表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バインドスキルで生き抜くファンタジー世界生活  作者: アブラゼミ
第1章「バインドスキルではじまる男の物語」
1/131

第1話「どうしてこうなった」

「ヒイッ、ヒイッ、ヒイッ……!」

「待て~!!!」


どうしてこうなった。

どうしてどうしてこうなった。


「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!」

「待て! 待てと言ってるだろ! 待て~!!!」


 ガッシャンガッシャン鎧を鳴らしながら追いかけてくる女騎士から逃げながら、俺は自分の人生を嘆く。




「どうしてこんなことになっちまったんだよ~~~~!!!」




****************************




 俺の名前はユイト。

貧しい田舎の農家の三男坊に産まれ、12歳で丁稚奉公に出された。

その事について不満はない。周りもそんな奴ばかりだ。

そこから先が運が悪かった。

仕事を始めて3年目の春、奉公先の革職人の工房が潰れてしまったのだ。

下働きで技術も何も身につけていなかった俺は、職にあぶれ路頭に迷い仕方なく冒険者になった。

それしか道がなかったのだ。


 冒険者になった俺は、まず始めに冒険者ギルドで自分の冒険者ブックを作った。

職業はシーフ。剣士とか魔法使いの方がカッコイイのにと思ったが、適性がシーフなのだから仕方ない。

問題はそのブックに記載されているスキルだった。


「えっ? 俺のスキル、これだけ……?」


 レベル1のシーフでも、普通は「ナイフ」とか「潜伏」とかカッコイイスキルが3つ4つ並ぶはずなのだが俺に与えられたスキルは「拘束バインド」だけだった。

ギルドの受付嬢は笑いをこらえきれない様子で「こんな才能ない人初めてですよw」と俺を嘲笑った。

バインドを食らわせてやろうかと思ったが、出禁にされても困る。俺は受付嬢から冒険者登録のやり方、クエストの受け方、レベルアップの方法などをレクチャーされた。




 それから9年。

俺の現在のレベルは4。

覚えているスキルは「拘束」レベル1だけ。

レベルが上がっても他のスキルを一切覚える事ができず、毎日毎日ダンジョンに潜っては宝箱を漁ったり、いつも冒険者ギルドにいるクエスト爺さんから危険度の低い薬草集めやポンポンナッツ退治などのクエストを受けたり、ダンジョンで拾った珍しい石をクエスト爺さんに買い取ってもらったり、日雇いの農夫や土木工事や大工仕事の仕事をして稼いでいた。

しかしそれだけでは生活できない。

俺はもうひとつ、夜に仕事をしていた。


「『バインド』」


 夜の大人なお店で、男達を相手に商売をしてる女の子達にバインドをかけショーに出す縄師の仕事をしているのだ。


「ほらよ、今日の駄賃」

「……どうも」


 表向きは宿屋、裏はいかがわしい店の主から今日の賃金を受け取り、俺は店の奥へと引っ込む。

俺のバインドスキルは見た目も縛られる側の評判もよく、おかげさまであちこちのお店で仕事を頼まれるようになっていた。

けれども稼げる金はごくわずか。食べていくだけで精一杯。


「ハ~っ…… 1回でいいからエレナちゃんとデートできたらなあ」


 俺の一番のお気に入り、銀髪美人でスタイルも気立てもいいエレナちゃんがステージでお客さんから歓声を浴びる様子を見ながら俺はため息を吐く。

エレナちゃんには50回以上バインドをかけてるし、「ユイトさんにかけられるバインドが一番気持ちいい」と言われてるけど、手を出したりはしていない。

店の女に手を出したら、待っているのは簀巻きにされて川に沈められる未来だ。


「……帰るか」


 拘束されたエレナちゃんの姿を、後ろ髪を引かれる思いで見ながら、俺は椅子から立ち上がる。

明日も冒険者ギルドでクエスト探しだ。稼げるクエストがあるといいな。

そう思い店を出ようとした矢先に。


「風営法違反の疑いで取り調べる! 全員、動くな!」


 店内に武装した領主の部下達がなだれ込んだ。




****************************




「あ~、やっぱ違法営業だったか~」


 取り押さえられるいかがわしい店の主を見ながら俺は独りごちる。

「ウチは合法」「ウチは大丈夫」と言っていたがウソだったようだ。

エレナちゃんや客達も領主の部下達に取り押さえられようとしている。エレナちゃんは元々捕まってるようなもんだけど。


「ま、こんな事もあろうかと思って逃げる用意はしてたんだけどな」


 この店に俺が関わっている証拠はすべて残らないようにしている。

領収書は偽名で切ってもらってるし、どこに住んでるかは誰にも教えてない。


「……裏口も固められてるだろうな。窓から逃げるか」


 俺は念のため顔をマフラーで隠し、手近な窓を開けて外に降り立った。


「むっ?」

「へっ?」


 そして、

武装した女騎士と鉢合わせした。




****************************




 クリーム色の長い髪をポニーテールにした女騎士が、窓から出てきた俺を見て、少し驚いた表情をする。

背には大振りの両手剣を背負っており、肩から腰まで特注らしいデザインの鎧で覆われている。

手にはこちらも特注らしい小手、足にはすねまで覆う防具をつけており見るからに高レベルの女騎士らしい。

背は俺より少し高いくらいだ。170ちょっとくらいだろうか。


「……裏口を固めさせておいたが窓から出てくるとはな、しかし運が悪い。この私の前に降りてくるとは」


 両手剣を抜いて構える女騎士。

その手がブレたと思ったら、俺の顔を隠していたマフラーが斬られていた。


「ああっ!? エレナちゃんがプレゼントしてくれたマフラーが!?」


 手編みで編んでくれたというマフラーを細切れに斬られ、俺は嘆きの声を上げる。


「安心しろ、殺しはしない。私は人殺しはしない主義でな。大人しくしていれば……」

「『バインド』!」

「んなっ!?」


 何やら長々と話し始めた女騎士を無視し、俺は縄を放り投げバインドをかける。

女騎士は後ろ手に縛られ、足も縛られ、剣を取り落としその場に芋虫のように転がった。


「な、なんだこれは!? この私が回避できなかった……!? ぐっ……! 解けない!?」


 女騎士がもがくが、一度俺のバインドにかかってしまったら時間が経たないと解けることはない。

どんなに高レベルだろうと、かかってしまえば逃れられない代物なのだ。

まあ拘束するだけで他に効果はないんだけど……


「エレナちゃんのマフラーを斬った罰だ! 1時間くらいそこで転がってろ!」


 俺は女騎士にセリフを吐き捨てて、逃げるために走り出す。


「オ、オイ!? 待て! ま、待ってくれ……! 貴様の名前を……!」

「「「お嬢様!」」」

「お、お前達!?」

「お嬢様! 今解きます! ………くっ!? 剣で斬れないぞ!?」

「手でも解けない! なんだこの縄は!」

「お嬢様! 賊はどちらに逃げましたか!? お嬢様をこのような目に遭わせて許せない! ぶっ殺してやる!」

「あっち……いや、そっちだ! 私に拘束をかけた賊はそっちに逃げたぞ! 2mくらいのスキンヘッドの大男だ!」

「え? そっちは私達が来た方ですが……」

「そっちに逃げたんだ! 私の言葉を疑うのか!」

「し、失礼しました! オイ行くぞ! 賊め! 覚悟しろ!」


 遠くでそんな会話が聞こえてきた気がしたが、俺は気にせず逃げ続けた。




****************************




「……そろ~り」


 ボロい宿屋を出て、辺りを窺う。

金なしの冒険者にやさしい、元冒険者の店主が経営する1日500マニーで泊まれて食事もできる宿屋だ。安く泊まれる代わりに、洗濯やら掃除やら料理やら宿の手伝いをしないといけないが、それくらいお安い御用だ。風呂は無料の公営浴場で入れる。

冒険者になって9年、家無しの俺でもこういう宿屋のおかげで屋根のある所とあったかい布団で眠れていた。

 あの夜から3日。

俺はずっと宿に籠もって様子を窺っていたが何も動きはない。


「顔見られたからマズいと思ったが、夜だったからちゃんと見えてなかったんだろ。あの女騎士」


 子供の頃真夜中の収穫作業を手伝わされ、夜目が効くようになった俺と違いあの女騎士はちゃんと見えていなかったのだろう。

お尋ね者の手配書も出てないし、俺の顔は覚えられてなかったようだ。


「とはいえこの町に居続けるのは危険だな、よその街に行くか」


 長年暮らしていたこの街を出るのは名残惜しいが仕方ない。

俺は少ない荷物をまとめ、街から出る決意を固める。

このままこの街で暮らしていて、バッタリあの女騎士と鉢合わせでもしたら…


「……見つけたぞ!」


 そんな事を考えていたら、

あの女騎士が3日前の夜と同じ格好で俺の前に現れた。


「ヒイイッ!?」

「ずっと貴様を探していたのだ! 貴様に頼みが……」

「っ!!!」

「オ、オイっ!? コラ待て! 逃げるな!!!」


 逃げるなと言われて逃げない奴がいるか!

俺は脱兎のごとく駆け出し街の外へ向けて走り出した。




「逃げるな! 逃げるな~!!!」

「ヒイッ、ヒイッ、ヒイッ……!」

「待て~!!!」


どうしてこうなった。

どうしてどうしてこうなった。


「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!」

「待て! 待てと言ってるだろ! 待て~!!!」




 ガッシャンガッシャン鎧を鳴らしながら追いかけてくる女騎士から逃げながら、俺は自分の人生を嘆く。

ここに来てから俺の人生、いいことなんて1つもなかった。

安く使われていただけの仕事先が潰れ、再就職はできず、

仕方なく冒険者を始めたものの、受けられるクエストは安い報酬のものだけ。

倒せるモンスターは雑魚モンスターのゴブリンくらい。

冒険者生活9年で上がったレベルはたったの3。

稼いだ額は食べていくだけで精一杯。

誕生日もクリスマスもいつも1人で、ケーキ代わりに甘いパンをかじるだけ。

仕方なく副業でバインドスキルを活かせる縄師を始め、生きていただけ。

それだけなのに……


「どうしてこんなことになっちまったんだよ~~~~!!!」

「待て~~~!!!」


 女騎士が俺を必死の形相で追いかけてくる。

殺される!

捕まったら絶対に殺される!

あのデカい剣で真っ二つに斬られて殺される!


 俺は走った。

冒険者生活9年の足で必死に走った。

低レベルとはいえ冒険者生活で鍛えたシーフの足だ。

普通の人間よりはるかに速いし、武装してる女騎士には追いつけない……はずだった。


「待~て~!!!」

「ウソだろっ!?」


 しかしドンドン距離を詰めてくる女騎士の姿に俺は驚いた。

何て速さだ! この女化け物か!?

このままだと追いつかれる!

俺は裏道から裏道へと角を曲がり、障害物を飛び越え逃げまどった。


「待~て~~~!!!」


 しかし女騎士は軽やかにコーナーを曲がり、障害物を蹴り飛ばし俺を追いかけてくる。

そして……


「ハアっ!」

「え? わあああああ!?」

「フっ、フフフっ……! ようやく捕まえたぞ……!」

「ヒイイッ!?」


 横に並ばれると同時に足を引っかけられ、転んだ所を馬乗りになられてしまう。

俺は逃れようと暴れたが、女騎士はびくともせず腰の上で馬乗りになったまま俺の右手を取り押さえた。


「3日前から貴様のことを探していたのだ……! ハア……、ハア……!」


 逃れようと身体を捻ったり、腕を動かそうとしたが女騎士はびくともしない。

何て力だ! バケモンか!

女騎士が高レベルだと察した俺は、もう逃れられないと観念した。


「ゆ、許してくれ! どうか命ばかりはお助けを……!」

「ハア、ハア……! その顔、間違いない……! ようやく見つけたぞ! あの時の男……! フ、フフフ……!」


 目には妖しい光、口元には不気味な笑みを浮かべながら女騎士が俺の上でよだれを垂らす。

殺される!

やっぱりあの時顔を覚えられてたのか! さっさと街を出てればよかった!


 そんな事を考え、後悔と諦めと辞世の句を頭に思い浮かべていたら、

女騎士が俺の上から降り地べたにひざまずいた。

そして、頭を深々と下げた土下座スタイルで俺にこう言った。




「お願いだ! 私にもう一度バインドをかけてくれ!」

「……はい?」




 冒険者になって10年目の春。

俺の人生が大きく変わる瞬間だった。

………どうしてこうなった!

冒険者 ユイト・カッシュ


年齢:23歳

身長:168cm

誕生日:2月25日

ジョブ:シーフ

レベル:4

スキル:拘束 レベル1

好きな食べ物:ジャガイモ料理

特技:色々

趣味:寝る事・長風呂

ステータス:こうげき 7

      ぼうぎょ 6

      すばやさ 10

      まほう 0

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ