第129話「ゲイルとリリー④」
「ゲイルさん! 私と付き合って下さい! お願いします!!!」
90度近くお辞儀をする赤毛の頭に、俺は戸惑う。
どうしてこうなったんだ!?
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「や、やあリリーさん」
ゲイルです。
カイル兄ちゃんの弟で、戦士のゲイルです。
突然ですが俺には気になる相手、ううん、好きな女性がいます。
リリーです。
冒険者ギルドに土日だけ来るリリーです。普段は働いているらしいです。
テーブルの上に杖を置いて、何やらやっています。
魔法の基礎訓練らしいです。
「……何?」
無視されたらどうしようと思ったけど答えてくれました。
リリーの、夜空を煮詰めたような真っ黒い瞳が俺の目と合います。
化粧っ気のない白い肌、パッツンに切りそろえられた前髪、笑顔になった所を見た事ない無表情。ですがキレイです。派手さはないですがリリーはキレイな女性です。
「ちょっと、相談したいっていうか聞いて欲しい話があって」
「……相談?」
「ランって、知ってるかな? 戦士の、女の子の……」
「……ん、知ってる」
この街に3年前からいる冒険者で戦士の女の子、ラン。
女の子と言っても20歳だから立派な女性だ。とはいえ俺とは7歳も離れてるけど……
3ヶ月前くらいに弟子入りをお願いしてきて、稽古をつけていたんだけどつい最近告白された。聞いた話だと、前からいいと思われていたそうで……
「その子に、告白されたんだ」
「……」
リリーが無表情で微動だにせず、まばたきもせずこっちを見てきます。
何の感情も読めません。浮かんですらいなさそうです。
「イヤ、なの?」
「イヤなんかじゃないよ。明るくて元気で素直で、いい子だし……」
俺のような重戦士じゃなく、軽戦士だから戦士としてはまだまだ頼りないけれど、一生懸命でいい子だ。俺なんかにはもったいない位いい子だし、それに俺はリリーの事が……
「……じゃあ、付き合ったら?」
「……え?」
「いい子なら、付き合ったら?」
それ以上は興味ないと言わんばかりに、リリーがまた魔法の基礎訓練に戻る。
まるで今日の夕飯カレーにしたら?くらいの興味のなさだ。
……告白しても、ムダなんだろうなあ。
リリーは本当に、俺に興味がない。
いや、他人に興味がない。
冒険者ギルドでも、ずっといつも1人だし……
俺はトボトボと、リリーの元を離れた。
……後日ランに付き合うという返事をして、彼女に振り回される日々を送る羽目になるのだがそれはそれで別のお話である。