[4-6]白虎密会
「本当に一緒に働きたい……そう思える時が来た時でいいじゃないってこと」深幸くん、参謀力を発揮します。このチャラ男はデキるチャラ男な4話6節。
――[Time]15:15
――[Stage]紫上会室
【深幸】「うーっす」
……放課後になったらすぐ紫上会室。それが紫上会面子の基本だ。
……しかし……
【鞠】「……マジ私ひとりでいいんですけど」
【四粹】「そ、そういうわけにも……」
【深幸】「どっか行くんすか?」
【四粹】「体育祭関連で出張されるそうなので、僕も同行させていただこうと」
【鞠】「では」
【深幸】「あっ、おい!」
……ひとりでエレベーター使いやがった……まだ玖珂先輩いんのに……。
そうなるとまたエレベーターがここまで上がるのを待たなきゃいけない。
【深幸】「玖珂先輩がいなきゃ交渉なんで無理だろうが……」
【四粹】「いえ、そうでもありませんよ」
【深幸】「え? そうなんすか?」
【四粹】「僕は、本当に附いて行くだけですから。何も、していませんよ」
【深幸】「……アイツが、営業も全部独りで?」
【四粹】「ええ。紫上会会長というラベルが円滑にしているのか……それにしても、あまりに事がスムーズに進み過ぎでは、と思いますが。監視役という立場を考えると、この謎も解明したいものではありますね」
……玖珂先輩は、何だかワクワクしているように見える。普通に楽しそうだ。
いや、何でだよ。芋女を見てて何が楽しいんだよ。
【四粹】「僕は恐らく出張後そのまま帰りますが、茅園さんはどうする予定ですか?」
【深幸】「あー……どうせここ居ても何もすることないでしょうし、俺も帰りますわ。あと信長は野球部の方に顔出してます」
【四粹】「笑星さんは既に挨拶回りをしているようです。では、今日は本当に解散ですね」
集まって即解散は別に珍しいことじゃない。芋女が外に出かける時はだいたいそれだ。
だからそういう時本当に俺は帰る……んだが。今日についてはもとからすぐ此処を出るつもりでいた。そしてそれは、帰る為じゃない。
集まるためだ――
――[Stage]1号館 空き教室
【菅原】「……では、密会を始めます」
誰も使わないのを確認して……白虎の団長と副団長だけで、小会議を開く。
信長が出れない分、俺がしっかりしなきゃな。
【深幸】「取りあえず今日の結集時にチーム対抗の競技に誰が出るかは全て決まりましたね。あとは、出場者それぞれが努力してくれるのを期待するが……」
【副団長】「見た感じ、皆ヤル気は充分あるので、僕たちで練習の機会を設けられないでしょうか。特に、カップルリレーは独特な感覚ですから、練習は必須です」
【菅原】「ええ。可能であれば他チームに気付かれないよう練習できればいいですが……慎重にしていられるほど実際、時間はありません。中間試験がありますからね」
……そう。体育祭、例年の悩み……というか俺たちへの試練なんだが、体育祭の一週間前には中間試験が控えている。
試験には全力で挑みたいのが紫上学園なので、それを邪魔はできない。
【菅原】「前年度の六角は、1時間弱の放課後を自分のチームの練習に費やすよう義務化していました。あの時は反発も多かったけれど……私はそれをやりたい。皆はどう思いますか」
【深幸】「賛成っす」
【副団長】「え……茅園先輩、即答ですか……?」
【深幸】「毎日1時間弱だろ? 試験は大事だけど、別に人生の大舞台ってほどのものじゃない。実際日頃の勉学の調子を確認する機会って学園は位置づけてるからな。だから恩恵も用意されてない」
【副団長】「な……なるほど……中間試験は、重要じゃないと」
【深幸】「そうは云ってねえよ。でも、俺たちは勉強する為だけに此処に居るんじゃないだろ? 文武両道、何事にも全力で勝ちを捥ぎ取りにいく! それが紫上学園らしい姿だと思うぜ」
……まあ、信長を見ててそう感じたんだけど。その点理想論に聞こえても仕方ないが、あの六角先輩を相手にするんだから丁度良いくらいだ。
【副団長】「分かりました。俺も、賛成に」
【副団長】「体育祭、やっぱり勝ちたいし」
満場一致で、賛成となった。つまり白虎は、これから放課後1時間弱、競技練習の場を設けると。
多分、これはスムーズに事が運ぶと思う。前年度の体育祭、六角先輩がこのやり方で結果を出したから。勝ちたいと思ってる奴らは全員、乗ってくる筈だ。
しかしそれは他のチームも考えてくること。場所取りは困難になろう。
【深幸】「放課後練習の場所取りで揉める必要があんのか……」
【副団長】「練習に向いてる場所は、グラウンドや体育館、ぐらいですもんね。ちょっとしたスペースでも練習はできるかもだけど、危ないし……」
【副団長】「グラウンドは運動部が使ってるしなぁ。それを1時間貸してくれ、というのも……」
【副団長】「それを云うなら体育館だって……去年、そういや六角先輩の朱雀チームは運動部と揉めたんだっけ……」
中間試験の週になるとたいていの部活は休みになるから、そこは確実に狙えるだろう。
だが、それ以上をもぎ取ってくるのが六角先輩だ……。もしかしたら今の時点で、もう運動部に話を付けに行ってるかも。
【菅原】「……別に、学園内と限る必要はないでしょう?」
【深幸】「え――?」
……しかし焦りを覚えだした俺たちの一方で、菅原先輩は相変わらず涼しげだった。
【菅原】「霧草には多くないけど、青峰や蛙盤、石栄には公園が結構あるでしょう。それなりに広い」
【深幸】「――!」
そ、そうか……確かに!
学園外の公園なら、近隣の迷惑にならないよう気をつければ……確保は安定しなくとも、スムーズに練習に入ることができる。
【副団長】「し、しかし、それは本当に大丈夫なんでしょうか……変な騒ぎにならなければいいんですけど……」
【菅原】「そこを確実且つ安全に変えて、安心して練習できるようにする為に、紫上会はあるのよ」
【深幸】「ッ……」
……そうか、紫上会が公園の管理に連絡し交渉すれば……。
今は俺が紫上会なのに、気付きもしなかった。流石、元紫上会……やっぱり目の付け所が違う。
【副団長】「だけど、問題はその交渉を、あの会長がやってくれるかどうか……」
【深幸】「あー……それは、確かにちょっと不安があるなぁ……」
【副団長】「ちょっとなんてもんじゃないですよ! 今日だってずっと体育座りしてましたし……」
【深幸】「まあ、明日にでも話してみるわ。今日はもう出張しちゃってるし」
【団長】「ほう、出張……玖珂から聞いてたけど、営業も得意なのね砂川さんは。今日話してみた限りだと、意外」
【副団長】「話さずとも意外に思うんですけど……」
【団長】「兎も角、白虎組が学園外の公園を使いたがっている、と会長にお伝え願える? ちゃんと、白虎と限定してね」
【深幸】「了解っす!」
前年度の紫上会といったら六角先輩と玖珂先輩の黄金コンビだったけど……
やっぱこの人も、あの2人に劣らず極めて優秀だと思った。
【菅原】「さて……それから、ダンス応援の件は……茅園に任せていいのかな」
【深幸】「あ、はい。ん……だけど団長も入ってるんだし、リーダー団長でも……」
【菅原】「いや、私はあまり目立ちたくない。たまには松井に譲らず、自分が先頭に立ったらどう?」
【深幸】「マジすか……」
俺はリーダーにはなれない器なんだが……。
しかしリーダーといっても、あくまでダンスの指導を中心になって行う人間でしかない。主役では決してない。本番輝くとしたら、矢張りそれは菅原先輩だろう。
その輝きを少しでもアピールに持って行く為に……経験者が先導するべきなのは当然の流れだ。
【深幸】「……分かりました。ガチで俺が中心になって作ってきます」
【菅原】「ちなみに何か、楽曲の候補はあるのかな」
【深幸】「ええ、一応。ていうか、ちょっと皆に俺の作戦聞いてほしいんですけど――」
【副団長】「作戦……?」
……………………。
……………………。
……………………。
【深幸】「――てな具合で」
【副団長】「て……」
【副団長】「天才だ……」
【菅原】「君に任せる。多分……その発想は六角もしてこないだろうね。強力なアドバンテージになる」
【深幸】「うっす。じゃあこの方向で固めて、後日ダンス応援の面子集めて発表します」
【菅原】「……君が紫上会の会長でも、良かったかもね」
【深幸】「――は? いきなり何ですか……?」
【菅原】「何となく」
……この人結構、遊びを入れてくるな……。一見超マジメなのに。
【深幸】「俺がやるぐらいなら、信長に譲りますよマジで。頂点は兎に角、キラキラ輝いてなきゃ。先輩方みたいに」
【菅原】「……その気持ちはすっごく分かるんだがね。君もそのキラキラしてる一人だと私は思うんだが」
【副団長】「ですです」
【副団長】「茅園先輩、砂川先輩と代わってくださいよ本当……」
【深幸】「は、はぁ……」
何だかなぁ。
俺が会長は……やっぱり、ダメだと思う。
【深幸】「まあ、あの芋女よりは輝いてるつもりなんすけどね」
【副団長】「というか、先輩はあの会長を、認めてるんですか?」
【深幸】「え? んー……それも、何と云うかちょっとムズいんだが……気に入らないよ? でも、事実としてアイツは会長でさ。俺、それは否定するつもりないんだよ、実際凄い奴だし。ただまあ、他の面子に仕事させないのはどうかなぁとは」
【副団長】「マジで一人でやっちゃってるんですね、あの人……噂には聞いてたけど……」
【副団長】「それって、どうなんですか?」
【菅原】「規則上、禁止されてはないね。まあそんな人が出てくるのを予想してなかったとも云うが。しかし、松井は可哀想になってくる。茅園はどう?」
【深幸】「……実際、マジで俺紫上会で一つも仕事してないんで。これでいいのかなぁ、とは流石に」
【菅原】「面白い悩みだ」
笑い事じゃないんすけど。
【菅原】「しかし実際茅園は優秀だよ。先の作戦もそうだし、思考も速い。松井も非常に優秀だけど、少し優柔が足りないからね。多分……君の方が仕事はできる」
【深幸】「ちょ――!?」
【菅原】「だがそれを云うなら六角と玖珂の関係も同様だったからね。優秀か否か、というのは結局のところ紫上会ではあまり問題にならない。何とでもなるもの」
【副団長】「優秀じゃなくても、なれる……?」
【菅原】「といっても実力試験で3位以上にならなければいけないから、相当の努力を積むことにはなる。それだけ積めて結果を出す人間が、落ち零れだなんてことは滅多に無いかな。話を戻すと……茅園はもっと、主役になっていい」
【深幸】「主役って……だからそれは――」
【菅原】「云い方が変だったかな。もっと自分の好きなようにやっていいってことだ。君は主役の隣に居るのが本望なんだろう? 気が合うね、私もそうだったから」
……もっと。
自分の、好きなように。
【菅原】「推測でしかないが、茅園は松井が会長で、それを一番隣でサポートする書記として紫上会を目指した……が、現実には思ってもみない存在が会長になって、松井も仕事が全然こなくてキラキラする機会すら無くなってしまっている現在、この紫上会で自分はどうしたらいいか……」
【深幸】「ッ……」
やっぱ……相当に、鋭いな……俺自身そこまで明確に俺のこと分かってないんだけど……。
【菅原】「その一方で、会長になった彼女は実際実力者。キラキラというのは自分の基準でしかなく、正しい方法で彼女は選ばれた。だからどんなに自分にとって会長らしくない人でも、会長と認めて補佐していかなければならない……これで悩んでるんでしょう?」
多分、そういうことだろう。
アイツを気に入らない……受け入れきれない理由の本質は、アイツというより俺にある。
どうしても、アイツが会長だというのがくっつかない、俺の心に――
【菅原】「いいじゃない、それで」
【深幸】「え?」
【菅原】「本当に一緒に働きたい……そう思える時が来た時でいいじゃないってこと。無理に二者択一する必要は無いと思う」
……え。
そんなこと、云うの? この元紫上会の人が?
【菅原】「そこで何をやりたいか……一番大事なことだと思う。私も最初は六角に嫌気が差していたからね。ただ、アイツのやり方っていうのがだんだん分かってきてからは……案外楽しかったしね。紫上会も、楽しむところだと思うからさ。彼女が全部上手に仕事をやっている今は、ゆっくり彼女を見ていればいいんじゃない」
【深幸】「アイツを……見る、ですか」
【菅原】「すぐに認められなくて当たり前。彼女は私たちにとって、あまりに異質なんだから。だから……今見えているものが真実の全てとは限らない。これからなんだよ、だから焦らなくていい」
【深幸】「……先輩……」
【菅原】「それに、とても気難しい相手ではあるけど……それも含めて会長を知って、そして会長に合わせ,時に反発していくことが、周りの仕事でもある。仕事は、無いわけじゃないよ。事実として彼女は、独りで紫上会を更生しているわけではないのだから」
【深幸】「――!!」
……それも……
それも、仕事に、なるのか。
【深幸】「……分かりました! どうなってくかは分かんないすけど……今は、あの芋女を見張ってようと思います!」
【菅原】「うんうん」
【副団長】「何か、凄い会話を目の当たりにした気がする俺……生の紫上会の会話……」
【副団長】「やっぱ憧れるなぁ……紫上会、俺も入れるかなぁ……」
……。
…………。
……………………。
――[Time]18:15
――[Stage]深幸の家
【深幸】「――もっと好きにやっていい、か」
……それなりに自由にやってるつもりではいたんだけど、先輩に背中を押してもらった感じで……俄然、ヤル気が出てきた。
俺だって、好きにやっていいんだ。もっと自分の考えに我が儘になっても。
【深幸】「……お前に、煌めきを見せてやる」
既に何度か本人に宣言していることを、再度決意に秘める。
強者たる会長への、一つの反発として。
【深幸】「……うし、その為にも……璃奈ー、瑠奈ー。ちょっといいかー?」
【璃奈】「なーに、にー?」
【瑠奈】「にーちゃん、どしたのー?」
【深幸】「今、皆さ、どんなダンスとかアニメ、流行ってるー?」
作者のチャラい友達も皆賢い人ばかりです。




