第48話 再び神を呼びつける
拝殿の中に入り、そろりそろりと進んでいく。見えて来たのは本殿。ご神体が祀られている場所……ということらしい。ここにいるんだよな? ジジイと対になる縁結びの神様が、ここにいるはずだよな。
「嶋田、ここだよ」
「ああ、分かってる」
本殿の形は、山でみた祠とそっくりだ。この二つの神社に関連があるのは間違いないだろう。よし、これなら。これならいける。
俺は本殿の前に立ち、二度礼をした。そして二回手を打ち、再び礼をする。これが正しいのかは分からない。もしかして無礼を働いているのかもしれない。だけど、こうするしかないだろう。思い切り息を吸い込み、天井に向かって叫んだ。
「縁結びの神様ー! どうか、答えてくれませんかー!」
祈るように声を上げる。洋一と近江は固唾を飲んで見守ってくれていた。来るのか? 来てくれなければ始まらない。そうでなければ運命は動かないんだ。頼む、どうか……!
「……」
無音。やっぱり来ないのか? ……神頼みなんて、最初から無理だったのか? ここまで来て、得る物がなかったとは。ああ、朱里になんて言えば――
「私を呼んだかね?」
「「「ひえっ!?」」」
三人揃って後ろを振り返る。するとそこには、ジジイと似たシルエットの人物がいた。だが光ってはおらず、イメージ通りの神様のような恰好をしている。顔もちゃんと見えるしな。……これは、信じていいのか?
「あ、あの……」
「なんだね、呼んでおいて何も無いのかね?」
「いえ。あります」
呼吸を整え、改めて神に向き直る。落ち着けよ、俺。これは千載一遇のチャンスなんだ。俺たちの運命を変えるにはこれしかない。
「縁結びをお願いしたいのです」
「ほう。どういうことか、説明してくれるかな」
「俺は……あと三時間で死ぬんです」
「ふむ、そのようだな」
動揺しないあたり、やっぱり本物の神と見て間違いないだろう。よかった。これなら望みはある。
「だけど、幼馴染も明日の昼に死んでしまうんです。なんとかしたくて」
「うーむ……しばし待たれよ」
神は帳面を取り出し、ぱらぱらとめくった。それはあのジジイと同じなんだな。これはどうにかなるのか? どうにもならないのか? ……どっちだ?
「なるほど、理解した。君との縁が切れ、幼馴染は新たに四時間も生き永らえたと」
「ええ、そういうことなんです。それをなんとかしたくて」
「……」
「あの、神様?」
神は片手を口に当て、何かを考えこんでいた。それにしても、ジジイと違って随分と礼儀正しいな。対になっているからって似ているわけではないようだ。……あのジジイが山に追放された理由が分かる気がする。
「残念だが、君の望みを叶えるのは難しいな」
「えっ……」
「そんな!」
洋一と近江が、それぞれ残念そうな声を上げた。だが、まだ諦めはしない。
「どういうことですか?」
「残念だが、兄上と私の力は対等。兄上が切った縁を、私が結び直すことは出来ない」
「あ、兄上?」
「おや、近江の娘だというのに知らなかったのか? 縁切りの神は私の兄だ」
なるほど、兄弟だったのか。思った通り、やっぱり二人の力は対等というわけだな。……だが、俺の望みは違う。朱里との縁を結んでほしいわけじゃないんだ!
「神様、一つ聞いてもよろしいですか?」
「なんだね?」
「縁結びの対象は人間だけですか?」
そう尋ねると、神は怪訝そうな顔をした。質問の意図が分からなかったらしい。神はこほんと咳ばらいをしてから、説明を始めた。
「人間だけではない。万物は縁で結ばれうるのだ」
「そうですか。……安心しました」
洋一と近江も首をかしげるばかりで、俺が何をしようとしているのか理解出来ていないようだった。どっちみち俺と朱里の縁は悪縁なんだ。再び結んだところで、きっとまた災いが起こるのだろう。
「じゃあ、神様。改めてお願いします」
「ほう……申してみるがいい」
近江に「カミサマはアタシんちにもいる」と言われてから、ずっとどうするべきか考えてきた。先の一か月と同じ過ちは繰り返さない。今度こそ、今度こそ朱里を救ってみせる。そのために俺が導き出した答えは――これだ。
「俺と朱里を、この世界と――縁で結んでください」




