表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった  作者: 古野ジョン
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/55

第42話 恋の神を呼びつける

「げほっ、げほっ……はあっ……」

「おい周平、大丈夫か?」

「お、俺のことは気にするな……あと少しだ……」


 死にそうな思いをしながら、洋一とともに小学校の裏山を走っていく。もう心臓は限界に近いのかもしれない。ひょっとして、この行動が俺の命取りになるかもしれない。それでも、朱里のためなら。


 それにしても、何の文句も言わずについてきてくれた洋一には感謝しかない。ずぶ濡れの制服に身をつつみ、泥沼とすら言える地面を走ってくれている。やはりコイツが親友で良かったと、心から思う。


「なあ、神社ってのは本当にあるのかよ?」

「ある。朱里と行ったことがあるんだ!」


 疑問に思うのも無理はないだろう。こんな山奥、それも道から外れた場所に神社があるとは思わないのが普通だ。頼む朱里、近江の家に行っていてくれ。こんな場所には来ないでいてくれ……!


「周平、あれ見ろ!」

「あれは……」


 洋一が指さしていた先では、土砂崩れが起きていた。やっぱりこの雨じゃこうなるか。あの神社も無事なのかどうか――


「あ……」


 土砂の向こうに、屋根がひしゃげた小屋のようなものがあった。見覚えがある。斜面を転がり落ちた朱里を助けに行ったとき、たしかあんなものがあった。そう、まるで祠のような。


 ……待て。建物の向こうに誰か倒れている。あの髪、忘れるわけもない。――体中から、血の気が引いていくような思いがした。


「あ、朱里いいいっ!!」


 心臓のことも忘れて、猛然と走り出す。嘘だ、嘘であってくれ。こんなことはあってはならない。なぜだ? なぜ? 俺は朱里の死を肩代わりしたはずなのに。どうしてこんなことが起こる? ……くそったれ!


「朱里っ!!」

「梅宮さん!!」


 俺と洋一が神社にたどり着くと、朱里は下半身が土砂に埋もれた状態で、背中から祠に突っ込むようにして倒れこんでいた。ボロの木製小屋だからか、その勢いで盛大に壊れてしまったようだ。どうやら土砂崩れに巻き込まれたところを、祠のおかげで流されずに済んだらしい。だが朱里の顔色は悪く、鼻から血も出ている。


「朱里っ! しっかりしろ! 朱里っ!」


 朱里の肩を引っ掴み、泣きそうになりながら必死に揺さぶった。幸いにしてまだ息はあり、心臓も動いているようだ。だが何度呼びかけても答えてくれない。頭を強く打ったのか? どこか怪我しているのか?


「よ、洋一! 掘り出すぞ!」

「だめだ、下手に動かせばまた土砂が崩れる! 俺たちも巻き添えになるぞ!」

「……くそっ!」

「俺は救助を呼ぶから、お前は梅宮さんの側にいてやれ!」

「あ、ああ!」


 洋一は携帯を取り出し、急いで電話をかけていた。俺は朱里に寄り添うように、地面に手をつく。青白くなっていく顔と、ぴくりとも動かない体。俺はここにいる。すぐそばにいるのに――何も出来ない。どこまで俺は無力なんだ。昔、朱里のことを守ると誓った。……それなのに、守ってやれなかった。


「なんでだよ……!」


 気づいたときには、俺は涙をぼろぼろと流していた。透明な水滴が朱里の頬に落ちていく。しかしそれも雨粒と混ざり、どれが涙か分からなくなってしまった。ああ、なんでこんなことに。どうして朱里がこんな目に。こんなのって、ないだろ……!


 死ぬのは俺だったはずだ。俺の命と引き換えに、朱里はこれからも人生を歩み続ける。そのつもりで神に申し出たんだ。嘘だろ? あの神に嘘をつかれたのか? 信じた俺がバカだったのか? ……それとも、俺が告白を断ったせいなのか?


 朱里のため、そう思って一か月間考え続けた。その結論が「朱里を振る」ことだったはずだ。それがもし、過っていたとするなら。考えたくもない。自分の死を覚悟して、幼馴染のために努力してきたことが――全てただの自己満足だったってことか?


 なんだよ、それ。いったい何のために頑張ってきたんだよ。それとも努力が足りなかったのか? もっと朱里のことを考えればよかったのか? ああ、後悔してもしきれない。


 なあ、神様。……いや、クソジジイと呼ぼうか。お前、言ったよな。「お前はまだ『何も』成しえていない」って。いい加減、その意味を聞こうじゃないか。俺は死ぬ、朱里も死にかけている。このクソッタレな状況の意味を、お前に問うてやろうじゃないか!


「周平、救助が来るみたいだ。それまで――って、どうした?」


 俺はすっと立ち上がり、キッと天を睨んだ。どうせ見てるんだろ? だったら堂々と呼び出してやろう。いっつも睡眠妨害ばかりしてくるんだから、たまにはこっちから呼びつけてやっても文句はないはずだ。


「いるんだろー!! 恋の神ー!!」

「……はっ? 周平、何言ってんだよ?」

「いいから出てこい!! お前、何が目的なんだー!!」

「周平!! こんな時に何ふざけて――」

「ふぉーふぉっふぉっふぉ!!」

「うわっ!」


 あまりの眩しさに、洋一は手で目を覆った。曇り空を晴れ渡らせてしまうほどの光が、俺たちの上から降り注いでくる。そして、見覚えのある人型の像が――目の前に現れた。


「な、なんだお前!」

「おや? そこの小僧は神を見るのは初めてかの?」


 洋一は恐怖してその場にへたり込んでしまった。だが今は親友のことを気にしている場合ではない!


「クソジジイ、てめえに用がある!」

「おや、やっぱりお前には信仰心が足らんのお」

「うるせえ! 誰がてめえなんか!」

「それで、何の用かの?」


 クソジジイはしらじらしく問うてきた。コイツだけは絶対に許さん。俺は朱里の方を見て、説明を求める。


「これ、見ろよ!」

「ああ、その娘かの?」

「なんでこうなるんだよ! 説明してくれよ!」

「ふぉっふぉっふぉ、なるほどなるほど。お前はとうとう成し遂げたんじゃの」

「成し遂げたって、何がだ!?」


 これほどまでにはらわたが煮えくり返ったことはない。怒りという感情で脳内が支配されつつあったころ、ジジイは嬉しそうに口を開いた。


「お前はその娘の運命を変えた。褒めてやろう、人間が運命を変えることなど滅多にあることでない」

「だから!! 何が言いたいんだよ!!」

「心配するな、その娘は明日の昼までは持つ。すぐには死なん」

「へっ……?」


 崩れ落ちるように、地面に座り込む。明日の昼まで……って、冗談だよな? 本当に朱里も死んじまうのか? 俺が……俺が身代わりになった意味って、なんだったんだ? なあ、この一か月の成果がこれなのか?


 朱里の顔を見る。目を瞑り、苦しそうに息をするばかりで何も言わない。だけど、生きてはいる。間違いなく生きているんだ。それなのに、明日の昼には――死んでしまうのだ。こんなの、あんまりじゃないか……!


「おい、ジジイ。……俺はいったい、何を成し遂げたんだ?」

「さっきも言ったじゃろ? その娘の運命を変えたのじゃ」

「それじゃ分かんねえよ! なあ、何が運命なんだよ!」

「よく聞け、若人――いや、周平よ。お前は」


 再びもったいぶるジジイ。なんだよ、なんなんだよ。ああ、もどかしい――


「『縁切り』を成し遂げ、娘の()()を果たしたのじゃ。よく頑張ったの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ