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砂川見聞録  作者: ぢだぱぢぴぢぱぢ
6話「砂川、憑かれる」
159/336

[6-23]外の世界

 「それでもババ様はもっと色の変わった景色を見たいんじゃ」砂川さん、続続・子どもとお喋り。もっとお喋りさせたかったけどここらで終わりにしておきます6話23節。


【ババ様】「のーのー鞠。ちょっと表出るんじゃ」

【鞠】「……はい?」


 表出ろって……え、私今から喧嘩しなきゃいけないの?


【鞠】「長ったらしい話を聴かされた挙げ句ボコられる……何て理不尽……」

【ババ様】「???」




――[Stage]風の丘




【ババ様】「すっかり真っ暗じゃのー」

【鞠】「そりゃ夜ですし。」


 ……ていうことで、私達は外に出ていた。


 どうやら、表に出ろというのは深い意味はなかったらしい。散歩しようって誘いだった。紛らわしい表現使わないで。


【鞠】「ていうか、何で私を連れて行く必要が」

【ババ様】「だって独りで散歩はつまらんじゃろ」


 抑も散歩をする必要性自体に私は目を向けるけど。


 運動不足を考慮するというなら、走ればいい。或いはジム通い……此処にはそんなの無いか。散歩というのは運動不足には役に立たないわけではないけど、その敷居の低さ故に効力もプレッシャーも小さすぎる。よって私はその点では非効率で弱い手段だと一蹴する。


 気分転換にいいだろって声もあるけど、これも私はあまり同感できない。運動云々よりは個人の好みの問題かもしれないが、それにしても気分転換を要したその環境から距離を置くという点が私には非効率に映る。それならまだ音楽鑑賞とかテレビとかの方がまだマシな気がする。まあその2つも随分敷居が低いから私は手段としては採用しないだろう。尚更、散歩など有り得ない。


 ってことで、私は割とこの散歩という時間は新鮮だったりする。しかも島の夜の姿に囲まれている。贅沢なものだ。


 ……しっかし島民にとってはそういう感情は抱かないだろう。なのにどうしてこの子は、散歩をするんだろう。読めない相手だった。


【ババ様】「……どうじゃ、ミマ島は?」

【鞠】「どうって……ざっくりし過ぎです。何を問われてるのか分かりません」

【ババ様】「それでも、何か答えは湧くじゃろ? いつもと違う環境は、必ず人の心身に影響を及ぼす」

【鞠】「……そっち系の意味ですか」


 確かに、新鮮という気分を抱いている以上、私はこの島に立っていることについて何かしらの感情を抱いていることになるだろう。


 ……それを訊く意義が果たしてこの少女に在るのかという疑問も抱くけど。


【鞠】「少なくとも、中央大陸よりは過ごしやすそうですけど」

【ババ様】「……? そうなのかの?」

【鞠】「なにか意外に思うところでも?」


 ババ様に附いて、辿り着いたのは……我々の宿泊地から数十m程度、丘を登った場所。ババ様曰く「風の丘」とか呼ばれている、ミマ島の人々の生活範囲の中では一番風が気持ち良く通るらしい場所。


 確かに風はよく通る。ただ、町村部での通風環境とか知らないので評価のしようがない。まあ、スカタよりはずっと涼しい夏を感じるなってぐらい。


 その草香る丘に、2人腰を下ろして……会話を続ける。


【ババ様】「中央大陸は、最も文明の発達した、すなわち最も人々の過ごしやすいよう改良のされた生活地帯なんじゃろう? こんな小さな世界と比べて、ずっと良質じゃろ」

【鞠】「……どうなんだろ」


 文明の発達に何か度数を設けること自体、可成り危ない作業だったりする。何が優れていて何が劣っているかというのは、結局支配被支配の思考でしかない気がする。


 パパは彩解やこの第五の大陸に中央式の開発を進めようとはしているけど、非常に慎重に事を進めているようだった。既に文明を築いているこのミマのような場所だったり、我々には未知だらけな生態系だったり、それらを崩すことをパパは嫌う。


 共存することが、現在把握されている人々の生活を最終的には向上させられる……パパ、というか一峰にはそういった思惑があるようだ。なら……それは結局支配の思考なのではないか? 私はそう疑問に思うこともあるけど、微妙な次元なんだろう。


【鞠】「少なくとも私には、此処の方が過ごしやすい環境ではあるかなって思っただけです」


 これについては、ハッキリしていること。


 煩雑なものが、見当たらない。無論此処が交流を大切にしているとはいえソレまで閉鎖的に発展してきた島社会である以上、その独特な法則というのが微細に根付いているとは思う。そこを考慮できていないが故の、安直で見苦しい感想だとは思う。


 でも現状、これが私の素直な印象だ。


【鞠】「……やっぱり森があるから、かな……」


 あの町を思い出す。というよりはあの学園か。


 学園を囲む、夥しい緑。


 幾らずっとあの図書館に引き籠もっていたからといっても、私は確実にあの森の空気を吸って数年を生活していた。


 ……流石に医療の町とされるだけあって、空気はとても綺麗だったんだなと都会に住み都会の学園に通うようになってから思い知った。


 この場所は、その時の空気を思い出させるに充分だった。


【ババ様】「なら、いっそ此処に引っ越してくるかの?」

【鞠】「……それはちょっと」


 ソレはぶっちゃけ決して悪くないかも、って思ったりも一瞬したけど、流石にいきなり自分の社会的ポジション総てを投げ捨てて隠居に突入する勇気は持てなかった。


【ババ様】「船も暇じゃし、登下校には困らないぞー」

【鞠】「起床時間に難があり過ぎますし」


 良い環境とは云ったけど、それは今この時間単体の話ってだけで。


 私はやっぱり、効率を重視する。仕事をする立場である以上、その仕事の効率をこのミマ島という交通の便も電波環境もまだまだ発展途上で中央と距離の隔たったこの町を評価することはできないだろう。


【ババ様】「むー……」

【鞠】「そんなふて腐れても」


 妥当な判断をしたに過ぎないのだけど。


 ババ様には何かしらが不満そうだった。まあ、私如きの話題で誰かが喜ぶとは思ってないけど。私が子どもに懐かれやすいというのはやっぱり間違いってことで良さそうだ、よかった。


 てか私の話題やめて。


【鞠】「……変な質問ぶつけてきてますけど、何かこの島に不満でもあるんですか」

【ババ様】「ん?」


 興味あるわけじゃないけど、私の話題を発展させるのはよろしくないので転換をはかる。


【ババ様】「いんや、そういうわけではない。が……退屈してるのは確かじゃなぁ」

【鞠】「退屈」

【ババ様】「いい加減、この小さい島は見飽きた……皆、外の人々を受け入れ、孤高であったミマの歴史が拡がりつつあるが、それでもババ様はもっと色の変わった景色を見たいんじゃ」

【鞠】「……えっと……」


 それはつまり、都会に憧れる田舎っ子、みたいなところ?


 突然なんか、普通の女の子に見えてきた。口調と表現に難ありだけど。


【鞠】「……なら、貴方こそ中央に引っ越せばいいのでは」

【ババ様】「それが出来たらとっくにそうしてるのー」

【鞠】「はあ……」


 まあ、その辺は各家庭の事情だろう。私が一峰を背景に生きているのと同等の。そう考えれば、なかなか軽率な提案だったと云うしかない。


 私の触れていい領域ではないだろう。


【ババ様】「……鞠の居る都会は、良い場所ではないのかの」


 それにしても、どうやらこの散歩の目的は、運動とか気分転換とかじゃなく、私から憧れの都会の話を聴くというしっかりしたものだったらしい。


 それでも、いや一層私を標的に据えている以上厄介に違いないのだけど、下拵えの時の強引さを考えるに、逃げ足掻くのは非効率。


 附き合ってあげるしか、ないか。


【鞠】「……一般的には、悪くない場所なんじゃないですか。私は大して物欲があるわけじゃないのでオーバースペックな環境ですけど、沢山の物欲や好奇心や向上心のある人なら絶好の場所」


 最高峰が集結する大陸だし、社会的にも中心地であるから、何処を相手にするにも繋がりが太い。


 勿論何を目的にするかによるけど、殆ど何でも、高度な活動をしていくには最適に近い効果を見込める本拠となるだろう。


【鞠】「ババ様は、何か都会に行ってやりたいこととかあるんですか」

【ババ様】「知りたいの」

【鞠】「知りたい?」

【ババ様】「世界の有り様を、知りたいの。こんな小さな島に限らずに……この世を構成する総てを、この眼で」

【鞠】「…………」


 ちょっと、真面目な顔をしていた。子どもながらに、と一応付け加えておく。


【鞠】「……どうして、知りたいんですか。そんなの別に、生きていくのに必要ってわけじゃないでしょうに。まあ社会情勢ぐらいは就職してからは視野に入れておいた方がいいでしょうけど」

【ババ様】「そうじゃな。この島での生活は尚更そうなんじゃろう。……これからどうなるかは分からぬが」

【鞠】「まあ……これから多分に開発されていくでしょうし」


 此処は、第五の大陸とし下手すれば彩解よりも先進勢の注目を浴びている。リゾート地としてハッキリした利用価値が見出せているからだ。


 デッドプールなる死海領域もあって純粋に最高な地域ではないけど、彩解よりもずっと危険度は低い……と思われてる。だからミマ島は今、そんな注目のグレイシャ島嶼群への入口と見なされて、中央のお偉いさん達に常に見張られている状態なんだろう。


 それを拒む姿勢でもないから、これからどんどん、この島も騒がしくなるだろう。開発の主点は本島にあるといっても、其処に極めて近いこの夏でも地面がヒンヤリしている島だって必ず開発の標的そのものに含まれるだろう。


 支配されていく。文明が壊れていく。一峰も関与している以上、生活が壊れるということはないだろうけど……変化を感じることだろう。社会の変化だ。


 そこまで見据えると、確かにこの島の住民であっても、外を知るということは必ずしも不要とは云いきれないことなのかもしれない。


【ババ様】「でも、そういうのじゃなくての。もっと、“根本”な話じゃ」

【鞠】「……は?」

【ババ様】「何でババ様が生まれたのか。何で人間は、生命は生誕したのか。その生誕の法則はどうして成立したのか。どうして――この世界は、生まれたのか」

【鞠】「…………」

【ババ様】「純粋な好奇心じゃよ。でも、或いは恐怖心かもしれん。知らぬ間に生まれ、そして知らぬ間に死んでゆく。その意味が、分かることもなく……己が生の轍が生まれ消えていく」


 それは哲学かもしれない。私の興味の無い分野。


 だけど。


【ババ様】「知ることのできない、この眼が……ババ様は、何だか怖い」


 何故か、その恐怖に私は……


【鞠】「…………」


 あの人を、思い出した。


【ババ様】「己が価値が、いまいち分からんのじゃ。あるにはある、そう思うが、ソレは結局非常にちっぽけで……抑もしっかりしたものは結局無いのやもしれん。割り切ることすら赦してくれない、そんな状況がむず痒くての」

【鞠】「だから……知りたい、と?」

【ババ様】「ほぼほぼ憧れだと思うがの。でも、ババ様が住んでる……いや、存在しているこの世界のことが分かったなら、きっと、分かってくると思うんじゃ。ババ様の、意味というのが」


 何だか難しい少女だと、出会った頃から分かっていたけど。


 とても難しいことを難しく考える……それでいて、純粋な少女だと思った。


【ババ様】「だから、鞠が来たのはとても良好なことじゃな」

【鞠】「別に、私じゃなくてもいいじゃないですか。合宿で来てる都会の若者は他にもっといっぱいいます。私よりもフランクな人なんて腐るほど」

【ババ様】「……鞠しかおらんよ」

【鞠】「は?」

【ババ様】「――この巡り会いも、もしかすれば世に埋め込まれた一摂理なのかもしれぬの」

【鞠】「……はああ??」


 色々思ったけど、やっぱり結論は怖い女の子ってことでいいや。子ども苦手。


【ババ様】「こっちの話じゃ。ババ様もだいぶ混乱してての」

【鞠】「どの辺に混乱してる顔があるんですか……」

【ババ様】「のー、鞠。もっとババ様にお話プリーズじゃ」

【鞠】「……都会の、ですか?」

【ババ様】「鞠の知ってる景色、全部じゃ」

【鞠】「オーダーが重すぎる……」


 真剣に人生を考える少女・ババ様。


 その底無しの好奇心に感心、いや恐怖をしながらも、もう少しだけ私らしくない夜空を眺める時間を過ごすのだった……。



 子どもの頃の将来の夢、貫き続ける人がどれだけいるんでしょう。私は今でも、サンタさんになりたいです。

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