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砂川見聞録  作者: ぢだぱぢぴぢぱぢ
3話「砂川、裁く」
49/336

[3-13]そんなわけないよね

 「俺は!! 紫上会に、相応しくないんだよ!!!」笑星くんと邊見くん、親友の絆が試されます。3話の主役はもはや邊見くんな13節。


挿絵(By みてみん)




――[Day]8/25

――[Time]8:15

――[Stage]紫上学園 正門




【邊見】「……? あれ?」


 いつも通りの時間の登校だった。


 だから、いつもならえっちゃんや会長先輩と会える。けど今日はどっちとも会わなかった。まあ、特に約束しているわけでもないし、こういうこともあってもいいよね。そう思ってた。


 だけど……校門の前で、彼は立っていた。


 周囲の人に怪訝な目で見られながらも、それは気にしてない様子で、ただ……何か別のものを見詰めているような……見たことのない姿に思えた。


【邊見】「……えっちゃん?」


 話しかけた。


 ……えっちゃんの目が、元に戻らない。


【笑星】「……邊見……」


 だけど、反応してくれた。それだけで、ちょっとホッとする。


【邊見】「おはよー。どうしたのえっちゃん? 何か、元気無いけど――」

【笑星】「邊見……ちょっと、いい――?」

【邊見】「え……?」


 ……………………。




――[Stage]紫上学園 用務通り




 この時間に、此処に来ることは、まずないと思う。


 というか多分、僕はこの一帯に入ったことが一度も無い。別に嫌なわけじゃなくて、ただ本当に、用が無いから。


 だけど、もうすぐHRが始まろうという時に、えっちゃんはわざわざ此処に、僕を連れてきた。


【笑星】「……………………」


 ただごとじゃ、ない。


 だから僕も、いつも通りではいられなかった。


【邊見】「えっちゃん――どうしたの!? 何か、云われたの!? 何かされたの!?」

【笑星】「……………………」

【邊見】「何でも、云って! 会長先輩みたいに役立てるかは分からないけど……僕は、えっちゃんの、味方だから――」


 ――と、気付いた……えっちゃんが、俯きながら……涙を流してる、ことに。


【笑星】「……ご…めん……」

【邊見】「えっちゃん……?」

【笑星】「邊見は……いつも、俺のこと、無償で助けてくれる……俺なんかのこと、親友って……云って、くれてたのに……俺――」


 ドキドキとする。


 胸が、騒いでる……静かに、だけど激しく……吐き気がしそうな、空気……。


 僕はもう、何も言葉が出てこなかった。


 えっちゃんが……分からなくて……ただ、えっちゃんの言葉を待つしかなかった。


 だからか、聞き漏らすことも、なかった――


【笑星】「俺、邊見に毒をッ、盛ったんだ……!!」


 ――えっちゃんの、告白を。


【邊見】「……………………」


 ……それを理解するのに、随分と時間がかかったと思う。


 一体、何を云ってるんだろうと……本当、ワケが分からなくて、結局思考がまとまるよりも前にえっちゃんが更に喋る。


【笑星】「邊見がトイレ行ってる間に、俺は……自分が持ってたパンを、邊見のコップに、ジュースに漬けたんだ――だから、邊見はソレを飲んで、それで――」


 そこまで聞いて、いつのことを云っているのかがやっと分かった。


 きっと……実力試験の前日のことで。


【笑星】「俺、お金が欲しかったからッ、だけど紫上会に入るには全然学力足りなくて、どう考えても無理で――だけど食中毒がいっぱい起きて、もしかしたらって――思って――」


 あの時の、えっちゃんが抱えていた不安や葛藤で。


【笑星】「いけるかも、紫上会入れるかも――けど、隣には、邊見がいて――!!」


 そして……自分への。


【笑星】「だから――俺は――俺は!! 紫上会に、相応しくないんだよ!!!」


 絶望。


【笑星】「邊見!! 邊見、俺は……お前が入んなきゃいけなかった場所を奪って……そんな奴に、紫上会が務まらなくて、皆から信頼されなくて、当然なんだ――」


 膝を着いて、地面に頭を着けて……全部を、吐いていく。


 見下ろす僕を、見上げることもできずに。


【笑星】「――許して、なんて絶対云わない……俺、邊見の友達失格だから――紫上会も失格だから……だから」

【邊見】「……………………」


 ……そっか。


 そっか、そうなんだ。


 そういうことを、するんだ。


【笑星】「俺の、代わりに……紫上会に――」




挿絵(By みてみん)




【笑星】「――え?」


 地面に近い肩を掴んで、上に上げて……


【邊見】「……だーめ。許してあげない」


 抱きしめた。



【邊見】「紫上会を辞めたりなんかしたら、折角、許してあげてもいいのに、僕許さなくなっちゃうよ?」


 これ以上、えっちゃんが……僕の親友が、離れていってしまわないように。


【笑星】「邊――見――?」

【邊見】「よしよし……よく、頑張りました~」


 背中を、撫でる。


 色んなものを背負ってしまっていた、少し頼りない背中を、できるだけ優しく……。


【邊見】「もういいよ~……背負い込まなくて、いいよ~……」

【笑星】「邊見――なに、何してるんだよ……どうして――」

【邊見】「えっちゃんは……独りじゃ、ないからね~……」

【笑星】「俺に――優しく、してるんだよ……――」


 戻ってきて。


 戻ってきてえっちゃん。お願いだから。


【笑星】「俺は……邊見に――!?」

【邊見】「それはさ……もう、どうだっていいことなんだよ、えっちゃん」

【笑星】「ぇ――」

【邊見】「勿論、それはえっちゃんをこんなに苦しませてきた、決して小さくないことだよ。でもね、僕は……本当にどうだっていいから」


 そんなことの為に、えっちゃんが何処かへ行ってしまう方が、絶望に値するから。


【邊見】「結果が全て、なんだよ。えっちゃんが勝って、僕も勝って、でも砂川先輩も勝って。皆の為に玖珂先輩が立ち上がって。それで、今の紫上会が出来上がった。これはもう、事実だから」


 そして、この事実はこんなことに比べたら、絶望とは程遠い。寧ろ――


【邊見】「楽しみなんだ、僕……なれなかったのは正直悔しいけど、でもそれ以上に今……えっちゃんと砂川会長が、どんな紫上学園を作っていくんだろうって想像するとね……僕すっごい、ワクワクするんだよ」

【笑星】「――――」

【邊見】「だから……えっちゃん、これ以上僕に、迷惑かけないでよ。紫上会を辞めるだなんて、云わないで? まだ始まったばかりなんだから。えっちゃんお得意の行動主義が、まだ全然出てきてないよ? えっちゃんの本領は、そこからなんだから」


 現実は、希望に満ち溢れている。


【笑星】「無理だ――俺、なんかに――」

【邊見】「ううん。ずっとえっちゃんを見てきた親友が云うんだよ、間違いないよ、えっちゃんは……皆を笑顔にできる人だから」

【笑星】「ッ――!」


 そう。えっちゃんは、希った道に、到達した。


 ここからが、大事なんだ。


【邊見】「皆を……僕を、幸せにしてくれるんでしょ? 笑顔が沢山の学園を、作るんでしょ?」

【笑星】「――邊見は――俺を……こんな俺を、赦すの……?」

【邊見】「さあ……どうしよっかな。どっちでもいいや。えっちゃんが紫上会に残ってくれる為なら赦すし、えっちゃんが紫上会でこれからも頑張ってくれる為なら赦さない」


 どっちでもいい。


 ただ――えっちゃんがこんなところで引き返すことだけは、絶対させない。


【邊見】「えっちゃん……えっちゃんの、夢を訊かせて?」

【笑星】「俺の――夢?」

【邊見】「えっちゃんは、お父さんたちの為に紫上会に入った……だけど、入るだけじゃないよね? えっちゃんは、お金だけに憧れたんじゃなかったよね?」

【笑星】「……俺は……俺は――」


 がしっ。


 背中に手が回った。強い力。強い思い。


【笑星】「――邊見に……憧れたんだ……邊見みたいに、優しくて、俺を何度も助けてくれて、そんな凄い友達みたいに俺もなりかったんだ――俺も邊見みたいにッ、誰かを元気づけて笑わせる強い人に――!!」


 本物の、えっちゃんの言葉。


【笑星】「姉ちゃんに憧れたんだ! 家族の為に、ひたすら働いてくれて、お金稼いでくれて、しかも俺の学生生活まで第一に考えてくれて!! そんな格好良くて強い人に!!」


 僕の知っている、情熱。


【笑星】「六角先輩に、玖珂先輩に、松井先輩にも!! それに茅園先輩にも……砂川会長にも、俺、憧れてる……!! 俺よりもずっと、強い人達に!! そんな人達の……紫上会の中に、俺、入って――」

【邊見】「――どう? えっちゃんは……どう思ったの?」

【笑星】「――最高って、思った……! 俺はこれから、こんな凄い人たちの働く場所で、働けるんだって……ここなら、皆をきっと笑顔にできるって――!!!」


 僕を夢中にした、堊隹塚笑星という人のすべてが、蘇る。


【邊見】「なら、それを大事にしていこうよえっちゃん。これから、頑張っていこうよえっちゃん! それが……皆の無念への、報い方だよ。ううん、そんなの考えなくていい……勝者は、好きにやっていいんだよ!!!」

【笑星】「邊見ッ――邊見ぃいいい……!!! ごめん、本当にッ、ごめんよ――!!」

【邊見】「……うん……」

【笑星】「絶対、頑張るから――邊見を、苦しませた分、俺が邊見を笑わせるから……幸せにするから――!!」

【邊見】「うん」

【笑星】「ありがとッ……本当に、ありがとう……ッ――!!」

【邊見】「うん――」


 きっと、えっちゃんのことだから……これからも何度も自問自答するんだろう。えっちゃんは素直だから。皆のことを第一に考えるから。皆の“冗談”を、真剣に聞いてしまうから。


 だけど、えっちゃんは独りじゃないから。紫上会にはえっちゃんだけじゃないから。凄く頼りになる人達が揃っているのだから。


 えっちゃんはきっと、進んでいける。走って行けるよ。




【邊見】「…………」


 ――だけど、僕は一つ、えっちゃんに嘘をついた。


 どうでもいいって、云った。


 今回のことを、どうでもいいと。



挿絵(By みてみん)




【邊見】「――そんなわけないよね」




 作者は喧嘩をする気力もありません。

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