第110話「アスミ様の懺悔室⑦」
「アスミ様、急にお時間を取っていただいて申し訳ございません」
「いえ、ちょうどわたしもセイラさんに声をかけようと思っていた所でしたから」
教会の懺悔室で、わたしとセイラさんは向かい合っていた。
居住スペースでもいいのだけど、話す内容が内容なだけにここにした。
「「レベッカ(さん)の事なんですが(ですよね)」」
わたしとセイラさんの声がハモる。
そう。
あの魔王の幹部のダンジョンから帰ってきてから様子がおかしいレベッカさんの事だ。
最近、冒険者の間でもその豹変ぶりで話題になっているレベッカさんの事だ。
「『あたしもユイトの事好きになったから! これから正々堂々勝負ね!』とおっしゃられて……」
「レベッカらしいと言えばレベッカらしいが。なぜこのような事になるのか……」
「わたしもレベッカさんだけはないと思ってました……」
以前はしょっちゅうケンカしてたというか、まるで兄妹みたいな関係だったユイトさんとレベッカさんだっただけに、まさに青天の霹靂だ。
「ユイトさんがまったくレベッカさんの気持ちに気づいてないのが不幸中の幸いですが……」
「ああ、あれだけアタックされて気づかないのもどうかと思うが」
まるでカップルのようにくっついてくるレベッカさんを、怪訝なものを見る目で見てるユイトさんを思い出し、わたし達はため息を吐く。
あれだけ分かりやすいのに気づかないなんて、あの人はどれだけ鈍感なんだろう。
自分が惚れられてるなんて考えが浮かばない辺り、あの人の自己肯定感の低さと童貞っぷりを表していると思う。レベッカさんを対象外と見てる事もあるのでしょうが……
「あれで気づかないなら、こっちの気持ちにはまるで気づいてないだろうな」
「ええ、気づいてないでしょうね」
今のレベッカさんで気づかないなら、わたし達の気持ちになんて微塵も気づいてないだろう。
わたし達だけじゃない。受付嬢のクリスさんの気持ちにも気づいてないだろう。
レベッカさんといい、クリスさんといい、セイラさんといい、ただでさえライバルが手強いのに……
「もういっそ、夜這いでも掛けないとダメなんじゃないだろうかあの男」
「そうですね。それくらいしないと気づかないでしょうね」
その位思い切らないといけなさそうなあの朴念仁に、わたし達はため息を吐く。
夜這い……。夜這いか……
さすがにそれは、ふしだらというかちょっと……
「ていうか、最近の様子を見てるとレベッカさんがしかねない勢いですが。教会に泊まりにも来ませんし」
「いや、まさか……ありうるな。しばらくあっちの家に泊まり込む事にするか」
「わたしも泊まります!」
「アスミ様はダメです! 裸であの男の布団に潜り込むおつもりでしょう! アスミ様には前科がありますから!」
「セイラさんだってユイトさんを胸に抱いたそうじゃないですか! 何ですか! そのおっきいおっぱいで誘惑したって事ですか!」
「そ、そんなつもりは……! あの男の溢れるダメオーラというか、情けなさに母性本能が刺激されてついそうしてしまったというか……」
「そんな言い訳が通りますか! 最近ユイトさんの前でやたらと薄着でウロウロしてるそうですし! セイラさんはビッチです!」
「ビッチ言わないで下さい! アスミ様だって裸族じゃないですか!」
「わたしは裸族じゃありません! 1人の時に裸になるだけです!」
「それを裸族というのです!」
不毛な言い争いをしたわたしとセイラさんが荒い息を吐く。
しばらく息を整え、少しだけ気持ちが落ち着いた。
「ま、まあ! いくらレベッカが軽率といえど夜這いなどしないのではないだろうか!」
「そ、そうですよね! レベッカさんならきっと直前でヘタレるはずです!」
「あの男に彼女ができるなど考えられないし、そう焦らなくてもいいのではないだろうか!」
「そ、そうですね! あの童貞に彼女ができるはずありません!」
わたし達はヘタレて、そんな事を言いながら笑い合う。
まったくもう! なんなんですかあの人は!
なんなんですかレベッカさんは!
わたしとセイラさんは、ここにはいない2人の事を考えながらため息を吐いた。




