第20話「ファースト・●ス」
突然現われた赤い身体のドラゴン。
大きさは5mほどでしょうか、大きなアゴに、鋭い牙、鋭い爪、太い尻尾を引きずっている、やや太めの身体のドラゴンです。
大きい物だと50mほどのドラゴンもいる中では小さいドラゴンかも知れません。
ですが、人間にとっては十分脅威的なドラゴンです。
「シッ!」
真っ先に動いたのはあの男でした。
何かを投げるとドラゴンに直撃し、ドラゴンの周囲が煙に包まれます。
「オイ! 逃げるぞ!」
あの男が私達に呼びかけます。
しかしセイラさんは剣を抜き言いました。
「騎士たる者、そして領主の娘として逃げる訳にはいかん! 領民を守るため、あのドラゴンを退治する!」
「バカ! 勝てる相手じゃない! ここは一旦引いて……」
「ハアアアアッ!!!」
あの男の言葉を聞かずに、セイラさんがドラゴンに斬りかかります。
高レベルのモンスターといえど真っ二つにする大剣の一撃。
「なっ……!?」
しかしドラゴンはあっさり鋭い爪で、セイラさんの大剣を弾きます。
「グオオオオオオオオオオ!!!!!」
そして大きな口を開けてセイラさんにかじりつこうと……
「『フレイム・インパクト』!」
する前にレベッカさんの炎の魔法に包まれます。
高レベルモンスターすら消し炭にする一撃。ですが……
「ウソでしょ!?」
炎の中で悠然と立つドラゴンに、レベッカさんが驚愕の声を上げます。
「ドラゴンに炎は効かないぞ! ドラゴンの弱点は氷魔法だ! レベッカ! 氷魔法を使え!」
あの男がレベッカさんに向けてドラゴンの弱点を告げます。
「……使えないの」
「ああん!? 何だって!?」
レベッカさんがうつむいて何かボソボソ言います。
耳のいいわたしには聞こえましたが、あの男には聞こえなかったようです。
レベッカさんが大きな声で言い直します。
「使えないのよ! あたしは炎魔法以外、使えないの!」
「っ!」
あの男は顔をこわばらせた後、すぐに懐に手を入れてまた煙玉を投げます。
太めの身体のせいか、動きの鈍いドラゴンは煙に視界を塞がれ不快そうな声を上げます。
「『バインド』! ならテレポートだ! テレポートでここから逃げろ!」
「ダ、ダメよ! あたしのテレポートは3人までしか移動できないの!」
「ならお前とセイラとアスミ様の3人で逃げればいいだろ!」
「なっ!? 低レベルのアンタ1人を見捨てて逃げろっての!? できる訳ないでしょ! そんな事!」
「いいから逃げろ! 全滅するよりはマシだ!」
バインドでドラゴンの口を封じ、あの男がレベッカさんに逃げるよう指示を出します。
「……私も同感だ。貴様だけ残して逃げる事などできん!」
セイラさんが大剣を振り上げドラゴンに飛びかかります。
さきほどより威力を上げる一撃。当たればドラゴンといえどただでは済まないでしょう。
しかし……
「ぐうっ!?」
ドラゴンが振り回した太い尻尾が、斬りかかろうとしたセイラさんの横腹を強打します。
セイラさんは吹っ飛ばされ、したたかに地面に打ち付けられながら転がります。
「セイラ!」
「クソっ! この分からず屋共が……!」
あの男が懐からまた何かを取り出します。
しかし何やら躊躇しています。
その視線の先には……
「……あっ」
わたしはあの男が何かを投げない理由。そしてドラゴンの注意を引くように戦っていた理由を悟ります。
わたしです。
足が竦んで動けなくなったわたしを庇って、戦っていたのです。
足が竦んでドラゴンの近くにいるわたしを。
「デカブツ! こっちだ!」
わたしから遠ざけるように、あの男が懐に手を戻し、黒い玉のような物を投げてドラゴンの注意を引きます。
しかしドラゴンは動きません。
何かに気づいたように、後ろを振り返り……わたしと目が合います。
「あっ……」
「アスミ様!」
「アスミちゃん!」
セイラさんとレベッカさんの、焦ったような声が辺りに響きます。
「『サ、サンクチュアリ』!!!」
わたしは聖なる魔法で、防御のバリアを張ります。
わたしを包むように現れるドーム状の光のバリア。
「ルオオオオオオオオオオ!!!!!」
バインドを引きちぎったドラゴンの爪と牙がバリアに容赦なく襲いかかります。
「くっ……! ダメ……!」
「アスミちゃん! 『インフェルノ』!」
レベッカさんの炎の魔法がドラゴンに襲いかかります。
しかしドラゴンは一顧だにしません。
わたしに襲いかかり続けます。
「アスミ様!」
「ちっ……!」
あの男とセイラさんがわたしに向かって駆け出します。
ドラゴンは2人をチラと見た後、尻尾を大きく振り回します。
「ぐうっ!?」
セイラさんが尻尾の直撃を食らい大きくはね飛ばされます。
ドラゴンはわたしの方を向き返り、攻撃を再開します。
「グオオオオオオオオオオ!!!!!」
「ああっ……!?」
光のバリアがドラゴンの爪で粉々に砕かれます。
ドラゴンが、大きな口を開けてわたしに迫り……
「『バインド』!」
突然わたしとドラゴンの間に黒いマントが割り込みます。
マントはドラゴンの顔を覆い、その上からロープが巻き付いてドラゴンの目と口を封じます。
あの男です。
どうやってドラゴンの尻尾を躱したというのでしょうか。
レベッカさんの話では、とても弱い冒険者のあの男が高レベルのセイラさんでも躱せなかった攻撃をどうやって。
しかしそんな事を疑問に思っている暇はありませんでした。
「ルオオオオオオオオオオ!!!!!」
視界を塞がれたドラゴンが、マントを外そうと暴れてバランスを崩します。
その大きな足の裏が、
わたしを踏み潰さんと迫ってきていました。
「あっ……、あっ……」
逃げないと。
しかし腰が抜けてしまい動けません。
「間に合えっ!!!」
「え? ああっ!?」
突然衝撃がして、わたしの身体が突き飛ばされます。
あの男がわたしを両手で突き飛ばしたのです。
突き飛ばされたわたしは、セイラさんにキャッチされます。
でも、あの男は。
「ぐ、おおおおおおおっ!?」
ドラゴンの足が、わたしがいた場所、今はあの男がいる場所を踏んづけます。
「ユイトっ!?」
セイラさんがわたしを離し、あの男の名前を呼びます。
すぐに大剣に手をかけ走り出そうとしたのですが、もう手遅れでした。
ドラゴンの足が大地を踏みしめます。
あの男は、ドラゴンに踏み潰されたのです。




