第14話「男嫌いの神官①」
「……確かに、わたしはあなたに攻撃魔法を放とうとしました。その非は認めましょう。死んで下さい」
「オイ、前後の脈絡が合ってないぞ。すみませんでした」
バインドされたまま、俺を睨むアスミ様。
男嫌いという事だが、この嫌われ方は異常だ。
「なあ、この娘どの男に対してもこんな感じなのか?」
「い、いや……男を前にするとイヤそうな顔をするのはいつもの事だが、これほどまでではないはずだ。アスミ様、いかがなされたのですか?」
「この男からは多大なる嫌悪感と不浄の気配を感じます」
「まったくもってその通りね。ユイト、消えなさい」
「ひでえな」
不浄の気配と言われると、何とも言えない。
実際いかがわしい仕事に関わっていた訳だし、俺は……
そうこうしている内に、30分ほどが経ちバインドの効果が切れアスミ様の縄が解ける。
アスミ様は俺の事を睨みつけながら立ち上がり、杖を構えた。
「『ホーリー…』」
「おっとアスミ様とやら、やめておけ。俺のバインド用の縄はあと2本あるぞ。バインドを食らいたくなかったら攻撃をやめるんだ」
「……仕方ありませんね。あなたを消すのはまた今度にしましょう」
不服そうにしながらも、アスミ様が杖を手放す。
いや、消そうとするのをやめてもらいたいんだけど。
セイラを見ると、珍しく困ったような顔を浮かべていた。
「この男なら大丈夫かなと思ったんだが……完全に人選ミスだったようだな。しかしアスミ様。いつまでもそのようでは困ります。神官たる者、男相手でも仕事していただかなくては」
「男性相手でも仕事はちゃんとします。ただし、イケメンに限ります」
「なめてんのか」
ふざけた事を言う神官様に、思わずツッコむ。
こんなんで大丈夫なのだろうか?
「アスミちゃんの男嫌いは筋金入りね。でもこの男はともかくこの街の人はいい人達が多いわよ。ここで過ごしていたら少しはよくなるんじゃないかしら?」
「イケメンと女性だけの領地にチェンジを願います」
「むしろこっちがチェンジ願いたいわ。セイラ、他の神官にチェンジだ、チェンジ」
「できるか。アスミ様もワガママおっしゃらないで下さい。ただでさえ神官の数は少ないのです。この街は冒険者も多くアスミ様の力が必要なのですから」
困り切った顔で、セイラがアスミ様を説得する。
さすがに気の毒に思ったのか、アスミ様もバツが悪そうな顔になる。
「まあサレン様の神託もありましたのでここで頑張りましょう。セイラさん、案内をお願いします」
「かしこまりました」
セイラに案内され、アスミ様が教会の中を進む。
俺はその後ろを付いていきながら、レベッカに話しかけた。
「なあ、今サレン様の神託って言わなかったか? この子、神託を受けられるのか」
「ええそうよ、アスミちゃんはすごいんだから。神官の中でも唯一、サレン様の神託を受けられるの」
「そりゃすげえな」
「っていうかユイト、もしかしてサレン様教徒なの?」
「ああ、俺は農家の出な上冒険者だからな。豊穣の女神で冒険者の女神でもあるサレン様信者だよ」
豊穣の女神であり、冒険者の女神でもあるサレン様。
信者数が多く、この国の国教の存在と言っていいだろう。
教会に飾られている女神像が美人な事も要因な気もするけど……
俺達の会話が聞こえていたらしいアスミ様が、チラッと俺を見る。
同じサレン様信者という事で少しは印象よくならないだろうか。
しかしチラッと見た後はぷいっと目を逸らされた。道のりは険しそうだ。
「アスミ様、こちらから居住スペースです」
「フム、悪くないですね」
「こちらがキッチンです」
「悪くないですね」
「こちらがお風呂です」
「悪くないですね」
「こちらがワインセラーです」
「悪くないですね。ですがワインが足りません。これではすぐ飲み干してしまいます。買い足しておいてください」
「かしこまりました」
「オイコラ未成年」
聞き捨てならない事を言った少女に、俺はツッコむ。
「なんですか?」
「なんですか?じゃないだろ。こんだけあって足りないってなんだ。ていうかどう見ても未成年だろ。飲んでいい歳じゃないだろ」
「問題ありません。子供の頃から飲んでいますので飲み慣れています」
「そういう問題じゃねえだろ」
「ユイト、教会の中では神官は神聖な存在だ。王族も法律も手出しできない治外法権なのだ」
「納得いかねえ……」
「納得いかなくてもそういうものなのだから仕方ないだろう。ユイト、金をやるから今度ワイン買ってきておいてくれ」
サラッと仕事を押しつけられた。よし、安物を買って来よう。
「……言っておきますがわたしは高級品以外は嗜まないし、受け付けませんからね。安物を買ってきたら全部あなたの自腹で高級品に買い直させます」
しかしもくろみを見抜かれたのか、アスミ様に釘を刺される。
この未成年、ホント生意気だな……
「それにしてもセイラ、随分腰が低いというか、言いなりだな」
「当然だろ。このような辺境の領地にお越し頂いているのだから。領主の娘としてもてなすのは当然だ。貴様も私の部下なのだからアスミ様の言いつけには従え」
「そうなのですね、では消えて下さい」
「断る」
早速無茶な事を言いつけてきたアスミ様の頼みを、俺は断りバチバチと視線を交わす。
「ハア……、どうやら相性最悪のようだな。ユイト、もういい。貴様は買い物に行ってきてくれ」
「買い物?」
「アスミ様の夕飯と朝食だ。ついでにワインも買ってこい。いいか、このリストの通り買ってこいよ」
「……へーい」
納得いかないし、このアスミ様のために働くなんぞゴメンだが、仕事なら仕方ない。
俺はセイラから金とリストを受け取り買い物へ出て行った。
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「ただいまー…」
セイラから頼まれた買い物を済ませ、教会へと戻る。
夕飯と朝食は軽いが、ワインが重い。1本数万するワインを十数本だ。そりゃ重いわ。
両手で去年の俺の年収を超えるワインを抱えながら、俺は教会の居住スペースへと入る。
この量と額のワインを、あの小さい子が飲み干すとか信じられない。
バアさん神官とはえらい違いだ。あのバアさんは欲もないし、お布施のお菓子なんかを金のない俺達に恵んでくれていたのに。
そんな事を考えながら居間の扉を開けると、
生まれたままの姿の天使がいた。
「……えっ?」
「……えっ?」
髪をタオルで拭いている全裸のアスミ様だ。
水に濡れた美しい水色の髪、
水に濡れた美しい白い肌、
その白い肌が形作る身体のラインもまた美しい。
まさに天使のようだ。
その天使の瞳がみるみる涙目になっていく。
「…………キャーーーーーーーーーーーーー!!!!?」
そして当然、大きな悲鳴を上げられた。
……どうしてこうなった!
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