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他の男と仲良くしておいて今更幼馴染の俺に告白してきても遅いんだと言いたかったが手遅れなのは俺だった  作者: 古野ジョン
本編

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第25話 ギャルに連れ出される

 デートを終えてからは、特に変わった出来事は無かった。着実にXデーが近づいていることを実感しつつも、朱里やクラスメイトとの日常を楽しんでいた。終わりを知っているからこそ、どんな一瞬も逃すまいと真剣に生きることが出来る。皮肉なものだな。


 残り十日を切り、命日までの日数を片手で数えられるようになった。前までは平日が早く過ぎることを願っていたけど、今となっては土日が来ることを恐れている自分がいる。家に引きこもる休日より、学校で皆と会う平日の方がよほど有意義に感じられるのだ。


「いよいよ明日かー」

「嶋田ー、寝坊するなよー?」

「しねえよ!」


 他の奴らと雑談していると、担任が教室に入ってきた。慌てて自分の席に戻ると、ホームルームが始まった。


「えー、皆も分かっているだろうが明日から修学旅行だ。集合時間を間違えないように」


 そう、出発の日が明日に迫っているのだ。朱里との最後の思い出、そして最後の別れ。この二つを含んだ重要イベント。まさに正念場というわけだ。


 結局、どのタイミングで告白の返事をするのかを決めることは出来なかった。旅行中に二人きりになった瞬間を狙うしかない。ぶっつけ本番だが、必ずどこかに好機が訪れるはずだ。……もっとも「好機」なのかは分からないが。


「では、今日のホームルームは終わりにする。前にも言ったが、今日は部活には行かずに明日に備えること。じゃあ、号令」

「きりーつ、れい!」


 考え事をしていると、いつの間にかホームルームが終わっていた。皆帰りの支度をして、教室の扉から出て行っている。上着を羽織った朱里も、俺の席に近寄ってきた。


「しまちゃん、一緒にかえろーっ?」

「ああ、いいよ――」

「おい、嶋田」


 だが次の瞬間、俺の肩を掴むものがいた。驚いて振り向くと、そこにいたのはこちらを睨みつける近江。


「ひえっ!?」

「そんなに声出すなよ」

「あの、近江さん……?」


 不思議に思ったのか、朱里も怪訝な顔をしている。近江にドスの効いた声で脅されるようなことをした覚えはない。いったい何の用だ……?


「悪いな梅宮、ちょっと嶋田を借りていく」

「借りるって、どちらへ……?」

「変なことしねえから心配すんな。ほら、行くぞ嶋田」

「ちょっ、なんなんだよ急に……!」


 近江に背中を押されるまま歩き出す。周囲を見回してみると、洋一が無言でこちらのことをじっと見つめていた。本当に見当がつかない。この間のデートのこと? 球技大会のこと? 洋一のこと? それとも……朱里のこと?


「さっさと歩け、嶋田」

「なあ、何がしたいんだよ」

「アンタをシメるんだよ」

「シメっ!?」

「嘘だよ。ちょっと話を聞くだけだ」


 こちらを向かず、ただただ廊下を歩いていく近江。俺はその背中を追うことしか出来なかった……。


***


「っしゃーせー」

「二人」

「かしこまりやしたー、どうぞー」


 近江に連れて行かれた先は駅前の喫茶店だった。例のごとく適当なバイトに迎えられ、俺たちは適当なテーブル席に座る。わざわざお茶をするためだけに連れ出したわけではあるまいな。


「メニューっすー」

「ホットコーヒー、二つ」

「以上すか?」

「はい」

「少々お待ちくだー」


 近江は俺に何を聞くこともなく、淡々と二人前のコーヒーを注文してしまった。それにしても、店員の適当具合に拍車がかかっているな。俺でも務まるような気がしてきた。


「アタシが奢るから。気にすんなよ」

「は、はあ……」


 そりゃ勝手に連れられた挙句にコーヒー代を払わされても困る。


「あ、あのさ……」

「あ?」

「本当に何の話をしにきたの?」

「ああ!?」

「お、怒らないで……」


 怖い!! なんで修学旅行の前日にこんな思いをしなくちゃならんのだ。一刻も早く帰宅して、明日に荷造りを済ませたいのだが。そうは問屋が卸さないらしい。


「嶋田さあ、自分で分かんないの?」

「わ、分かんないよ」

「アンタさあ、最低だよね」

「なんで!?」


 唐突にディスられても困るのだが……。目の前のギャルはムスっとしたままで、一向に真意を教えてくれそうにない。


「そもそもなんで今日なの?」

「他の日だと部活があるんだよ」

「ああ、そっか……」


 平日の放課後に自由を謳歌している俺とは違い、近江はサッカー部マネージャーとしての仕事があるんだもんな。それで部活のない今日、俺を連れ出したというわけか。


「いい加減に何の話か教えてくれよ」

「はあ……。本当にサイテーだよね」

「あのさ、そんなに最低最低言われても困るんだけど」

「分かったよ。話してやるよ」


 しかし近江が続いて口を開こうとした瞬間、件の店員が歩いてきた。トレーにはカップが二つ。


「コーヒー、お待たせしやしたー」

「はーい」


 俺は二人分のカップを取り、そのうちの一つを近江の前に置く。意外にも甘党なのか、近江は卓上の角砂糖を何個もコーヒーに沈めていた。それを横目に、俺はちびりとコーヒーを口に含む。……今日はなんだか苦いな。


「なあ、嶋田」

「なんだよ」


 近江はマドラーをグルグルと回して砂糖を溶かす。その動きを止めたと思えば、マドラーの先をこちらに突き付けてきた。


「な、なんだよ急に!?」

「アンタさ……」


 先端からぽたぽたと黒い液体が零れ落ち、テーブルに垂れていく。そして、一瞬の沈黙のあと――近江は核心を突いてきたのだ。


「梅宮のこと、振る気でしょ」

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