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砂川見聞録  作者: ぢだぱぢぴぢぱぢ
3話「砂川、裁く」
48/336

[3-12]毒

 「貴方は、数日前から悟っていた筈です。貴方は――実力試験で、勝てないと」笑星くん、毒牙に襲われます。言い訳のしようがないヤバすぎる3話12節。


挿絵(By みてみん)




 ……今日も、俺はクラスで孤立していた。


 昨日の事件で、何か変わるだろうか……そう思っていたけど。何も変わってなかった。


 いや――


【学生】「堊隹塚、カンニング疑惑だってよ……ほんと重ねて酷い奴だよな……」

【学生】「そんな奴だとは思わなかったよ……」


 ――寧ろ、悪化してる。


【笑星】「そんなこと、するわけ、ないのに……」


 そんなことしたら姉ちゃんに絶対怒られる。


 お金は、正当な手段でもって獲得するべき対価なのだから。


【邊見】「えっちゃん、おはよ~」

【笑星】「え……邊見? おはよ」


 ……もう一つ、今日ちょっと変だなって思ったことが一つ。


 邊見が、違うクラスなのに、随分と俺に会いに来たってこと。


【邊見】「えっちゃん、勉強ちゃんとやってる~?」

【笑星】「え……? そりゃ、勿論……俺紫上会だし、学力無きゃ、信頼されないし」

【邊見】「何だか別の理由で信頼されてない空気は、あるけどね~」

【笑星】「んぐ……やっぱり、気付いてる、よな?」

【邊見】「親友ですから~」


 きっと……邊見は、俺のことを想って、来てくれているんだ。


 俺が、孤立しているから……。


【邊見】「ごめんねえっちゃん、昨日えっちゃんが大変な時に、僕もう帰ってて……」

【笑星】「邊見は全然悪くないじゃんか。謝らなくていいよ。邊見が謝る事なんて、何もない」


 寧ろ、俺が謝ることの方が絶対多い。


 邊見は、実力試験当日、体調を崩してたから……俺が無理させてしまったんじゃないかって――


【邊見】「えっちゃん、また変なこと考えてる?」

【笑星】「え……?」

【邊見】「えっちゃんは、紫上会なんだから、皆を笑顔にするためにはどうしたらいいかー! みたいなことばっかり考えてればいいんだよ~」

【笑星】「……邊見」

【邊見】「その為に入ったえっちゃんは、それを頑張る義務があって……勿論権利もあるんだから、誰かにとやかく云われる筋合いは無いんだよ。だって、勝者なんだから」


 ……勝者。


 俺は勝者……なのに。


 どうしてこんなにも、弱いんだろう。邊見の方が遙かに優しくて、強くて……俺を助けてくれる。俺が助けようとするよりも沢山、俺を助けてくれる……そんな邊見の方が。


 ずっと――勝者の筈なのに。邊見は紫上会じゃなくて。




 どうして、俺は紫上会に居るんだろうか?





【???】「――そう、貴方は理解しなければいけません」

【笑星】「ッ……」


 色んな事を考えて。


 色んなものに悩んで。




――[Day]4/24




 ここ1日、2日俺が何をやっていたかとか、あまり覚えていない。


 悪夢のような……何もない日常だった。そんな気は、している。


 だけど、今俺は、邊見じゃない誰かと、会話している。


【冴華】「……貴方と、少しお話がしたくて」


 知ってる。村田先輩だ。


 新聞部に居た……今はもう無くなってるけど……凄く頭の良い人。


 ……何で、今俺、そんな人と?


【冴華】「……少し、意識蒙昧としているようですね。相当、精神的に参っているのではなくて?」


 そうだ。だから、記憶があんまりなくて……。


【冴華】「貴方は今、酷い目に遭っています。それはカンニングをした貴方の所為ですが、別に貴方をそこまで貶めたいわけではないんですよ、皆」

【笑星】「……カンニング……?」


 違う。そんなこと、してない。


【冴華】「砂川鞠の時もそうですが、これを証明する手立てはお互いありません。ですから、貴方が否定する、それを彼らは非難する……この構図は下手をすればこの先変わることがありません」


 もし、そうなら。


 俺は延々、皆から……紫上会と、認められない……?


【冴華】「それは何と云うか、お互い何のメリットにもならないでしょう? ですから、別の何かで以て、今起きている抗争には決着をつけるべきなのです。気持ちの良い学園生活の為に、いち早く現紫上会問題を終わらせなければいけない。貴方も、そう思うでしょう?」

【笑星】「…………」

【冴華】「ところで、話は少し変わりますが……貴方は、どうして紫上会を目指したのですか?」

【笑星】「え――? どうしてって、それは……紫上学園の皆に、恩返し、したいから……」

【冴華】「恩返し、と」

【笑星】「皆に、沢山助けてもらったから……今度は、俺が皆を助ける存在になりたくて……皆で笑顔になれたら、絶対良いことだって……だから――」

【冴華】「笑顔を撒き散らす……B等部の時点で多少噂になっていましたが、本当にそんなことを思ってるんですか? まあいいですけど。ただ……それだけじゃないでしょう?」

【笑星】「……え――?」

【冴華】「貴方には、紫上会に入りたい……否、紫上会に入らなければならない、それくらいの意気込みで紫上会を目指していた筈です」


 ……ドキリ、とした。


 それは……もしかして……


【冴華】「家族を支えたい――これだって、確実な理由でしょう?」

【笑星】「な――何で――」

【冴華】「実質、姉の給料のみが頼りの家。貴方は、今は健康体になりましたが学生の身。だけど、紫上学園なら、相当な額の恩恵を受けることができる……紫上会入りすれば尚更に」


 そう……俺が、紫上会を志した強力な理由は。


 やっぱり、お金の為で――


【冴華】「貴方は、何としても、勝ちたかった」


 村田先輩の言葉が――俺の心を、代弁する。


【笑星】「そ……そう、俺は……もっと、楽させてやりたいんだ……父ちゃんも母ちゃんも、そして姉ちゃんも……」

【冴華】「元々貴方は勉学が得意でなかった。だけど、志すようになってから、親友の手を借りながら、必死になって学力を上げた。実際、感心します。貴方は他の学生を凌ぐ勢いで学力を上げていったのだから」


 沢山。本当に沢山、教科書を読んで。ノートを使って。鉛筆を消耗して。


 邊見に質問して。邊見に教えてもらって。こっちに戻ってきた姉ちゃんにも夜附き合ってもらって。


【冴華】「貴方の学力向上に貢献したのは、間違いなく……そう、間違いなく、邊見くんと姉である秭按先生でしょう。この2人に相当の労苦を味わわせておきながら、貴方は結果を出さないわけにはいかなかった」


 相当な……プレッシャーを背負いながら……


 本番の日が、速度を緩めることもなく、近付いてくる。


【冴華】「貴方は、数日前から悟っていた筈です。貴方は――実力試験で、勝てないと」

【笑星】「――!!」

【冴華】「そうですね、ランキングでいえば……中の上、が関の山。邊見くんには可能性がありましたが、貴方には……」


 また……村田先輩が、俺の思っていたことを……


【冴華】「紫上会に入れる可能性は、無かった」


 代弁、する。


【笑星】「…………」

【冴華】「だけど、前日……恐ろしい奇跡が舞い降りた」

【笑星】「ッ……」

【冴華】「貴方は……喜んだんじゃないですか? そんなこと、考えてはいけない、そう思いつつも……一瞬でも、貴方は――」

【笑星】「ち……ちが――」

【冴華】「自分が紫上会に入れるかもしれない、と」


 胸が、突き刺されたような。


 身体が、動かなくなるような。


 立ってるのか、分からなくなるような気分のなか……村田先輩が、更に、俺に近付いてきて……目と鼻の先で、俺の目を、まっすぐ見詰める。


【冴華】「……幸いにも、貴方と邊見くんは、()の惨劇には巻き込まれずに済んだ。貴方たちは、食べ物を持ち帰っただけで、それを口には入れていなかったから。そう――」


 更に、口を近付けて。


 耳元で、俺に、語りかけてくる……


【冴華】「――邊見くんも、ね」

【笑星】「ッ――!?」




*****



【邊見】「……えっちゃんは、大丈夫~?」

【笑星】「え?」

【邊見】「準備、できてる? 苦手は克服できた?」

【笑星】「……微妙、かなー」

【邊見】「そっかー……でも、どうなるかなんて、賽を振る前なのに分かるわけないよね~」

【笑星】「…………」



*****




【冴華】「気付いた――貴方にとって、今最大の敵は……邊見くんだと」


 そんな。


【冴華】「貴方は、何としても紫上会入りして、沢山のお金を手に入れたい……それを使って家族に楽させる、冗談じゃなく真剣な理由があるのに――」


 そんな、わけが。


【冴華】「ただ、貴方と一緒なら楽しい、そんなふわふわした理由だけで、貴方以上の学力を振るい……貴方から2つしかない枠のうち1つを奪おうとしている――敵が」


 そんなわけが、ない――


【冴華】「だから、今、絶対敵わない相手を……潰す最後のチャンスだった!! 貴方の手には……潰すためのものが、一つある――非常に危険な、食べ物が」




*****



【邊見】「えっちゃん……ありがと」

【笑星】「えっ……? いきなり、何?」

【邊見】「んー……えへへ、何となく! でも、今、僕楽しいからさ~」

【笑星】「楽しい?」

【邊見】「こんなに、一生懸命になってるのって、きっと良いことなんだよ。だから……紫上会に誘ってくれたえっちゃんのお陰だと、思うんだー」

【笑星】「……そっか」

【邊見】「えっちゃん、ちょっとお手洗い行ってくるね~」

【笑星】「あ、うん」



*****




【冴華】「隙を見て――貴方は――」

【笑星】「ッ……!? ぅぅぁぁぁぁあああ――!?」

【冴華】「自分のしたことからッ、逃げてはいけません!!」

【笑星】「――!?」

【冴華】「云いづらいでしょう、その気持ちは分かります、ですから私が、また、代弁してさし上げましょう!!」


 違う、そんなわけがない、俺がそんなこと――


 違うんだ……俺は……俺は……


 お金の為に……自分が勝つ為に――


 邊見に――


【冴華】「貴方が、彼に毒を盛った」


 ――毒を――盛った――


【冴華】「前日はあんなに元気だったのに……当日、彼はマスクをし……フラフラしながらも……実力試験を受けました。結果、彼は貴方に敗北した……」


 ――そして――


【冴華】「貴方は、今この現実で、紫上会入りを果たした」


 ――俺は、邊見じゃなくて、俺が……紫上会に――


【冴華】「邊見くんは、体調を崩した自分が悪いと思っているそうですが……どうですか? 彼は……あまりに可哀想ではありませんか? ねえ、どう思いますか? 紫上会の笑星くん――」


 どうって――ずっと、ずっと、そんなの……思ってきたことだ……。


【冴華】「――何で、邊見くんが紫上会じゃないんですか?」

【笑星】「――――」


 視界が、下がる。景色が上がる。


 膝を着いた……のだろうか、分かんない……俺は……何して……


 俺は邊見に何をして――


【冴華】「貴方にとっても苦しいことだった。実際よくあるんですよ。不思議には思いますが、そういう時……あまりに辛い記憶を、自分で封印してしまえることが……しかし、貴方は思い出した、不可解な現実を、紐解く……貴方がやったことを」

【笑星】「――――」

【冴華】「その上で、問います。貴方は――紫上会を、続けますか?」



【鞠】「…………」




 作者は徹夜漬けした程度であっても何故か当日満点取れる自信が湧いてくる派です。

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