第130話「親友同士の話」
「そっか、リオン様との婚約断ったんだ」
「……ああ、やはりリオン様とそういう関係になるというのは想像できなくてな」
私の家の居間で、私はお茶を啜りながらレベッカに婚約話の顛末を話した。
レベッカと出会った頃からずっと悩んでいて、同じ悩みを抱える者同士親友となった私達なだけにこの話はちゃんとしないといけないと思っていた。
「レベッカの方もよかったな。婚約破棄できて」
「ええ。魔王の幹部を討ち取れたおかげで解消できて清々したわ。アイツと結婚するくらいなら死んだ方がマシだからね」
レベッカが舌を出した後、晴れやかな表情を浮かべてお茶を飲む。
よほどイヤな相手だったらしい。まあ、話には聞いていたが……
「お互い悩んでた事がスッキリしてよかったわね。まあアンタの方が大変そうだったけど……」
「悩みに重いも軽いもない。どちらも一生を左右する問題だった。どちらも解決してよかった」
「そうね。でも傍目から見るともったいない話よね。第二王子様からの求婚を断るだなんて」
「ウム……、しかしどうしてもリオン様と結婚というのは想像できなくてな……」
「ホントにそれだけ?」
レベッカの目が、私の顔を覗きこんでくる。
「ホントにそれだけで、婚約の話断っちゃったの? 誰か他に好きな男でもできたからじゃないの?」
「何を言っておるのだ。そんな相手……」
私の胸を、何かがよぎる。
何か、胸を焦がす存在がいたような気がした。
そんな相手、いるはずないのに。
「……そんな相手など、おらぬ。私は今誰にも恋をしていない」
「ホントかしら? ……それにしては、何か気になるのよね」
レベッカが、茶を啜った後眉間にしわを寄せる。
「ねえセイラ、この家って誰か他に住んでなかった?」
「誰か他にって……。私とレベッカ以外誰がいるのだ?」
「おかしいわね……。じゃあセイラが裏庭に花や野菜を植えたの?」
「何を言っておるのだ。レベッカが植えたのではないのか?」
「あたしにそんな事できる訳ないじゃない。あの木で作ったよく分かんないのとか、どう見てもプロの仕業でしょ」
「木で作ったよく分かんないのって……確かによく分からぬな」
庭の野菜にほどこされてる、木で作ったよく分かんないのを思い出しながら私は頷く。
確かにあれは、農家の人間が作ったようなものだ。
「誰かが勝手に植えて育ててるとか?」
「まさか……。しかし不気味だな」
「魔除けの札でもお願いしとく? アスミちゃんに」
「そうだな、そうするか……」
かくして私達は、私達の他に誰も住んでいないはずの我が家で少し怯えたのだった。