていうか何で!? 何でアスミ様が俺の布団の中にいるんだ!? しかも裸で!!!」

「わたし、普段裸で寝てますから」

「そういやこの子裸族だった! じゃなくて! 何で俺の布団の中にいるの!?」

「ユイトさんの魂は不安定な状態でしたから、同衾する事で安定した状態になるよう回復を早めたのです」


俺は昨日の事を思い出す。

1度死んだ後の身体と魂は、蘇生魔法で蘇っても不安定だ。そのため何かあってはいけないから教会に泊まるようアスミ様に言われ、早めに休むように仰せつかり、言いつけ通り夕飯を食べ風呂に入った後すぐ寝たはずだ。


「えっと……神官と同衾すると魂の定着と回復が早くなるのか?」

「はい」

「それって……他の蘇生した人にもやってるのか?」

「しません。バカな事言わないでください」

「……」


 サレン様の僕であるアスミ様はウソを吐けない。つまり同衾すると魂の定着と回復が早くなるというのは本当の事なのだろう。

そして他の人間には同衾しないというのも本当なのだろう。


「あの……アスミ様」

「アスミちゃん、です」

「え?」

「昨日約束したではないですか、アスミちゃんと呼ぶと。まあわたしはアスミでも構いませんが」

「……アスミちゃんでお願いします」


 やや不満そうながらも、アスミちゃんが頷く。

そういやそんな約束したっけ……。って、そんな事よりも。


「アスミちゃん、その……俺の回復を早くしてくれたのはありがたい、それはお礼を言いたい。ありがとうございました」

「どういたしまして」

「でもその、男のベッドに裸で同衾するのはどうかと思うんだ。襲われでもしたらどうするんだ?」


 身体を起こして下着を着け、神官服を着始めたアスミちゃんから目を逸らしながら、俺は彼女をたしなめる。

服を着終えたアスミちゃんが、少しはにかんだ表情で俺を見つめた。


「先ほども言いましたがユイトさん以外にこんな事しません。それに襲われても構いませんでしたよ?」

「は?」

「返り討ちにしてさしあげましたので」


 杖を構えながら、アスミちゃんがフフンと笑う。

そりゃなあ……レベル4の俺と高レベルらしいアスミちゃんじゃ勝負にならないだろうしなあ。今の俺は丸腰でバインド用のロープもないし。


「……まあ、襲われても抵抗する気なかったのですが」

「え?」

「何でもありません。さあ、ユイトさん。起きましょう。サレン様に朝の礼拝を捧げますよ!」

「あ、ああ……」


 アスミちゃんが小声で言った何かが聞き取れず、聞き返したけれど答えてもらえず、俺は立ち上がる。

そしてある異変に気づいた。

俺のパジャマのズボンと下着、ちょっと下がってる……




****************************




「んー……魂は定着したようですね。今夜は同衾しなくてもよいようです」

「そ、そうですか……」

「同衾したいのですか? したいのであればわたし今夜も……」

「いい! いいです!」

「したいという意味ですか?」

「しなくてもいいという意味です!」


 俺の返事に、何やら残念な顔をしながらアスミちゃんが俺の胸から顔を上げる。

魂の定着とやらを調べるのに、胸に顔を当てる必要があるのだろうか。

聞いてみたい気もするがなんか怖いので聞くのをやめておく。


「ですが一度死んでいるのですからしばらく激しい運動等は禁止です。軽い程度で済ませてください」

「わ、分かった」

「軽い運動であれば、感覚を取り戻す意味でもよいでしょう。ちょうど教会の庭に雑草が生えてきた所です。草むしりをお願いしてもいいですか?」

「分かった。しておこう」

「わたしは昼までこの街の人達の懺悔を受けなければなりません。本当はいっしょにいたいのですが……」


 アスミちゃんが何かを言いかけた所で、扉がバタンと開く。


「ユイト! 目を覚ましたのか!」


 セイラだ。

出勤前らしいセイラが仕事着で教会に立ち寄ってきた。


「ああ、アスミちゃんのおかげで無事生き返れた」

「そうか! よかった! ……うん? アスミちゃん?」

「それよりセイラ、お前あのドラゴン倒したんだって?」

「あ、ああ……。貴様のかけたバインドのおかげで身動き取れなくなっていた所を仕留めた。それよりユイト、アスミちゃんとは……」

「そりゃよかった。レベル上がっただろ」

「全然よくない!!!」


 セイラの大声が、建物を震わせる。

アスミちゃんがしかめ面で耳を押さえた。


「貴様が死んだんだぞ! いい訳あるか!」

「お、おう…」


 命を捨てるような真似をした事を責められるかと思ったが、セイラが怒っているのは自分のふがいなさに対する怒りのようだ。

セイラはシュンとした様子で、俺とアスミちゃんに頭を下げた。


「……済まなかった、すべては私に責任がある。貴様の言うとおり逃げるべきだった。アスミ様も、危ない目に遭わせてしまい申し訳ありません」

「セイラさんのせいではありません。ユイトさんが死んだのは、足が竦んで動けなかったわたしのせいです。支援魔法もかけられませんでしたし……」

「アスミ様は悪くありません。すべては私の責任です」

「いえ、わたしのせいです」

「いや、私の責任だ」

「いえ、わたしのせいです」

「ま、まあまあ、そもそもホブス山にポンポンナッツのクエストに行こうと提案した俺の責任……」

「「それは絶対にない(ありません)」」

「お、おう……」


 2人に強く否定され、俺は身が竦む思いがする。


「貴様がいなかったら全滅もありえた。私が貴様の言う事を聞かずドラゴンと戦う事を選んだ事に責任がある」

「いえ、わたしが足が竦んで動けなかったせいです」

「私だ!」

「わたしです!」

「……なあ、それよりレベッカはどうしたんだ?」


 あの場にいたもう1人の当事者の所在を尋ねると、ヒートアップしかけていたセイラとアスミちゃんが2人同時に俺の方を向いて答える。


「レベッカさんなら王都に行きました」

「そうだ、王都に行った」

「王都に? 何しにだ?」

「テレポートのスキルのレベルを上げにだ。あの時テレポートで全員移動できていたらと責任を感じたらしい。もっとも責任は私にあるがな」

「いえ、わたしにあります」

「私だ!」

「わたしです!」


 再び責任問題を巡ってヒートアップしかけるセイラとアスミちゃん。

俺は取りなすように2人に声をかけた。


「責任問題は俺達全員にある。反省は今度ちゃんとしよう。それより2人ともいいのか? アスミちゃんは告解の準備、セイラは仕事があるんじゃないのか?」

「「あっ」」


 俺に言われ、アスミちゃんとセイラがそうだったと言わんばかりに時計を見る。

時刻はもう8時半。

セイラの仕事は9時始まりだし、教会に懺悔に来るサレン様信者は朝が早いお年寄りが多いだろう。つまり、もう時間がない。


「……仕方ない。この件については貴様の言うとおり後で反省しよう」

「ユイトさんのおっしゃる通りです。反省は後にしましょう」


 ソワソワした様子で、セイラは鞄をかけ直し、アスミちゃんは食後のお茶を呷った。神官らしからぬ豪快な飲みっぷりだ。そういえばこの娘、酒飲みだった。昨日も夕飯中高いワインをガッパガッパと飲んでたし……

 お茶を飲み干したアスミちゃんが、早くも来て始めているお年寄り達を告解の部屋へと案内しに向かう。

それを見たセイラも、靴紐を結び走る用意を始めた。


「それじゃユイト、夕方にまた来るからな。アスミ様に言われたと思うけど蘇生されたばかりだから無茶はするなよ」

「ああ、軽く身体を動かす程度にしておくよ」

「それと……昨日の件は済まなかった。壊れた防具は私に弁償させて欲しい」

「もう謝るな。それに俺の防具なんて安物だから大した額じゃない」

「なら良い防具を……」

「つける筋力がない」


 低レベル低ステータスのため、俺がつけているのは初心者用の防具だ。

それ以上の物となると、重すぎて装備はできても動けない。

レベルアップでもすりゃあ、装備できるかも知れないけど……


「……む、そうか。では何か他の物で償わせてもらおう。スマン、そろそろ行かねばマズい。急ぐのでな」

「ああ、気をつけて行けよ」

「ああ」


 俺の言葉を受けて仕事先の領主の館に向かおうとするセイラ。

よし、これで「アスミちゃん」の件は逃げられそうだ。

しかしセイラが、何かを思い出したように俺へと振り返った。


「……夕方にはアスミ様を『アスミちゃん』と呼んでいる件についてきっちりかっちり説明してもらうぞ。よいな」


 それだけ言い残して、セイラが駆け出していく。

高レベル高ステータスだけあって、すごい速さだ。

そして「アスミちゃん」の件については、逃げられていなかった。

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