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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第1章「バインドスキルではじまる男の物語」
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第16話「男嫌いの神官③」

「商工会長、こちらが新しい神官のアスミ様です」

「これはこれは、レイフォード領にようこそいらっしゃいました。我々一同、歓迎致します!」

「……」


 商工会長の気のよさそうなおっさんが、アスミ様に向けて手を差し出す。

けれどもアスミ様は、その手をジッと見るだけで動かない。


「? どうされたのですか? アスミ様?」


 握手してくれないアスミ様を、商工会長が怪訝な顔で見る。

アスミ様はどうにか握手をしようと手を動かしては引っ込めたりしてるが、無理らしい。

顔は赤くなり、一筋の汗が頬を流れた。


「商工会長、アスミ様は昨日御手をおケガされたのです。申し訳ありませんが握手はご遠慮頂けますか?」

「おお、そうですか。それはそれは、お大事にどうぞ」


 俺のウソを信じた商工会長が、アスミ様をいたわる表情をしながら手を引っ込める。

アスミ様は一瞬だけ驚いたように俺を見たが、すぐプイッと目を逸らす。


「本日はお越し頂きありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します」

「はい。こちらこそよろしくお願い致します。では私はこれで」


 丁寧に頭を下げるアスミ様に、商工会長が礼をして教会から出て行く。

 いっしょにいたセイラが、俺に向けて呆れた表情をする。

呆れた表情をしているが、その口元は笑っていた。


「まったく、手にケガなどとウソを吐いて。貴様は悪い奴だな」

「ウソも方便だ。気まずくなるよりいいだろう」


 一方アスミ様は、少しバツが悪そうに俺を見ていた。


「……礼は言いませんよ。ありがとうございました」

「前後の脈絡が合ってないぞ。どういたしまして」


 プイッと目を逸らすアスミ様。天使みたいな見た目なのに素直じゃない娘だ。


「しかしあの人の良さそうな商工会長のおっさんでも無理か。男嫌いは筋金入りだな」

「おっさん言うな。この街で一番大きな会社の経営者だぞ。……しかし確かにあの人でも無理とは厳しいな」


 セイラがげっそりとした顔で俺の言葉に同意を示す。

朝から街の有力者達との顔合わせをさせている中で、フォローに回りっぱなしで気疲れが溜まったようだ。


「なあユイト、誰かいい男を知らないか。イケメンで背が高くて性格もよくて、アスミ様の男嫌いを克服できそうな男は」

「いるかそんな奴。……でもそうだな、イケメンではないが1人よさそうな人間を知っている」

「本当か! 今度アスミ様に会わせてくれ!」

「……そのような必要ありません」


 盛り上がるセイラを尻目に、アスミ様がプイッと言い捨てる。


「アスミ様……。無理に男嫌いを克服しろとは言いません。ですが、少しでいいのでこの男が言ういい奴とやらに会ってみて下さい」

「遠慮します。この男の言う事なんて信じられません」

「確かにうさんくさいですし、信用するのは難しそうですが、騙されたと思って会ってみて下さい」

「オイ、お前俺を信用してないのか」

「貴様はなあ……。性根は意外と真面目らしいが、交友関係となるといかがわしい人間しかいなさそうだからなあ」

「ちゃんとした人間もいるぞ。リリーとかリリーとかリリーとか」

「1人しかいないではないか。レベッカから話を聞いたがそのリリーさんとやら、私はまだ会った事ないから今度紹介してくれ」

「紹介してもいいが、リリーは人見知りだからな。レベッカみたいにお前と話が合うとは限らんぞ。それに前みたいに毎日ギルドに来てる訳じゃないから、日にち合わせないといけないぞ」

「構わん、後ジンジャーさんという人も紹介してくれ」

「そっちは難しいと思うぞ。神出鬼没で何ヶ月もフラっと帰ってこない事が多いし」


 セイラと2人で話していると、アスミ様が少し疲れた様子で息を吐いた。

朝から夕方まで取っ替え引っ替え人に会わされて疲れたのだろう。


「セイラさん、もう休んでいいですか? 朝から人に会い続けて疲れました」

「はい、休まれて大丈夫ですよ。何か必要なものはありますか?」

「今日の所はもう大丈夫です。レベッカさんもこちらに泊まってくれていますし、必要な物があれば今度まとめておきます」

「かしこまりました。では私達はここで失礼します」

「……」

「……あの」


 セイラと2人で去ろうとすると、アスミ様に呼び止められた。


「今日は色々と、ありがとうございました」

「……おう」


 最後の最後で、礼を言ったアスミ様に俺は少し驚く。

可愛い所もあるじゃないか、まだ俺にイヤそうな顔向けているけど……

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