[6-35]絶望が奔流する
「掴まって!! 死にたいんですかッ!!!」砂川さん、最高に焦ります。自然の力、忘れないようにしたいものです6話35節。
【鞠】「――待てよ?」
そもそも、何でこんな所に、カードが設置されている?
【亜弥&英】「「私のぉおおお……!!!」」
複雑に絡み合ったリアルジャングルジムの一カ所に紐で括り付けられていることから、まあ間違いなくあの木に貼ったということでいいんだろうけど、こんな斜面で争わせるとか、怪我しろと言ってるようなものじゃないか?
しかもこの場所、副会長も分かんないって云ってる場所だし……私達の真後ろに建ってる廃工場、鉄筋剥き出しで可成り危ない。
そしてこの天気……は、予報にも無かったし多分運営陣も予想外だろう。
ただ結果として私達が降ってきた、また亜弥ちゃんたちが居る斜面は、雨によって作られた川に変わってきている。これが雨だけで出来上がってると考えたら脅威だし、これから豪雨の勢いと時間に比例してどんどん強力になっていくだろう。
【鞠】「亜弥ちゃん、えっと、英さん、そろそろ本当危な――」
――って。
【鞠】「え――?」
私は――この時、ようやく、気付く。
2人がよじ登っていた、ジャングルジム化していた木々。その根元に視界がいった。
数本は絡み合ってるであろう、この奇怪な木々たちの根元には――2本しか見当たらなかった。
【鞠】「違う……これは、絡み合ってるんじゃない……」
【四粹】「会長……?」
後ろを振り返る。屋根の低い工場の背景に……さきほど私達が降ってきた、管理された山……。
勿論、この山も斜面の塊なのだから、強力な川を形成していて。その勢いは……
【鞠】「木を流してくるほど……ッ!」
何の工場だったのかももう分からない、ボロボロの廃工場の中に駆ける。
暗いが、見渡す。何か無いか!
【鞠】「……!」
入ってすぐ転がっていたカートの中に……縄だ。
取り上げて、重さや長さを確かめる。体育祭の綱引きに使われたぐらいの長さや重さはある。
腐食が心配ではあるけど、あの距離なら……
【鞠】「副会長!!」
【四粹】「会長、それは」
【鞠】「今から、あの莫迦2人を回収します。えっと……ここに、結びつけて……」
剥き出しになっていた壁の鉄筋数カ所に、縄を硬く締めていく……それから外に出て、まっすぐ斜面へ。
2人の居る場所へと、縄を投げ込む!
【英】「――取ったぁ!!」
【亜弥】「ぐ……ぐぬぬぬぬ~……」
どうやらあちらの熾烈な闘いも決着がついたようだ。
【鞠】「亜弥ちゃん! 英さん!! 今すぐ縄に掴まってぇ!!」
【亜弥】「え……す、砂川さん!?」
【英】「って、何コレ、いつの間にこんな川みたいな――」
【鞠】「いいから、早く掴ま――」
――がががががががががががが!!!
【四粹】「ッ――これは、マズい……!!」
【亜弥】「何の音ですか!?」
【鞠】「掴まって!! 死にたいんですかッ!!!」
この、状況で! アレ!!
もうアレしかないでしょ!!
【鞠】「土砂崩れですよ!! 早く!!」
【亜弥】「ッ……環さん、早く……!!」
先に亜弥ちゃんが、木々から流れ揺れる縄へと跳び移り……
【英】「クッ……ぬぅぅ!!」
遅れて、稜泉の副会長も何とか縄に辿り着いた――その瞬間。
ばきききっ……!!
【亜弥&英】「「……!?」」
さっきまで2人の闘いの場になっていた、ジャングルジムの2本の根元が、土からもげて、ジャングルジムまるごと川の流れと重量に任せ、高速で闇へと転がり落ちていった。
【英】「――――」
【鞠】「あのポイントカードが貼られた木は、上流から流されてきたものなんですよ。川の流れというよりは軽い土砂崩れで多分」
私達が飛び降りてきた場所には、何故か自然公園部の領内である証といえるガードレールが無かった。恐らくもう既に、流されたのだろう。
そして多分、この場所は自然公園部ですらない……島の人間も手を着けていない、純粋な自然領域。
【鞠】「あれほどの大きさの木々が流されるほどに、この豪雨と、この場所はヤバい……!! 副会長!!」
【四粹】「引っ張り上げます――!! 2人とも、精進を!!」
副会長が縄を引っ張り出す。私も合わせる。
【鞠】「ッ……」
予想はしてたけど……地面が悪すぎる……! うまく力を出せてない気がする。
しかも、だ――
【鞠】「コレ、何の音ですか!! ゴンゴンゴンゴン聞こえるんですけどッ!!」
【四粹】「ここを正面として、廃工場の後方壁に、流れてきた木々がぶつかってる音かと……!!」
もう既に何度も何度も上流側で土砂が崩れて、木が流れてきてる……それを良い感じに食い止めてくれてるってわけだ。
だけど安心してもいられない。強引に例えるなら、今此処に発生している川の流れは三角州。廃工場によって流れが2分されてはいるものの、恐ろしいことに亜弥ちゃんたちの居る斜面の方に集中してしまう傾斜地理をしているらしく、川の大部分が合流している。
こっちに木がいつ流れてきてもおかしくない。ああ、怖い! めっちゃくちゃ怖い!!
【英】「ッ痛――!?」
【亜弥】「環、さん!? 大丈夫ですか!?」
【英】「グッ……亜弥ちゃん、砂川会長、気を付けてください、小さめの木とか、普通に刺さりますッ」
そんなの気を付けようがないけど、確かに脅威だ。
勢いがありすぎて廃工場につっかえてる大木レベルの奴らが流されてきたってことは、この自然の水力が少し隙間を見つければそこから地面を抉って、根っこから持ち上げひっくり返してきてる感覚だろう。
なら……それ以下の大きさの木々が、変わらず斜面に立ち続けられる保証があるわけない!
【英】「ひぃ!?」
【亜弥】「きゃあ――!?」
【鞠】「副会長!! もっと、早くぅ!!」
様々な音が、どんどん兇悪になっていく。
――ちょっと横を見たら、さっきのジャングルジムの木々よりも一回り大きいものが、別方向の斜面に流れていくのを視界に捉えてしまった。
どんどん……流れてくる……!
いずれ私達の支えとなっている廃工場も、盾となり堰ききれず、老朽化した外壁を川と土砂と木々が貫き壊していくだろう。
この場所から、一刻も早く脱出しなければならない、ここに安全地帯など存在しない!
【鞠】「ッ――あと、少し……――ッ!?」
ガンッドンッ。
水ではない、叩く音。
直感。刹那、真後ろを見た。真後ろを聴いた。
――何かが、廃工場の中から、来る。ソレもまた直感する!
【鞠】「ッ――木が来る!!」
【四粹】「な……!?」
後方壁のどこか一部が破れて、そこから木が侵入したんだ……流れに従って出入口から出てきてしまえば、回ってくるものと比べても確実に、直線のままこちらに突っ込んでくる!!
そうなれば――亜弥ちゃんたちに直撃する!!
【鞠】「早く――早くぅ!!!」
【四粹】「グッ……おぉおおおおおおおお……!!!!」
引っ張る方向を、横に変える……!!
【鞠】「左に、移動してください!! 2人とも!!」
【亜弥】「ッッッ――」
【英】「うぷっ……たす、たすけ――」
ダメだ、2人とも激流の中、縄を離さないので手一杯だ……! 私達が気合いで転がすようにするしか――
間に合え、間に合え……!!
ドンッ――!! バキッ……ドドド――!!
【鞠】「そのまま、つっかえてろ……!」
【英】「ッ――!! ぷはぁ――!!」
【亜弥】「あ、ありがとうござ――」
よし、何とか2人とも、斜面から脱出――
バキキキ――!!!
【亜弥】「ぁ――」
【鞠】「ッ亜弥ちゃん!!?」
――絶望の奔流は、ここからだった。
自然災害系ってネタにするの結構勇気要ります。フィクションで用いる場合、不謹慎はまず逃れられませんから。




