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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第1章「バインドスキルではじまる男の物語」
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第18話「クエスト爺さん」

「……一体全体、どこへ連れて行こうというのですか」


 レベッカに手を引かれ、ゲンナリとした顔をしながらアスミ様が歩く。

その足取りはいかにも重く、心底イヤそうだ。


「冒険者ギルドだよ」


 冒険者ギルドの扉を開きながら、俺は答える。

昼近い事もあり、人の数はまばらだ。

冒険者達の朝は早く、もうクエストに出かけたりしたのだろう。

入り口近くの席では、いつも1人でいるワシ鼻でスキンヘッドの小男が何やら本を読んでいた。


「だろうと思った。けど誰に会わせるつもりなの?」

「クエスト爺さんだよ」

「クエスト爺さん? ……ああ、前にアンタ話してたわね。確か初心者向けのクエストを紹介してくれるおじいさんでしょ?」

「そうだ」


 今朝冒険に行く装備をつけていくよう言った時点で気づいていたらしいレベッカの言葉に頷きながら、俺はいつもの席でニコニコしているクエスト爺さんに向かい歩く。

一方セイラは、何やら驚いた表情になっていた。


「ク、クエスト爺さんだと……!? 毎日どこに出かけてるのだろうと思っていたが、そんな事をしてたのか……!?」

「? セイラ? どうかしたのか?」

「どうかしたも何も、あれは私のおじい……いや、何でもない」


 咳払いをしながら、何やら気まずそうに後ろに下がるセイラ。

レベッカが何やらニヤニヤしている。何だ? 何かあんのか?

一方アスミ様は、クエスト爺さんを見てスッと目を細めていた。


「悪い人ではなさそうですね。では、わたしはこれで……」

「コラ逃げるな。頑張って話しかけて来い」

「……仕方ありませんね。あの方なら多少マシそうなので頑張ってみます」


 ハアっとため息を吐いてから、アスミ様がクエスト爺さんへと向かう。


「こ、こんにちは」

「おお、こんにちは」


 クエスト爺さんが、ニコニコとアスミ様に笑いかける。

白いヒゲを蓄え、丸眼鏡の奥にある目はやさしく、丸々とした身体はぬいぐるみを思わせる威圧感のないクエスト爺さんに、さしもの男嫌いもイヤな顔はしなかった。


「ふう、今日はこのくらいにしておいてあげましょう」

「オイコラ、何一仕事やり遂げたみたいな顔してんだ。もうちょっと頑張れ」


 一言挨拶を交わしただけで、立ち去ろうとしたアスミ様だが、俺の言葉と、セイラからの無言の圧力に、渋々上げかけた腰を下ろす。


「クエスト爺さん、この子この街に来た新しい神官の子なんだ」

「おお、そうかい。名前は何と言うのかね?」

「……アスミです」

「アスミ様だね。この街にようこそ。これからよろしく頼むよ」

「は、はい。承りました」


 受け答えがよそよそしく、たどたどしいアスミ様を見ても、クエスト爺さんはおかしな顔をする事なく人の良さそうな笑みでウンウンと頷いていた。

アスミ様もクエスト爺さんなら大丈夫なのか、イヤな顔をせず質問された事に答えている。


「どうだ? 俺の人選は間違ってなかっただろ?」

「そりゃそうだろ、だってあの人は……」

「ん?」

「……いや、何でもない。しかしあれで男嫌いが克服できるとは思えんぞ」

「だろうな」

「は?」

「そんな簡単に克服できるとは思ってねえよ。あの子がどうして男嫌いになったのか分かんねえし、あの子自身が直そうと思わない限り無理だろ」

「……」

「まあこれから気長にやっていくしかないだろ。フォローはするんだろ?」

「もちろんだ。私がアスミ様をお助けしない理由はない」


 豊かな胸に手を当て答えるセイラ。相当な忠誠心だ。

よほどアスミ様が怪我人を助ける姿に感銘を受けているらしい。

と、アスミ様がこちらをチラチラ見てるのに気がついた。

どうやら話題が尽きたらしい。

俺は助け船を出すように、クエスト爺さんに声をかけた。


「クエスト爺さん、今日は何かクエストはないか? 軽くできそうな簡単な奴」

「そうじゃのう……。ポンポンナッツ退治なんてどうじゃ。クエスト達成の報酬は5000マニー」

「「「ポンポンナッツ???」」」


クエスト爺さんが出したクエストに、セイラ・レベッカ・アスミ様が小首をかしげる。


「なんだお前ら、ポンポンナッツを知らないのか?」

「初耳だ」

「あたしも知らないわよ」

「……わたしも知りません」

「ポンポンナッツは木の実のモンスターだよ。地面に落ちてて足に当たったり拾おうとしたらポン!ってなって人を脅かすんだ。食べるとうまい」

「食べるとうまいのか」

「ポン!って何よ」

「ああ、焼くとうまい。まあポン!ってなるだけで害はそんなにないし、剣か杖で軽く叩けば倒せる。経験値は1しかないけどな」

「ポン!って何よ」

「ポンポンナッツがホブス山に現われて木こりや山菜採りの人達が困っとるんじゃ。なんせいきなりポン!っとなるからのう」

「ポン!って何よ!」

「アスミ様、参りますか?」

「……せっかく紹介して頂いたのです。行きましょう」

「よし、じゃあ決まりだ」


 ポン!って何よ!と声を上げるレベッカを無視し、セイラとアスミ様、そして俺はクエスト爺さんの依頼を受ける事を決める。

ホブス山は高レベルモンスターがいないし、初心者でも安全な所だ。

俺達は装備を調え、のんびりハイキング気分でホブス山へと向かった。

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