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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第1章「バインドスキルではじまる男の物語」
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第19話「ポンポンナッツ」

 レベッカが足で蹴飛ばしたポンポンナッツがポン!ってなる。


「にゃわあっ!?」

「アスミ様! あれです!」

「はい! えいっ!」


 ポン!ってなったポンポンナッツを、アスミ様が杖で軽く叩く。

ポンポンナッツは一撃で動かなくなった。


「アスミ様! やりましたね!」

「はい! 楽しいです!」


 ポンポンナッツ退治は簡単だし、ストレス発散にもなるのでアスミ様も楽しそうだ。

俺はアスミ様が退治したポンポンナッツを籠に入れた。

一方ポンポンナッツにポン!ってなられたレベッカが樹液まみれの顔や服をタオルで拭きながら不満そうな声を上げた。


「何よこのポンポンナッツってモンスター! なんであたしばっかポン!ってなるのよ!」

「なんだレベッカ、お前ポンポンナッツの見分けつかないのか」

「私はすぐ分かったぞ」

「わたしもすぐ分かるようになりました」

「分からないわよ! 普通の木の実と何が違うのよ!」

「顔が違うだろ」

「顔が違うな」

「音が違います」

「顔って何よ! 木の実に顔なんてないわよ!」


 キーキー言うレベッカに俺達は顔を見合わせ肩を竦める。

そもそも大きさが違うだろ。他の木の実は小さいけど、ポンポンナッツはかなり大きいんだから見分けが付きそうなのに……

そんなレベッカがまたポンポンナッツを足で蹴っ飛ばしポン!ってなったのを、アスミ様が声を上げて笑う。

その笑顔は本物の天使のようだ。いつもこの顔ならいいのに。

ポンポンナッツをダガーで叩き、回収しながら俺は思う。


「なんだユイト、アスミ様に見惚れてるのか?」

「違う違う。あの顔が男の前でもできりゃいいのになって思っただけだよ」

「そうだな。ただあの顔を見れるのは私達だから、それを独り占めしたい気持ちもあるがな」

「そうだな」


 その気持ちは分からなくはない。

あの笑顔は反則だ。年が離れてなけりゃ惚れてるんじゃないかと思うくらい可愛い。

これまでの印象が吹き飛ぶくらい可愛い。


「……何だよ」

「いやあ? 貴様もようやくアスミ様の魅力が分かってきたかと思ってな」


ニヤニヤしながら肘で小突いてくるセイラから、目を逸らす。

魅力も何も、初対面の時から天使みたいな見た目に魅入られただけに初めから分かってる。

あの子が悪い子じゃないって事くらい。


「……っと、これでポンポンナッツは全部退治したみたいだな」

「そうなのか?」

「ああ、ポンポンナッツは一カ所に固まっているから近くにしかいないんだ」


 俺は焚き火とコンロの用意をしながら、ポンポンナッツが入った籠を近くに置く。


「何してるのだ?」

「見て分かんねえのか、焼く用意だよ」

「この場で焼くのか?」

「ああ、新鮮な方がうまいからな」


 セイラの問いかけに答え、ポンポンナッツを焚き火の上にセットした網に載せる。

すぐに香ばしい匂いが漂い始めた。


「うわあ……いい匂いね」

「はい、すごく香ばしい香りがします」

「ああ、ポンポンナッツは焼くとうまいんだ。生だと苦くて食えたもんじゃないがな」

「生だと苦いのか」

「ああ」


 俺は焼けたポンポンナッツをトングで紙皿の上に載せ、アスミ様へと差し出す。


「どうぞ、熱いから気をつけろよ。外側の皮を剥いて食べるんだ」

「あ、ありがとうございます」


 少し不安そうに、ポンポンナッツを受け取るアスミ様。

おそるおそる茶色い皮を剥き、ポンポンナッツに小さな口でかぶりつく。


「これは……! すごく香ばしくて甘いです!」

「甘いんだ!」

「ああ、甘い」

「ユ、ユイト、私達にも食べさせてくれ」


 ソワソワし始めたレベッカ達に、ポンポンナッツを紙皿に載せて配る。

レベッカとセイラは、熱い皮を慎重に剥いて、ポンポンナッツにかじりついた。


「これは……すごく甘いな!」

「ええ! 焼き芋みたい!」

「そんな感じだな」


 俺も1個ポンポンナッツを食べながら、セイラ達に頷く。

セイラ達は、物欲しそうに焼けているポンポンナッツを見ていた。


「……俺は食べ慣れてるから、残りはお前達で食えよ。全部焼けてるから」

「いいの!?」

「で、では……遠慮なく」

「あ、ありがとうございます」

「おう」


 ポンポンナッツごときで、ここまで喜ばれるとは思わなかった。

残りのポンポンナッツを均等にセイラ達に配り終えてから、焚き火を消す。

白くたなびく煙が、青い空へと架かっていった。

木の陰から鳥が飛び出す。その数が少し多いような気がした。

ポンポンナッツを食べ終えたセイラ達が、満足そうに息を吐く。


「ふう、ごちそうさまでした。まさかモンスターがこれほど旨いとは知らなかったぞ」

「ポンポンナッツだけだぞ。他はどう料理しても臭いしマズいし食えたモンじゃないってジンジャーが言ってた」

「ジンジャー?」

「アスミ様は知らないか。私も会った事はないが、この男の師匠ですごい冒険者だそうだ」

「あたしは会った事あるけどアレは相当な手練れね。魔王の幹部クラスじゃないかしら」

「いや、それ以上だぞ。昔魔王の幹部を1人倒したらしいから」

「ほう。それはやはり是非一度お会いしたいものだな」

「難しいと思うぞ。世界中を旅してるからフラっと何ヶ月も帰ってこない事が多いし」


 セイラ達と話をしていると、レベッカが何やら鼻を鳴らし始め、アスミ様がこわばった顔で耳に手を当てる。


「何か……ヤバイ匂いがするわ」

「ハイ……ヤバイ音がします」

「ヤバイ匂い?」

「ヤバイ音?」

「高レベルモンスターの匂いよ。それも相当ヤバイ奴だわ」

「何か大きな物が近づいてくる音です。何かを……引きずるような?」


 2人してそんな事を言うレベッカとアスミ様。

俺とセイラはダガーと大剣を抜き辺りを見回し集中する。

匂いとやらは分からないが、何やら大きな足音がする。何かを引きずるような音も。

 林の陰から突然、その音を立てていたモンスターがヌッと姿を現す。

それは、

赤い身体のドラゴンだった。

*レベッカ・アスミ・セイラはそれぞれ人より感覚に優れているところがある。

(レベッカは嗅覚、アスミは聴覚、セイラは視覚)

 ユイトは、どれもごく平凡。

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