第114話「芋・芋・芋」
天高く、馬肥ゆる秋。
このレイフォード領の小さな家の裏庭にも、実りが訪れていた。
「な、なあユイト……。芋というのは、こんなに採れるものなのか……?」
「芋の生命力なめんな? コイツらどんな土地でもなるし、世界の人間の腹を満たしてきた食べ物だぞ?」
ジャガイモの根を引っこ抜きながら、セイラが掘っても掘ってもゴロゴロと出てくる芋に汗を拭いながら驚愕の表情を浮かべていた。腕力と体力のあるコイツでも、芋掘りはしんどいらしい。
ちなみにレベッカとアスミちゃんは15分でダウンした。
「い、いや知ってはいるが……。まさかこれほどとは……。というか貴様すごいな。よくそれだけの量を……」
「ウチも芋を育ててたからな。ガキの頃よく掘らされてたんだよ」
種芋を捨てながら、俺は掘った芋をカゴに入れる。
芋は放っておいても育つし、病気にも強い。自分達で食べるのにもちょうどいい。
ジャガイモもサツマイモも大量だ。リリーやノッシュ家にもおすそわけできそうだ。
芋掘りはしんどいが、楽しい。
地中の中からお宝を見つけ出す気分だ。普段は手伝いをサボるクレトも、芋掘りには参加していたくらいだし……
「……さて、今日の所はこの辺でいいだろ。昼はさっそくコイツをふかした奴を食わせてやる。セイラは休んでていいぞ」
「あ、ああ……。今日の所は? まだ採れるのか……?」
セイラが驚愕の顔を浮かべているが、まだ半分しか抜いていないし、地中の中にはまだまだありそうだ。
俺はカゴを抱えて芋を洗いに風呂場へと向かっていった。
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「できたぞ」
「……芋だな」
「……芋ね」
「……芋ですね」
俺がふかしてきたジャガイモとサツマイモを見て、セイラ・レベッカ・アスミちゃんがそのままの感想を漏らす。そりゃ芋だろ。芋なんだから。
「お好みで塩やバターをつけてくれ。でもまずはそのままがおすすめだがな」
「あ、ああ……。では、いただきます」
「いただきまーす」
「いただきます」
セイラとレベッカは大きな口で、アスミちゃんは小さな口で湯気を上げている芋の皮を剥いてかじりつく。セイラとレベッカが熱さに少し悶えたが、目を見開いた。
「おいしっ! ただふかしただけなのにおいしいわ!」
「あ、ああ……! ただふかしただけなのにうまい!」
「ホントですね! ただふかしただけなのにおいしいです!」
「そうだろそうだろ。……ただふかしただけなんだけどな」
いつもの手をかけた料理よりもいい反応に複雑な気持ちにはなるが、1口かじりつきながら俺も唸る。たしかにうまい。
セイラとレベッカとアスミちゃんが、うまいおいしいと言いながらジャガイモとサツマイモを食べていく。
しかし、その手がピタリと止まった。
「……ねえユイト」
「なんだ?」
「確かにこのお芋はおいしいわ。おいしいんだけど……すごくお腹が膨れるんだけど」
「芋だからな」
レベッカとアスミちゃんはジャガイモとサツマイモを1個ずつ食べただけで、セイラも3個ずつ食べた所で手が止まりお腹を押さえている。芋は腹に溜まるからな。
「言っておくが芋はまだまだあるからな。今日からしばらく、芋メニューが続くから覚悟しておけよ」
「「「……」」」
セイラ・レベッカ・アスミちゃんが戦慄の表情を浮かべる。
それからしばらく、セイラ家の食卓には俺の趣向を凝らした芋メニューや芋おやつが並び続けた。
ふかし芋・ジャガイモの煮っ転がし・ポテトサラダ・フライドポテト・スイートポテト・大学芋・etc…
アスミちゃんは3日目でギブアップし、
さすがのセイラも1週間で「もう飽きた」と言い出した。
レベッカだけは、俺に最後まで付き合い全部完食した。
ただその後、ダイエットのランニングに付き合わされた。