第13話「神官、襲来」
「新しい神官がこの街に来る事になった」
ある朝。
レベッカと2人で朝飯を食っている所に来たセイラがそんな事を言い出した。
「新しい神官? あのバアさん神官どうかしたのか?」
「バアさん言うな、ご年配のと言え。歳も歳だし隠居するそうだ。」
「それで新しい神官が来るって訳か」
「ああ、そういう事だ」
この街の神官は、俺がこの街に来てからずっとバアさんだったご年配の神官で、俺達冒険者によくしてくれていた神官だった。
クエスト前にバフかけてくれたり、寄付されたお菓子なんかを差し入れしてくれたりしてくれるいいバアさんだった。
あのバアさん神官が隠居するというのは少し寂しいが、歳も歳だろうし仕方ない。
セイラにお茶を淹れながら、俺は気になっている事を聞く。
「大丈夫なのか? この街の教会って、古くてボロボロだろ?」
「新しいのに建て替えたから大丈夫だ。……あそこにあの御方を住まわせるのは気の毒すぎるからな。お父様を説得して建て替えさせた」
「そりゃ大変だったろうな」
「ああ……。教会は避難所の機能もあるからな。最終的には何とか押し通した」
あのケチ領主を説得するのは大変だったのだろう。
お茶を飲みながらセイラが、渋い顔をする。
そんなセイラに、レベッカが何やらワクワクした様子で話しかけた。
「ねえセイラ。新しい神官って、もしかしてアスミちゃん?」
「ああ、そうだ」
「アスミちゃん?」
「あたし達の知り合いのプリーストよ。コースは違うけどあたしと魔法学校で同期だったし、3人でクエスト受けたりしてたの」
突然出てきた謎の人名に、俺が疑問を挟むとレベッカが説明してくる。
新しい神官のアスミちゃんとやらは、レベッカ、セイラの知り合いらしい。
「やった! アスミちゃんが来るなら楽しくなりそうね!」
「ああ、ただ教会に荷物やら生活道具やらを運びこんだ上、アスミ様の要望も聞かねばならん。ユイト、手伝ってくれ」
「分かった。特に用もないし手伝おう」
何やら手伝わされる事になったが、金をもらっているので文句は言えない。
この家の事でしないといけない事は今の所はほぼないしな。
と、そんな事を考えているとレベッカが何やらムムっとした顔をしていた。
「ねえセイラ、大丈夫なの?」
「何がだ」
「だってアスミちゃんは……」
「……確かにそうだがいい加減克服してもらわねばならん。いつまでもあのままという訳にはいかんだろう」
「だとしてもコイツは人選ミスでしょ。もっと他に男はいないの?」
「……確かにそうかもしれないが他に空きがおらんのだ。父上の部下達は今忙しいし」
「オイ、何の話だ?」
「……何でもない」
「そうね、会えば分かるわ」
「会えば分かるって……アスミちゃんとやらにか?」
「アスミ『様』だ。いいかユイト、くれぐれもアスミ様に粗相のないようにな」
「そうよ、バインド食らわせたりしちゃダメよ」
「人をバインド魔か何かだと思ってんのか。しねえよ、しねえ」
「信用ならないわね……」
「……まあ、この男は一応常識人だと思うしいきなりバインドをかけるような真似はしないだろう」
「あたしはいきなりバインドされたんですけど?」
「あの時は魔法で攻撃されそうになったから正当防衛だ、正当防衛」
「セイラにいかがわしい真似しようとしてたくせに」
「……あの時はあの時だ。今回は大丈夫だ」
「どうだか」
「まあ、信じるしかないだろう。朝飯を食い終わったら教会に行くぞ」
そんなこんなで、今日はアスミ様とやらを迎える事になった。
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新しく建てられた教会は、前の教会よりも広くなっていた。
広い敷地に、広い礼拝堂、備え付けられている生活スペースも広くなっていた。
神官はここで暮らしながら務めを果たす。
教会の生活スペースに、セイラの指示でソファーやらマットレスやらを運び込み、セッティングする。
ワインセラーに高そうなワインが並んでるけど、アスミ様とやらはワイン通なのだろうか?
そのアスミ様とやらを、今レベッカがテレポートで王都まで迎えに行っている。
セイラと2人教会の中で待っていると、お昼の鐘が鳴ると同時にレベッカとアスミ様とやらがテレポートで現れる。
「アスミ様、レイフォード領へようこそお越し下さいました。これからよろしくお願い致します」
現れたアスミ様とやらに、セイラが丁寧に頭を下げる。
つられて頭を下げると、何やら視線を感じる。
顔を上げると、そこに天使がいた。
「……」
白い帽子に白の神官服、白い長手袋をはめた、青色の宝玉が入った杖を持つ少女だ。
肩にかかるか、かからないかくらいの水色の髪を小さなリボンで結んでいて、初雪のように白い肌と整った顔立ちは、穢れを知らぬ天使のようだ。
その少女が、すごくイヤそうな顔で俺を睨んでいる。
俺をジッと見るアスミ様とやら、手に持つ杖が俺に向けられる。
「『ホーリー…』」
杖の先が俺に向けられ宝玉が白く光り輝く。
何か分からんけど攻撃魔法の気配がする!
俺は反射的に腰につけた縄を放り投げた!
「『バインド』!」
「なっ……!?」
後ろ手に縛り上げられたアスミ様とやらが、杖を取り落とし尻餅をつく。
「フーッ、危機一ぱっ……アイタっ!?」
「何をしておるのだ貴様は!!?」
俺の後頭部をセイラのチョップが直撃した。
「だ、だってよ……、いきなり攻撃魔法を放とうとしてたから……」
「だからと言ってバインドかける事ないだろ! 避けろ!」
「無茶言うなよ!?」
「……」
俺にバインドをかけられたアスミ様とやらが、縛られたままものすごい目で俺を睨んでくる。
なんでこんな初対面で嫌われてるんだ?
疑問に思ってると、レベッカがその理由を説明した。
「言ってなかったけどアスミちゃん、ものすごい男嫌いだから」
「先に言ってくれよ」
俺は、いけしゃあしゃあとのたまったレベッカに文句を言った。
アスミ・サレンディナ
年齢:15歳
身長:146cm
誕生日:11月2日
ジョブ:プリースト
レベル:38
スキル:聖魔法 レベル5
蘇生魔法 レベル3
回復魔法 レベル3
浄化魔法 レベル3
支援魔法 レベル3
歌唱 レベル2
楽器演奏 レベル2
好きな食べ物:甘い物、ワイン、ソーセージ、クラッカー、スモークサーモン、サラダスティック
特技:利きワイン
趣味:歌を歌う事
ステータス:こうげき 21
ぼうぎょ 24
すばやさ 18
まほう 63