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他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった  作者: 古野ジョン
本編

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第31話 東大寺に参る

 次に訪れたのは東大寺だ。俺たちの前に現れたのは大仏殿。世界最大級の木造建築物だ。世界文化遺産でもあり、ここにも観光客や修学旅行生がたくさんいる。


「すごーい……」

「思ったより立派だなあ……」


 俺と朱里は感心しきりだった。何度か焼失しているとはいえ、八世紀に完成した建造物が今も残っているというのは驚くべきことだ。いったいこの建物は何人の生涯を見届けてきたのだろう。戦に災害、数々の困難にも見舞われたはずだ。


 東大寺に限らず、奈良の寺社仏閣には数百年前から存在しているものも多い。それを踏まえれば、俺の人生が今終わるか数十年続くかなど些細な差……なんて考えることも出来るかもしれない。


 けど、それは違う。その差が俺と朱里という二人の人間には極めて重要なんだ。もともと朱里の死を引き受けたことから始まった話。どちらかが死ななければならないなら、俺がそれを受け入れるというだけ。もう後戻りは出来ない。どんなに悲しんだとしても、Xデーは必ずやってくるのだから。


「周平、写真撮ってやろうか?」

「え? それならさっき」

「そうじゃなくてさ。梅宮さんと二人で」

「えーっ、いいんですかあ……?」


 少し顔を赤らめた朱里とは対照的に、洋一は携帯を手にニッコリとほほ笑んでいた。そういえば、二人での写真はまだ撮っていなかったな。


「洋一、頼むよ」

「じゃあ二人とも並んでー!」


 洋一に促されるまま、俺と朱里は寄り添った。流石に肩を組むなんてことは出来なかったが、それでもいつもより気持ち近めに立ってみた。右に立つ朱里の髪から、ほんのり良い匂いがした。


 洋一は携帯の画面をのぞき込み、近江は意外そうな顔で俺の方を見ていた。……たしかに、アイツからしたら不自然かもな。


「撮るぞー!」


 大仏殿をバックに、俺たちは写真を撮ってもらった。朱里と二人で写るなんていつぶりだろう。高校の入学式で撮った気はするけど、それ以来かもしれないな。


「ほら、いい写真だぞ!」

「わー、ありがとうございます!」

「二人にも後で送っておくから!」

「サンキューな、洋一」


 洋一に写真を見せてもらったが、やはり良い写真だった。満面の笑みで写る朱里。ああ、なんて可愛いんだろう。自分の幼馴染が世界一可愛いんだと、心から自信を持って言うことが出来る。……本当は、直接言えれば良かったのにな。


「あの、菊池くん!」

「どうしたの?」

「近江さんと二人で撮りましょうか?」

「えっ?」

「あっ、朱里!」


 ――止める間もなく、朱里は無邪気にもそんな提案をしてしまっていた。洋一は笑顔のまま固まってしまい、何も言うことが出来ていない。近江はというと、戸惑った顔でこちらを見ていた。


「あれ、どうしたんですか?」

「いや……な、なんでもないよ」


 朱里は二人の関係性を知らない。それゆえ、この提案に悪意が入っていないのも明らかだ。洋一もそれを理解しているからこそ、対応に困っているのだろう。


「し、嶋田……」


 その時、近江が助けを求めて俺の方に近寄ってきた。事情を知っている俺にどうにかしてほしいということか。どうしたものか……。


「あーっ、そうだ!」


 わざとらしい大声を出し、携帯を取り出す。三人の視線を集めた後、さらに話を続けた。


「ら、来年の卒業アルバム用にさ! 班ごとに写真撮ってこいって言われてたじゃん!」

「えっ、そうだっけ?」

「俺たちの写真があるのにお前らの写真が無いのは不自然だからさ! 並んだ並んだ!」

「ちょっと、嶋田!?」


 無理やり近江と洋一を並べさせ、携帯のカメラアプリを起動した。適当なことを言って撮らないという選択肢もあっただろう。でも、せっかくの修学旅行だからな。


「はい、チーズ!」

「あはは、いえーい……」

「……」


 洋一は引きつった顔でピースを見せ、近江はムスッとしてそっぽを向いている。コイツららしいと言えばそうかな。苦笑いしながら、シャッターを切った。


「よく写ってるだろ~?」

「ああ、ありがとう周平……」


 撮った写真を見せると、洋一はちらりと見ただけですぐに顔を逸らしてしまった。やっぱり撮らない方が良かったかな。


「じゃ、二人にも送っておくから」


 俺はメッセージのアプリを開き、洋一と近江に写真を送信した。これでよし、と。……ってあれ、近江から何か来たぞ。


 画面から顔を上げて近江の方を見やると、プイっと向こうの方に歩いていってしまった。なんだアイツ。怪訝に思いつつ、届いたメッセージを確認すると――


『ありがと。この写真、大切にするから』


 という、短い文章が表示されていた。近江はこんなにも想っているのに、洋一は応えようとしない。どうしてなんだ。……俺が言えたことじゃないけどな。


 それにしても、死ぬ前に東大寺を訪れることが出来てよかった。先人たちのパワーをもらった気がする。残り僅かな余生、大切に過ごさないといけないな。そんなことを考えつつ、再び朱里とともに歩いていく。


「私、また来たいなあ。しまちゃんは?」

「……そうだな。また、来られるといいな」


 そうだ、いつかまた来よう。来世かもしれないし、ずっとその先かもしれない。だけど、決めていることが一つだけある。


 必ず、朱里と一緒に来よう。

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