[7-1]幸せになれるわけもない
「お前がどう回りくどいこと考えてようと、俺はあの子に期待してる」四粹くん、変わらぬ結論。この1節の入り方からもうお察しかもしれませんが、その通りな7話の始まりです。
――[Stage]玖珂家
【四粹】「……四粹、帰りました」
家に帰宅した。
……本来ならば3日程度離れるだけだったのに、1週間以上も帰宅に遅れた。
僕は、それなりの罰を覚悟していた。
【玖珂】「おう。お帰り、遅かったなぁ」
が、玖珂さんは特に変わった対応を見せない。
いつもの雰囲気。
【四粹】「申し訳ありません。合宿先で、怪我をしてしまい」
【玖珂】「ん? 松葉杖か。骨折でもしたのか、珍しい」
【四粹】「その、恐れながら玖珂さん、一報は入れておいた筈ですが……」
【玖珂】「マジか。多分確認はしてるが……いつも通り内容を忘れちまってたな! ははは!」
どこまで本当でどこまで嘘なのか。
掴めない人だった。
【玖珂】「なるほど、それで今まで入院してたのか。ん、入院費とかは?」
【四粹】「紫上会で一括して入っていた災害保険が適用されました」
【玖珂】「なるほど、うちの家計には影響がなかったか。一安心だ」
【四粹】「家計を心配されてるんですか?」
【玖珂】「まあな。実は2日前にうちの会社ぶっ潰れてなー。出勤したら事務所はもぬけの殻で社長の机にお墓置いてあるんよ。流石におじさんビックリ」
【四粹】「それは、重大事項ですね……」
【玖珂】「まあ、何とかするさ。しばらくはお前さんが稼いだ給費で凌げるだろう。だからといって投資を惜しむなよ? これはお前さんの金なんだからな」
【四粹】「投資は特に手を出していませんが」
【玖珂】「そういうのじゃなくて、ダチと飲みに行くとか、旅行するとか、そっちの意味。てか、折角女の子にモテモテなんだからよ、遊べ遊べ!! 遊ばないのが究極の無駄遣いだぜ」
【四粹】「いえ、僕なんかが……というか、どうして僕の交友関係を知ってらっしゃるんですか? 特に明かした記憶がありませんが……」
【玖珂】「あれ、気付かなかった? 体育祭、俺観に行ったんだが」
【四粹】「…………」
何の目的で、観戦を……?
【玖珂】「何の目的で観戦を、って顔してんな」
【四粹】「……その通りです」
【玖珂】「決まってんだろー、四粹がちゃんと上手くやれてんのか、俺直々に確かめに行ってやったんだよ。ま、心配損だったがな」
【四粹】「は、はあ」
【玖珂】「それで、誰狙いだ?」
【四粹】「はい?」
【玖珂】「とぼけんな、女の子だよ。誰狙いだ?」
玖珂さん……もしや。
【四粹】「紫上学園の女子を、勝手に品定めされていたのではありませんか……? 場合によっては、紫上会の手が及びかねません玖珂さん……」
【玖珂】「愛する四粹くんの為を思えばってやつさね。理解してくれ。で、誰だ?」
この人は、何と云うか……。
【四粹】「僕には楽しむ資格はありません。無論、恋愛というものに身を委ねることも。僕は紫上会という、皆さんが寄せてくださっている信頼に応える義務を全うする。それが、全てです」
【玖珂】「相変わらずだねぇ。しかし……俺ぁ見たところ、案外楽しめてるようにも見えたが」
【四粹】「……え?」
【玖珂】「六角くんも頭おかしかったが、今年の会長も面白いじゃねえか。期待、してんじゃねえか?」
【四粹】「…………」
玖珂さんはよく大切なものを省略する。だから云っていることの真意を、掴みかねることがとても多い。
期待……とは何だろう。
僕が、会長に、何を期待していると玖珂さんは考えているのか。
【玖珂】「ていうか普通にイイ女だろ。金も持ってそうだしなぁ」
……まさか、本当にそっちの期待じゃ、ないだろう。
【四粹】「……玖珂さん、貴方のことです、分かっているでしょう? 彼女が……何者なのか」
【玖珂】「…………」
小さく笑う。
恐らくは肯定の意。
【四粹】「なら――」
【玖珂】「四粹よぉ……それが、何だって云うんだ」
【四粹】「え?」
【玖珂】「愛のためなら、些細なもんさ何事も。お前がどう回りくどいこと考えてようと、俺はあの子に期待してる」
【四粹】「……玖珂さん」
【玖珂】「……俺がいつまでも、護ってやれるわけでもあるまいしな」
その零した独り言には、違和感があった。
【四粹】「それは、どういう――」
【玖珂】「独り言に口出しすんな。分かってんだろ? 俺は口が、かたーい」
大胆に寝転がった。こうなると、経験則上、玖珂さんは自分から話さない限り何も口を聞かない。とても自由な振る舞いだ。
……だから、此処でそれ以上何かを口に出しても、それは全て僕の独り言になる。
【四粹】「――僕には」
*****
【笑星】「井澤先輩、また真理学園のこと、聞かせて!!」
【謙一】「ああ、今度会えたらな。茅園も、ダンス部と紫上会頑張ってな。来園は甲子園観に行くわ松井」
【深幸】「うっす!」
【信長】「是非、紫上学園に声援いただければ」
【謙一】「……それと――」
【四粹】「……?」
【謙一】「――この先も砂川と一緒に居るってんなら……俺は容赦しないぜ」
*****
【四粹】「幸せになる権利なんて、あるわけがない」
【玖珂】「…………」
彼には――気付かれていた。
どこまでかは、分からない。だけど、僕は……彼女と関わってはいけない人種だと。
……どうか、信じていただきたいが。井澤さん、僕は彼女を傷付ける意思を持たない。ただ、彼女の役に立ちたい。皆にとって価値ある玖珂四粹でありたい。それだけ。
だから――僕は幸せを求めない。
直感している。
もし。もし求めようものなら――
【玖珂】「……フッ……莫迦者め――」
畳は落ち着くけどすぐカーペットで覆いたくなる派です。




