魔王「ククク……やつは四天王最弱…………だが俺が知る中で一番いい奴だった」
某スレの文章化、内容はタイトルがすべてです。
四天王最弱の男が死んだ。
「ほ、報告します!!!!!!」
引き留めようとする門番を力ずくで引きづりながら、伝令と思われる鳥人族の男は普段すべき儀礼などを無視し叫んだ。
黒で統一された大広間、品の良い装飾で彩られたその空間は段々で区切られており、奥に行くほどより高い位置となっている。
その上下はこの場にいる者達の格をそのままに表していた。
手前にいる物達はその姿かたちどころか種族すらバラバラな者達
人の上半身を持つ大蛇、中身がないはずなのに動く鎧、宙に浮かぶ意思持つ火の玉、とぐろを巻く大ムカデ、単眼の巨人、青白い顔をした幽鬼、炎に包まれたトカゲ、異形の怪物たちが百を超して集まっている。
そして怪物たちよりもさらに奥、より高い位置にいる三つの影、それぞれが尋常でない圧迫感、問答無用で他者をひれ伏させる支配者の風格といえるようなものをまとっていた。
一つ目の影はただただ強大の一言に尽きる、人の住む屋敷ぐらいなら入るこの王の間の天井に届かんとする巨躯、覆われた鱗は赤熱しながら空気をゆがませる。
最強種と呼ばれるドラゴンの中で最も攻撃的で傲慢な焔龍、そしてその種族の中で頂にいる古龍でもある彼はまさに最強の中の最強、ただ強い、それだけの理由ですべてを奪うことが許された簒奪者である。
二つ目の影は龍と比較して、いやそれどころか人と比べてもその大きさは手のひらに載るほど小さい、透けるような薄い皮膜の翼、少女のような見た目、花と見間違う可憐なその姿だが、魔力の流れが追える物が見ればその容姿がただの擬態だとすぐにわかる。
妖精の女王である彼女は、世界全ての生物が行使できる魔力を掻き集めた時、彼女一人でその中の七分の一ほど占めていると言えば彼女の超常性が伝わるだろうか、今も本来なら見ることのできない魔力を桁違いの密度によって紫炎のようにまとわせている。
三つ目の影は皮もなければ肉もない、何者も映さない暗黒の眼窩をもつ頭蓋、悪趣味と言えるほど豪奢に着飾ったローブと杖、生きとし生けるものの敵と直感させる禍々しいそれは底なしの暗闇のような魔力を振りまいていた。
魔道を極めた死霊たちの王、ノーライフキングである彼が一たび杖を振ればそれだけで生者は耐えきれず死者となり、死者になれば彼に決して逆らえない、あまねく死者は彼の信奉者の列に加わることになるだろう。
そしてその尋常ならざる三つの影の中央
この三体に囲まれ、何一つ色あせないカリスマ、青い皮膚に黒い眼球に金の虹彩、精巧な美術品のような相貌、そこに生えた禍々しく捻じれた角に漆黒の翼、その強烈な存在感は見る者すべてを畏怖させた。
濡れた鴉羽のように鈍く光る玉座に座る男は『魔王』
この魔族が存在する国における絶対なる支配者であった。
「ま、魔王四天王が一人、み、水のスライミー様が勇者に……、スライミー様が勇者に討ち取られましたッ!!!!!」
伝令のその一言でざわめく配下たちと、なんの反応も示さない四体の超越者たち
本来、ただの伝令兵ごときが最高意思決定を行う魔王とその最高幹部である四天王が集まる会議に口を挟んで中断させるなど信じられない無作法。
力こそがすべてである魔族たちの感性からも、この行為は即刻首をはねられても何らおかしくない所業である。
しかし伝令の発した言葉はそんなことを些事にしてしまうほどのものであった。
四天王とはこの国における魔王に次ぐ権力を持つ役職であり、それは人のように家柄などでは決して選ばれない
魔族から真に尊ばれるのは力
どのような生まれであろうとかまわない、ただ強ければよい、その身につけた力こそが魔族にとっての存在価値、四天王とは魔王を除く全魔物の中で最も強い四体の事である。
そしてその四天王の一角が崩れたという報告は全ての魔族を震撼させた。
四天王の死、しかもそれが人である勇者によって成された。それが意味することは魔族最強の一人が敗れたという動揺となり配下たちは恐慌する。
「今すぐ、軍を編成して人間を根絶やしにするんだ!!」
動揺は裏返って怒りとなり、人間に対する怒号となって広がっていく
血気盛んな魔物達は口々に声を上げて場は喧騒に包まれた。
すでに会議どころではない、混乱したその場はもはや収拾はつかないだろう
「おい」
呟く様な一言、大した声量でもないそれでは、普通ならこの大広間の怒号でかき消されるしかないだろう
だが地下深くの地獄から響かせたその声はその場にいた配下全員の心胆を凍りつかせた。
「それを言えるのはオレだ。お前らじゃない」
余りに傲慢な態度、しかし彼にはそれが許される。
「このバハムート様を差し置いて、場を仕切るつもりか?」
火の四天王、焔古龍バハムートは歯をむき出しにして笑った。
大声を出していた魔物達はその一にらみで言葉も出せずに固まってしまう
「ふふ、スライミーがやられたようね、弱いくせに前に出たがりなんだから」
風の四天王、妖精女王ティターニアは仲間の死を友人の小さな失敗を笑う様な気軽さで流した。
「その通りだ、勇者と言えど人間如きにやられるとは……、ワシら魔族のツラ汚しよ……そうは思いませんか、魔王様」
土の四天王、死霊達の王ファウストは死んだ仲間を鼻で嘲笑う。
「ククク……、所詮やつは四天王最弱、貴様らも、この程度で狼狽えるな」
魔王ルシファーは嗤う、その自信に満ち溢れた姿に配下の魔物達は頭をたれた。
「しかし対策は考えなきゃいけねぇが、とりあえずテメェらみたいな雑魚に聞かせる必要はねぇな、俺たちが決める。邪魔だから出てけや」
人間社会なら到底受け入れられない尊大な態度、しかし、力を信奉する魔族にとって強大な力を持つものが強権を振るうのは当然であり憧れである。
魔王と四天王の仲間の死を顧みないその傲慢な行いはまさに支配者として相応しいものであった。
バハムートの言葉に魔王と四天王以外の者はすぐさま王の間から出ていく
配下の魔物達は四天王の一角が崩れたというのに動じないどころか愉快そうに笑う彼らを見て魔族の優勢は揺るがないと確信した。
そして
全ての配下は消え、魔王と四天王だけとなった部屋
部屋の外へ出て行った魔族の誰もがこれから人間たちをどのように蹂躙するか語られるであろうと予想されている会議
初めに口を開いたのは魔王だった。
「聞いての通りスライミーが勇者にやられた。……今確認した。これは確実な情報筋で間違いはないだろう」
魔王は顔を邪悪にゆがめた。
「ククク……やつは四天王最弱…………」
魔王は言葉を切り、いったん沈黙する。
「……だが俺が知る中で最もいい奴だった。…………仲間を愛し友を尊ぶ男だった」
絞り出すような魔王の一言に四天王たちが堰を切ったように声を上げる。
「今思えばよ……、アイツがいると不思議と俺たちは纏まれた……、あぁそうだよ、みんなあいつが大好きだったさ……!」
紅蓮の目玉で天を睨みつけ、赤く輝くマグマを目に貯める龍は慟哭する。
「ウ゛ッ、ウゥ……、弱いくせに進んで一番危険な場所に出ていくなんて……、本当にバカ……、大バカよ……」
両手で顔を覆い、その美しき容貌を曇らせた妖精は見てて哀れなほどしゃくりあげる。
「フン……、ワシはあんな奴居なくなってせいせいする! 部屋が広くなるわ! ……クソッ、……クソ! クソ! だからワシはあんな奴が四天王になるなんて反対だったんだ!」
唯一嫌味を言った不死王はその骨の震えを抑えることができなかった。
魔王は静かに目から一筋の涙を流す。
「友よ……、今だけ……、今この瞬間だけは責務を忘れて悲しむことを許してくれ、……それくらいはいいだろう、なぁスライミー」
四天王最弱の男が死んだ。
だが彼はこの魔王軍の中で最も他者を愛し、愛された男だった。
某スレのこのスレタイで誰か書いてくれないかなとずっと思っていたのに誰も書いてくれないので書きました。
スレタイから設定を妄想するだけで楽しかったです。