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近くない?




「じゃあ、勉強がんばってね」


 喜色満面の顔でそう言って立ち去ろうとするウィリアムに少しの恐怖を感じながら私は根性で笑顔を作った。こういうとき怯んではいけない。肉食動物相手に背中を向けたらいけないのと一緒だ。



「うん。ウィリアムもお仕事頑張ってね」

「行ってくるね。こういうのいいね。本当に僕の奥さんになったみたいだ」




 顔の横で小さく手を振れば、ウィリアムは満足そうに手を振り返す。そして怖い言葉をボソッと呟いて立ち去った。


「……ずっとこんな日が続けばいいのに」



 ひぇぇぇぇぇぇぇ。怖い怖い怖い。執着入りの愛の恐ろしさといったらない。

 お願いだから逃がして。日本に。誰か助けて。お兄ちゃん、お兄ちゃーん。



「お兄ちゃーん」



 助けを求めているといつの間にか絶叫していた。それでも代わる代わるやってくる家庭教師との勉強に立ち向かわなくてはいけない。




 家庭教師とのお勉強をなんとか乗り切ったらお昼ご飯だ。ここではウィリアムの料理人がご飯を作ってくれるらしいけど、私の卵好きの話が通っていたのか、卵料理が出てきた。



 チキンライスにオムレツが乗っているオムライス。半熟じゃない……。



 とても悲しい気持ちでオムライスもどきを食べた。私はこれをオムライスとは認めない。


 卵がかわいそうだよ……。




 夕食。そんな気はしてたけど、ウィリアムが一緒らしい。寝室の二人掛けソファに座り二人並んでご飯を食べる。ご飯を食べてるとどうしても両手の動きにあわせて、腕が触れたりぶつかったりする。




「ねぇ、ウィリアム?」

「何かな?」



 とてもキラキラした王子スマイルが嬉しそうに幸せそうに私を見る。



「近くない?」

「そうかな?」

「そうだよ」

「気のせいだよ」

「気のせい……かな……」



 じゃあ、この時々触れたりぶつかったりするのはなぜなのか。私は遠くのデザートを取るふりして、お尻の位置を少し端に寄せた。



 いくら二人掛けソファーとはいえ、もう少しは端によれる。ウィリアムもね!



 クスっとウィリアムの笑い声がした。振り向くとすぐ近くにウィリアムの王子スマイル。



 なんで? つい今、少し離れたところ!!



「近いってのは、こういうことを言うんだよ?」



 そう言うウィリアムは私の腰に手を回して、更に二人の距離を近づける。



 そのまま顔の距離が……はっきり言おう。唇の距離がゼロになりそうになって、慌てて俯けばウィリアムの胸に私の顔がぽすんと落ちた。




「近いってのは、こういうことを言うんだよ」



 クスクス笑いながらウィリアムがもう一度言う。


 確かに。意図せずゼロ距離になってしまった。



 やばっ! 離れないと!



 バッと顔を上げれば、すぐ近くにウィリアムの顔があって、また離れようとして、ウィリアムの胸に顔がぽすんと落ちる。



 顔を上げれば唇が近くなり、下げればウィリアムの胸の温もりに触れる。



 どうしたらいいのか分からなくなった私は、赤ぺこのようにウィリアムの顔と胸とを行ったりきたり。


 


「ははっ。何それ。かわいい。そういう動物いるよね? ミーアキャット? だっけ? 巣穴から様子伺う小動物みたい」



 ……ムカつく。人をおもちゃにして。




「そういえばウィリアム?」

「なんだい?」

「食事中だよ?」

「それが?」




 まだ優位に立ってるつもりで笑ってる。目にもの見せてやる。



「私、今、フォーク持ってるからね?」

「……それが?」




 私のフォークを持つ右手は、ウィリアムの私の腰に回された腕の下。びっくりして床と垂直に垂れ下がっている。

 本当はスープを飲もうとしてたところだったから、持ってるのはスプーンだけど、それだと戦闘力が落ちるからフォークということにした。



 「ふふふ」「ははは」と言いながら、私は右手に力を入れて、ウィリアムはその上を横切るようにかかっている左腕に力を入れる。



 ウィリアムが、腕に入れていた力を少し緩めたので、スプーンを持った手をウィリアムの背中に回す。



 ここで振り上げないのは、凶器がスプーンだとバレると、たちまち私がミーアキャットに逆戻りになるからだ。




 私は、ウィリアムの背中に回した腕、指先で器用にスプーンを操り、柄の部分を腰に突きつけた。




「すぐに私を解放しないと……どうなるか分かってる?」



 どうなるか具体的に言えなかったのは、ウィリアムの不安を煽るためであって、何も思いつかないからじゃないんだからね!




「どうなるんだろう?」



 くっ!



「そんなこと自分で考えなさい! 聞いたら何でも答えてもらえると思ったら大間違いなんだから!」



 ふん! と鼻息荒くスプーンの柄の位置を背中、たぶん心臓がありそうなところにスライドさせる。これで私が優位! と、ふっふっふと笑いながらジリジリとスプーンの柄を上に移動していくうちに、ふと気付いて、元の位置にもどした。




「今、僕を脅すために、心臓の場所にフォークを移動させてたのでは?」

「……私がウィリアムの命を? とんでもない。最初からスプ……フォークの位置はここよ」



 ジリジリとスプーンの柄を上へずらしていく途中気付いたのは。私がウィリアムの背中に手を回すことになっていたこと。



 ……自分から抱きついてんじゃん! 



 ウィリアムは余裕そうにまだクスクス笑ってる。



「心臓はもっと上だよ? ほら、もっと上に手を移動させないと」



 なんかヤダ!!



「今日のところは許してあげる」


 そう言って、ウィリアムから離れようとしたところで抱きすくめられた。


「まだこのままでいてよ」



 私の耳元にウィリアムの唇がきて、くすぐったくて一瞬体が震える。きっとウィリアムはわざとやってる。だって、そんなに息を吐きながらじゃなくても喋れるはずだもん。




「もうこんなのヤダ! いやらしいよ! えっちだよ!」



 私だって知ってる。これはピロートークだ。ピロートークは寝室でする男女の会話。教室で男子の話を盗み聞きした私は、なんとなくこれはえっちな話だとピンときた。お母さんとかお父さんに聞いたらダメなやつだ。



 ここは寝室。私たちは男女でこんなゼロ距離で接している。これはピロートークだ。卑猥なやつだ。



「何がいやらしくてえっちなんだ?」

「だって、こんなのピロートークじゃん!」

「は……?」

「違うの? 寝室で男女がイチャイチャしながらする話でしょ? ……今じゃん……」

「……ピロートークとは少し違うのではないかな?」

「そうなの?」



 ウィリアムのヒントにピンときた。そう言えば前に読んだ少女漫画で、男女がベッドに入ったら電気が消えて、朝になってたのがあったけど、ソファーに二人並んで座って、男の子はコーヒーを飲んでて女の子は恥ずかしそうにクッションを抱えてた。



 あのクッションだと思ってたのは、実は、(ピロー)? そう考えると全部説明がつく。



「そっか! 枕がないから問題ないんだ!」



 良かった。異世界で破廉恥体験してきましたなんて誰にも言えないよ。ただでさえ、生娘検査されてんのに。しかも人様の体で。あり得ない。人の体で自死しようとするシャーロットも大概だけど。お互いさまとは言いたくない腹ただしさが限界だけど。



「いや、そういう訳ではないが」

「じゃあ、これはピロートークなの? この体はシャーロットのものなのに、中身のない状態でいろんな経験させちゃうとか、シャーロットのこと言えないよ」

「ダミー扱いされているかもしれないというのに随分優しいんだな……。そんなところも……。いや、ピロートークっていうのはね?」

「うん」

「愛し合う男女が枕を並べた状態で話しをすることなんだ」


 


 私とウィリアムは枕を並べるどころかどちらも今は所持していない。たぶん自分のベッドの上にはあるだろうけど。確かにセーフだ。でも、そうなると……




「なんだぁ。ピロートークってえっちな言葉だと思ってたけど違ってたんだね。ははっ。なんか恥ずかしい」



 勝手にウィリアムとえっちなことしている気持ちになって、ウィリアムを責めてしまったことがなんとも恥ずかしい。顔が赤くなるのが分かる。きゃー。



「……なんでえっちな言葉じゃないと思ったんだ?」



 探るようにウィリアムが聞く。



「え? だって、お兄ちゃんとしてるのがピロートークになるんだから、えっちな事じゃないよね?」

「なに? フローラは兄と枕を並べているのか?」


 ここまで、私たちはわりと近い距離で話していた。息がかかりあうほどには近くて、目を逸らせることが出来るくらいには遠い。そんな距離だ。その状況のなか、ウィリアムは立ち上がった。ウィリアムは驚愕に瞳を見開いている。



「いつもじゃないけど、私の体にシャーロットが入ってる間は、ちょっと様子がおかしいみたいで、お兄ちゃんが付き添ってくれてるんだ」



 「ん?」って声が聞こえてきそうな顔でウィリアムが首を傾げる。


「……同じベッドで寝るのか?」

「たぶん、別々だと思うよ? 私が起きたときは大体別だから」



「……愛し合ってるのか?」

「うん、それはもう!」



「……でも、血の繋がった兄妹だろ?」

「兄妹だけど、血は繋がってないね! ラッキーだよね! 私、お母さんとお父さんが出会わなかったら、お兄ちゃんいなかったんだよ?」



 私は、お兄ちゃんの素晴らしさを懇々とウィリアムに伝える。


「お兄ちゃんはね、ちょっと厳しいところもあるけど、それは私のことを思ってるからなんだよ。だから、結局は優しんだよね。だって、どうでもいい人にわざわざ厳しくしないでしょ? お兄ちゃんがいたからそういうことに気づけて、叱ってくれる先生たちに感謝出来るようになったんだ。それにね、すごく料理が上手なの。調理師学校に通ってて。将来は料理人になるの。あ! だから、ウィリアム! 料理人に対して奢った態度とるのやめてくれる? 大好きなお兄ちゃんを馬鹿にされてるみたいで、すごくムカつくの!」



 ウィリアムが不思議そうな顔で首をかしげた。



「フローラと兄上は愛しあって……いるん……だよな……?」

「うん! 私もお兄ちゃんのこと愛してるし、お兄ちゃんも私のこと絶対好きだよ!」



 私が自信満々で答えると、ウィリアムは「フローラはまだ子供なんだな」と頭を撫でた。その子ども扱いにイラっとする。



「ウィリアム? 私、小夜は十七歳だからね! ウィリアムと二つしか違わないし。日本ではもう結婚できる年なんだから!」



 私の言葉にウィリアムが何かを企むような顔になる。怖い。



「そうか、フローラはもう結婚できる年齢な……」

「できないね! そういえば一昨年に法律が変わった気がするよ! んーと、そう! 三十になったんだよ! まだまだ子供だったよ!」



 私の動物的本能の危機回避能力が発動して、反射神経で喋り続けた。




「それに、私はお母さんにもお兄ちゃんにも、まだまだ子供だって言われて。友達にもまだこの話は小夜には早いって話してもらえないことも結構あって。何が言いたいかと言うと、私子供でした!」



 勢いのまま喋ったせいで呼吸が乱れる。今、私には圧倒的に酸素が足りない。ハフハフ言いながら目には力を入れてウィリアムを睨み続ける。隙を見せてはいけない。




「いやー。早く大人になりたいもんだよ」

「協力しようか……?」

「……いや! うん! なんていうか、大人は一人で何でもさばけないと! 協力してもらってちゃ大人になれないよ」



 ウィリアムの協力が物理。主に女としての成熟度へのステップアップの協力のような気がして私は慌てて拒否する。たぶん私はピロートークの言葉の意味を分かっていなかった。だから、こんなよく分からないやり取りが続いている。なんか、気づいたら囲い込まれてそうで怖いんだよ!



 正直思ってることがある。ヴィオラさんは妖艶な魅力が素敵な美魔女で大好きだけど、しょせん王族側の人。私と王の間に立たされた時は王をとると思う。だから、私が賭けているのはロージーさん。体だけだけど血縁関係があるし、対面しただけで号泣するほど私に会いたいと思っていた人。


 その情熱を信用できないはずがない。そしてここで私を日本に帰る方向での協力相手を間違えるとどうなるか分からない。行き来できてただけでも良かったなんて状況には陥りたくない。



 今度、家に帰ったらお兄ちゃんに聞かないと。私のこの考え、ロージーにかける方向でいいかどうか。それととろりオムライスの作り方も絶対に聞かないといけない。そういえば。



「ウィリアム」

「なんだい?」



 実はウィリアムはまだ私の寝室にいる。続き間だからウィリアムの部屋になるのかもしれないけど、一応今は私に与えてるんだから、そろそろ出ていけばいいと思う。忘れて考え事しちゃってたけど。




「私は、いつまでここにいるの?」

「うーん。疑いが晴れるまでかな」

「陛下の私が狂人てヤツ?」

「そう」

「狂人ではないけど、事実だから疑いが晴れることはないと思うんだけど……」

「そうなんだ。でも僕たちは魔法が使えないから疎い。ヴィオラの話からはエヴァンズの魔力が並外れたものっていうのは分かった。その並外れた魔力で魂の入れ替わりが起きてるって言うのは説明すれば理解してくれると思うんだ」

「じゃあ、すぐ部屋に戻れるのね?」

「……そうはいかない」



 何がそうはいかないのか。ウィリアムのストーカー的本能のことなのか。


 私を逃がさないように閉じ込められているような気がして、ずっと離してもらえなさそうな気がして怖くなる。いっそちびってみようか。百年の恋も終わりを告げるだろう。その勇気がいまいちなのは、一緒に私の中の何かも終わりを告げるのが分かっているから。



 本当にままならない。



 怖いと思いながらも、先を促すようにウィリアムを見る。



「父上は、すごく臆病なんだ。すこしの憂いでもあっては罰するか遠ざけるかしないと気が済まない。平和な治世を維持するためにそれはいい方に作用することが多い。臆病ゆえに人の敵意や陰謀への勘が卓越しているからね。ペンの位置がずれているだけで気づくんだ」


「……繊細な方なのね」


「……よく言ってくれてありがとう。……だから、この魂の入れ替わりで何が父上の憂いになったかというと、フローラの魂の本質だ。前にも言ったね? 国家を脅かす情報だと沈黙は守れないと。つまり、小夜が何者であるか。本当は他国の間者ではないのか。国に仇成すものではないのか」


 そんなのどうやって証明するというのか。絶望的じゃん……。



 私の陰さす表情に気づいたウィリアムが頷いた。



「そう。だから、今はここにいてほしい。監禁という体裁ではあるけど、牢に入れられるよりはいいだろう?」

「うん」

「不安だと思うけど、父上はその心配さえなければフローラのことはすごくかわいがってくれるはずだよ。フローラを見る目は初孫でも見るようだからね。こんなだ」



 そう言って、ウィリアムは自分の両方の目じりを指で下げて見せた。


 そんなことするタイプだと思っていなかった驚きと、純粋にイケメンが面白い顔になっていることに笑ってしまう。



「……不安だろうけど、しばらくはここにいてね

「うん。守ってくれてるんだね。ありがとう」




 だけど、ここから出られないなら大事なことがある。絶対に譲れない、命に係わるかもしれないこと。



「ウィリアム。この部屋はウィリアムの部屋の続き間なんだよね? その扉がつながってるんだよね?」

「うん。それがどうかした?」

「ウィリアムの部屋は何部屋あるの?」

「……図書室、寝室、応接室、使用人部屋かな。なに? 僕の部屋に招待してほしいの?」



 揶揄うような嬉しそうな顔でウィリアムが言った。私は真剣な顔で答える。



「うん。そうかもしれない。……ねぇ、使用人部屋ってどうなってるの? 私の部屋は、キャロルが自分の部屋からお茶とか持ってきてくれるんだけど」



 私の言いたいことに見当がついたらしいウィリアムはクロウを見る。おそらくクロウも見当がついたようで、ちょっと嫌そうな顔をした。



「……机と本棚と、ベッドと……と簡素な作りとなっております。殿下付きとはいえ、しがない使用人部屋ですので」


 絶対おかしい。「ベッド」と「簡素な」の間に何かあったはずだ。嘘つけない立場だからって微妙な声量で話すのは大人げないと思う。



 むーん、とクロウを睨んでいるけど、クロウは素知らぬ顔で知らんぷりだ。と、私の斜め後ろに控えていたはずのキャロルがすすっとクロウの横に移動した。


 「グっ!」とうめき声が聞こえたと思ったら、「キッチン」と本当にそれはそれは嫌そうに発声した。


「キッチンもあります。ですが、本当にほんとーうに簡素なものですので」

「見たい!」



 私の声にウィリアムが立ち上がりエスコートするように手を差し出す。ウィリアムの部屋に行こうとしてるのにいらないとも言えず、ウィリアムの腕に手を置いた。



 扉を開くと寝室があった。寝室と寝室の間に扉があるのは卑猥だ。そう思いながらもあまり見ないようにしているとまた扉があって開くと応接室がある。応接室には扉が四つあり、今来た寝室と図書室、トイレ兼浴室。そしてお待ちかねの使用人部屋とつながっている。



 ウィリアムが図書室や浴室も案内しようとしたけど、浴室は私の寝室にもあるし、今はとにかく使用人部屋だ。



 クロウが本当に嫌そうにため息を吐きながら自分の部屋の扉を開いた。


「主の部屋の一室とはいえ、使用人部屋のプライベートは守られるはずなのに」

「平常ではそうですが、今のフローラ姫様は監禁状態です。少しくらいフローラ姫様の息抜きに貸してくれてもいいではありませんか」



 クロウがボソリと愚痴れば、キャロルが諫める。私は聞こえてない方が都合がいいので聞こえないふりをする。



 使用人部屋とはいえ、さすが王城の中の一室。それも王子の部屋の一室。広い。学校の教室くらいありそうだ。その隅のキッチンに一番に目が行く。マナーを忘れてウィリアムの腕から手を離し、ふらふらとキッチンに吸い込まれるように歩く。



 ガスが燃料かは分からないけど、日本と同じようなコンロが一口。シンクもあるし水道も通っているみたいだ。思っている以上に近代的で良かった。浮かれて、コンロの摘まみを捻ってみるが、何もつかず首をかしげる。キャロルが進み出てきて、コンロの下についている大き目のグリルみたいなところに薪をいれてくれた。薪さえ入れれば火加減の調節は簡単そうだ。


 とろりオムライスの足音が聞こえてきて、うきうきで視線を滑らせると、冷蔵庫みたいなのも見つける。絶対クロウはわざと黙ってた。こんなのプリンも作れるじゃん! 



 私はお兄ちゃんに今度会ったら聞くことリストにプリンの作り方も加えた。



「クロウ、大丈夫。安心して。たまにごはん作る以外は絶対に入らないし、作ったときはクロウの分も作ったげる」



 なおも嫌そうなクロウにご褒美だよとばかりに声をかけた。自分の部屋を物色されてるんだから、そりゃ嫌だと思う。ほんのお礼だ。



「クロウはよいから僕に作ってくれないか?」

「クロウがいいわけないじゃん。自分の部屋を貸し出してもらうんだよ?」

「それを言うなら、クロウの部屋も僕の部屋に含まれるわけだけど?」

「……うん、実は、気づいてなかったけど、心の奥底でふつふつとウィリアムに手料理食べてほしいなって思ってだ気がする」

「だよね? だと思ったよ」

「でも、お兄ちゃんに教えてもらわないといけないから、すぐは無理だよ」



 ストーカーってメンタル強いね。でも、お兄ちゃんも家庭内ストーカーっておもってたけど、実は違ってたし、表面だけで判断するのはよくないよね。怖いけどね!



 視線を感じてチラリとみれば、クールなグレーの瞳がじっと私を見ていた。



「あ、あ、キャロルの分も作らせてね!」



 心なしか顔を輝かせたキャロルは「ありがとうございます」と素直にお礼を言った。




 私、姫なのに。そりゃ日本では平民だけど、ここでは姫なのに!!












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