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バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第1章「バインドスキルではじまる男の物語」
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第11話「男の実力」

「フッ! フッ! フッ!」


 朝、少し肌寒い空気を男の声と正拳や蹴りが空気を切り裂く音が聞こえる。

走り込んだ後だからだろうか、男の肌には汗が浮かんでいる。

正拳や蹴りは動きが小さく、攻撃後の隙が少ない。実戦的と言えるだろう。

漫然と練習しているのではなく、相当な緊張感があった。


「フッ! フッ! フッ!」


 正拳突き、回し蹴り、そして裏庭にいつの間にやら作られていた的に何かの玉が命中する。この男の戦闘スタイルはバインドスキルにダガーと格闘、そして煙玉やら鉛玉を投げて戦うスタイルらしい。レベッカから聞いている限りでは。


「随分熱が入ってるな、ユイト」

「セイラか。早いな。鍛錬か?」

「ああ」


 私が声をかけると、こちらに気づいたユイトがタオルで汗を拭きながら寄ってくる。

昨日の夜から休みに入りこの家に泊まった私がいつもの時間に目を覚ますと、この男が起きていて鍛錬を始めていた。なお朝が弱いレベッカはまだ夢の中にいる。

 私は朝の新鮮な空気を吸い込みながら、身体を軽く解す。


「私も毎朝鍛錬をしているが、貴様も早いな」

「昨日ジンジャーに『鍛錬をサボるな』って発破かけられちまったからな。事実最近、あまり鍛錬できてなかったからな。今日からしっかりしようって訳だ」

「いい心意気だな」

「そんなたいそうなもんじゃねえよ」


 タオルで汗を拭き終わったユイトだが、顔からまた新しい汗が滴り落ちている。

相当な熱量で動いていたようだ。

私はこの男の力量を見てみたくなった。


「組み手の相手になってやろうか? 私は格闘スキルを持っているからいい相手になるぞ」

「やめておけ、後悔するぞ」

「ほう? どう後悔するのか見せてもらおうか!」

「ちょっ!? 待っ……!?」


私は何やら言いかけているユイトに襲いかかった。




………

……




「痛っ!? 痛えよ! もうちょっとやさしくしろ!」

「男なんだからガタガタ言うな。まったく……貴様、弱すぎだろう」

「だから言ったんだよ。後悔するって……俺のあまりの弱さに」

「自慢気に言うことではないと思うのだが」


 ユイトのケガに傷薬を塗りながら、私は嘆息する。

不意打ちだったとはいえ、ワンパンでKOされたこの男はレベッカの言うとおり、大した事ないらしい。

冒険者生活10年目に入っていて、高レベルの私やレベッカにバインドを食らわせ、身体つきは引き締まっていて鍛えられているのに、何なのだろうこの男は……


「なあ」

「なんだ?」

「今日は私と、クエストに行かないか?」

「……」


タオルで汗を拭きながら、ユイトがイヤそうな顔をする。


「イヤだ」

「何故だ。レベッカと昨日クエストに行ったではないか。私と行ってくれてもいいだろう」

「またキメラやらコカトリスやら高レベルのモンスターの相手をさせられるんだろう? 命がいくつあっても足りねえよ」

「そのような真似はしない。貴様のレベルに合わせたクエストを選んでやろう。危なくなったら私が助ける」

「……ならいいけどよ」


 渋々頷くユイト。

本当にこの男は弱いのだろうか?

弱い割にレベルが上がりにくいシーフとはいえ、冒険者生活を10年もやっているのにレベル4なんて事が、本当にあるのだろうか?

私はこの男という者を見極めるために、今日はクエストで実力を見る事に決めた。




****************************




「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハアッ…」


 無様。

男の戦いはその一言に尽きた。


「「「「「ゴギャギャギャギャ!!!」」」」」

「クソッ! ハアッ、ハアッ…!」


 ゴブリン達に追いかけ回されながら、走り、転がり、逃げ回る。

モスグリーンのマントと革の鎧と革のすね当てはもう、土まみれだ。


「このっ…! 食らいやがれ! 『バインド』!」

「ゴギャっ!!?」


 先頭で追いかけてくるゴブリンに向けて、ユイトがバインド用のロープを投げる。

そのまま反転し、バインドで身動きが取れなくなったゴブリンを右足で蹴飛ばす。

蹴っ飛ばされたゴブリンの身体が、仲間のゴブリンにぶち当たりゴブリン達の足が止まる。


「シッ!」


 ユイトが左手で煙玉を投げる。

煙玉は煙幕を張るだけではなく、目や鼻にダメージを与えるようだ。

ゴブリン達が煙の中で目をこすり苦悶の声を上げる。


「フッ!」


 ユイトが右手で鉛玉を投げ、ゴブリン達を怯ませる。

そしてバインドをかけたゴブリンの胸に、左手でダガーを突き刺した。

その手際は中々のものだ。

初手で煙玉を投げ、バインドをかけて厄介そうな弓矢持ちのゴブリンを仕留めたのと同じ手だが、そこそこ手際がいい動きに見える。

しかし……


「「「ゴギャギャギャギャ!!!」」」


 怒り心頭のゴブリン達が声を上げ、ユイトに向けて手に持ったナイフや斧を掲げる。


「くそっ……!」


 雑魚モンスターのゴブリン相手にも火力不足。

5分ほど戦って2匹しか倒せない。全滅させるのに何分かかるのやら。

ユイトは左手を懐に手を入れ……


「……ゴブリンごときに何を手こずっておるのだ、貴様は」


 ユイトが何かをする前に、私が一刀の元にゴブリン達を斬り倒す。

ゴブリン達は声を上げる間もなく真っ二つになって絶命した。

ユイトが、疲れ切ったように荒い息を吐きその場に座り込む。


「……仕方ないだろ、レベル4の、クソ雑魚冒険者なんだから」

「それにしても手こずりすぎだ。今の戦い、本当に全力を出していたのか?」


レベッカから話を聞いて、この男の実力がどんなもんかと思い試しにゴブリン退治のクエストを任せてみたものの、あまりに無様な戦いをしてるから手を出してしまった。


「全力も全力、今のが俺の精一杯だ」

「……そうか」


 私は失望した。

ウソは言っていないのだろう。この男は今の戦いが全力で精一杯だったのだろう。

レベッカが気になる事を言ったから期待してしまったのだが、どうやらこの男の実力とやらは大した事なかったようだ。


「……やはり、私を満足させる相手はいないのか」

「? 何か言ったか?」

「何でもない。気にするな」


 思わず出てしまった本音を、向こうを向いてごまかす。

乾いた荒野はまるで、私の心のようだ。

私の渇きは、いつになったら満たされるのだろう。

私は血の付いた剣を布で拭い鞘に収めた。

・ゴブリン退治のクエストの報酬

5万マニー(ユイトに5万マニー)

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