遅咲きのラベンダー|心のぬくもり幻想舎
「ねぇ、ここにお花は咲かないの?」
枝ばかりの低木と土肌があらわになっている広大な土地を前に、たまたま通りかかった農作業中のおじいさんを捕まえて少女は問うた。
「ここにはね、あと数ヶ月したらラベンダーが咲くんだよ」
敬語もろくに使えない彼女に対して、おじいさんは孫に話しかけるように優しい声で答えた。
「うそよ、関東では咲いているのを見たわ!」
「ここは北海道だからね、日本の真ん中と比べたらずっと寒い場所なんだ」
おじいさんの目線が畑に移ったのを見て、少女もまた、何も咲いていない閑散とした畑を見つめる。
「早く咲けないなんてかわいそう...」
「焦ることはないよ、兎とんの話でもよく言うだろう?決してのろのろしているのが悪いこととは限らない」
ただ適している時期や場所が違うだけさ、と季節外れの麦わら帽子を撫でながら、おじいさんは答えた。
「きっと美しい景色が見られる、またおいでなさい」
fin.
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こちらでは毎週月曜日に、1分ほどで読める短編小説を
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大野