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誰かの詩。口遊めば、  作者: 歌島 街
#16 『カエルの旋律を夜に聞いたせいです。』
35/51

カエルの旋律を夜に聞いたせいです①

 

「このままじゃあたしたちは『フリージア』さん達には勝てない……絶対にね」

 みんなから〝プレゼント〟を受け取った日から三日後。あたしは『ダンデライオン』のメンバーを部室に緊急招集し、開口一番言い放った。三人とも、ポカンとしている。

「では……我々は()()勝利の栄冠を手に出来ないのか。その()()とは?」

 あたしは、新商品のプレゼンをするIT社長(?)のように、大げさなジェスチャーをし、コツコツと上履きを鳴らしながら部屋を闊歩する。リュウ君のデカい口があんぐりしてる。

「はいっ、そこのイケメン。答えてっ!」

 あたしは唐突にソウ君を指さし、質問する。


「え、色気かな?」「エロさだろ」「おっぱい」

 ソウ君に聞いたのに、ほぼ同時に答える三人。()()()()って、いうたやろ。


「まさに、それなのです! それこそが彼女たちにあって、我々に()()もの!」

 訂正するのもめんどくさいので、話を続ける。

 

「早く言ってよ、愛ちゃん」

「マエオキがなげー、アイコの分際でよ」

「ケンちゃんのおっぱいじゃな~」

 またもや同時発声の三人……叩きたい。もう社長ごっこはやめよ。

「つまり、そういうこと」


「「「やっぱ、胸か~」」」

 波長の合った、見事なハミング。何でこういう時だけ統一感バツグンなの?


「胸もだけど……あたしの呼び方とかもそう。あたしたち、バラバラすぎるのがダメだと思う。あの人たちとの違いはソコ。このままじゃ、ぜったい勝てませ~ん」

 前から思ってた……どうしたって噛み合わない『ダンデライオン』軍団。まあ、リュウ君が部長だという事実からして、望むべくもないことだけど。

「え、じゃあどうするの? 愛ちゃん」

「もちろん秘策がありますとも」

 あたしは考えをまとめてきたノートを部のデスクに広げる。

「うお、端から端までびっしり書き込んでんな。こりゃ、ショーキのサタじゃねえ」

 元金ピカが、ピーチクパーチクうっせ。ブサイク笑顔ぶちかますぞ。

「こりゃオモシレえ。やろうぜ、リーダー」

 リュウ君がにやけて、また大きな口開く。だれがリーダーだ、誰が。あなたが部長でしょうが。

 ま、リュウ君がいいって言うならこの案に決定。正直勝てるかは五分五分だけどね。それどころか大失敗の確率高し。でも、何もしないよりはいい。今のままのあたしたちじゃ、負けるの確定だろうし。

 みんながあたしのアイデアで喧々諤々している中、どさくさに紛れて、

「あと……この前はありがとう、みんな大好き」

 つぶやいてから、うつむく。よし、お礼は伝えたから前の件はもうおしまいっ。


「「「聞こえなかったから、もっと大きな声で」」」


 だからなんでそういう時だけ、タイミングばっちりなの? 意地悪な先輩たちだな。



 葉を散らし、その幹があらわになっている桜の木々が立ち並んでいる道を、あたしは一人登っていく。夏名残の太陽光線(サンシャインオブラブ)もセットで降り注いでくるぜ。

 街路樹が作り出す日陰に隠れ、小休止しながら進むとしよう。

 放課後には夏休み明けライブ。つまり文化祭前のライブ――前哨戦だ。いやがおうにも気合が入り、自分の一歩一歩が地面を揺らす……あれ、太った? いや、背負った『相棒』の重みだ。最初あたしには荷が重かったコイツも、今は頼れる仲間。ま、放課後まで放置するけど。朝一で部室に『相棒』を置いて、教室に向かう。


 朝のショートホームルームが始まり、高橋先生がだるそうにクラスの出席を点呼。みんなも気だるそうに返事をしていく。気合入ってないな、若ものたちよ。

 無気力な空気に反発するように、あたしは大声で返事をする。教室中の人が迷惑そうな顔をしてこっちを振り向いた。


「剣崎ぃ~。お前は無駄に元気がいいな……」

 竹刀の切っ先を床に引きずりながら、こちらに近づいてくる高橋先生。

「先生もお元気そうでなによりです。どうでした夏合宿は?」

「へへん。超特訓の末のパワーアップ、とくとご覧あれだ」

「聴きたくないような、恐ろしいような。楽しみにしてます。でも、あたしたちも負けませんから」

 あたしはそう宣言してから、高橋先生が攻撃してくると思い、すぐに防御できるように身構える。が、何ごともなくスルー。あれれ、肩透かしだな。

「先生、すこし変わりました?」

「なわけねえだろ。ほれ、もうすぐ入ってくる新入部員にケガさせちゃマズイと思ってな」

 新入部員というか、誰に対してもマズイですよ、それは。

「いえいえ〝タンポポ〟は永久不滅です。雑草なので」

「ほざいてろ〝純潔〟だって永遠だ。フォーエバー」

「フリージアの匂いって独特ですよね~。好き嫌い、わかれそう」

「タンポポの綿毛って、散らすの楽しいよな。アスファルトの上にバラバラにしてやってな」

 二人のにらみ合いで、火花発生。やっぱりこうなるあたしと先生。顔面が接着しそうなくらいの距離でメンチを切りあっていると、隣の和泉ちゃんが「アツい、アツい」とこっちを下敷きで扇いできた。涼しいです。ありがとう式部先生。うねるワンレン黒髪が、エイジア(ASIA)んびゅ~りぃ~感を醸し出してるよ。

「……剣崎より後は全員出席だな。おっしゃ、以下略ぅ!」

 先生が怒声をあげ竹刀を床に振り下ろし、乾いた音が朝礼終了を告げる。テキトーだな、まったく。でも元気出たじゃないですか、それでこそ高橋先生。相手にとって不足無しです。あ、でも高橋先生ってライブ自体には、そんなにカンケーない……。



 放課後になり体育館でライブが始まる。二百人くらいのオーディエンスが立ち見をしているらしい。よっしゃあ、気合十分。先陣はあたしたち「ダンデライオン」だ。

 ただし、いつもとは異なる点がある。リュウ君とコーキ君、二人のみの編成だということ。ソウ君が入部する以前の重音楽部同好会形式だったそうで、リュウ君はいつものギターでなくベースに、ギター弦二本、ベース弦二本を張り、壇上で演奏に勤しんでいる。

 ベース指板を往復する左手三本指は、独立した意思をもつ生物のようにうねり、高低音を奏でる。それと甘い美声も健在だ。一人で三パート分の働きをカバーするとは……恐るべしカエル男。

 楽しそうに弾くリュウ君につられてか、コーキ君も生き生きしていて、ドラムをいつもより激しく叩いておるのう。黒髪にした頭が激しく上下に揺れ、海底にたゆたう海藻みたい。それともウニかな、もしくはヒジキ。いや、海の幸繋がりならタコだな。ドラム叩いてる時に、両手両足が独立してるのがタコそっくりだもん。オクトパス光樹――カッコいい(?)ぜ。こりゃ梓ちゃんじゃなくても()()()()()()状態になっちゃうな。

 高貴(ロイヤル)血統(ブラッド)の二人が音で殴り合い、重々しいサウンドが体育館中に轟く。金属同士をかち合わせたような……ヘヴィなメタルです。『ヘビー』じゃなくて『ヘヴィ』ってカンジ。

 うん、オーディエンスもけっこうな盛り上がり。やるな、元祖・重音部同好会。

 その姿をステージ横から眺めていると、取り残されたような気がしてくる。やっぱり遥か彼方にいるね、あの二人は。悔しさがこみ上げてくるよ。ぜったい、追いついて――いや、追い越してやるんだ。


「愛ちゃん、どっちに見惚れてんの? 浮気者」

 隣のソウ君が軽口叩いてきた、だれが浮気者だって?

「ん、やっぱりスゴイと思って。二人とも」

「まあ、そうだよね。ボクの次に」

「あはは、大丈夫。ソウ君が一番カッコいいよ。その包帯もス・テ・キ」

 ばつが悪そうに苦笑いするソウ君。あのハイタッチのせいでケガが長引き、今回のライブまでに完治しなかったらしい。

 ソウ君が、そのミイラの手を恨めしそうにねめつける。

「くっそ。票集めが……。ボクの見せ場が。女子の声援が」

「ケガのことも計画には織り込み済みだからヘーキ、ヘーキ。あっ、これ!」

 たった今、リュウ君が弾いたメロディにピンときた、あたし。

「ソウ君、このフレーズもパクって」

「パクるって……」

「じゃあインスパイア、オマージュ、引用、リスペクト……言い方なんか何でもいいでしょ」

「愛ちゃん、人使い荒い……あとで五線譜に落とすよ。ボク利き手使えなくて、大変なんだからね?」

 ソウ君は文句を言いながらも、片手で器用にスマホを使い、動画を撮り続ける。

「えっ? あの押さえる指がわかるヤツ。あれだ、あれ。TAB譜にしてよ。じゃないと、あたしわかんない」


 対フリージア攻略作戦その一、オリジナル曲を作成。あたしの鼻唄をもとにして鋭意制作中。ま、譜面に起こすのは、暇を持て余しているソウ君だけど。作詞はあたしがやるし、分業ってやつです。


「ねえ愛ちゃん、今までのライブはどうしてたの?」

「原曲聞きこんで、歌詞とリズムだけ覚えてた。あたしの担当ボーカルだけだったし」

「はぁ……そんなんでよく『ギターやる』とか言えたね」


 作戦その二。あたしがリズムギター担当になる。もちろんボーカルもやる。


「だから、よろしく教えてねって言ったじゃん。ギターもソウ君のやつ借りてさ。やさしいセンパイで、あたし感激です」

「お金取ればよかった……弦くらいは自分で買ってよ」

 後輩がこんなに低姿勢でいるというのに、やっぱケチプリンス。残った指もひねったろか? 歌詞のセンス皆無のくせして偉そうに。ソウ君が中学時代に作ったって曲を参考がてら見してもらったけど、今思い出しても笑っちゃうぜ。なにが、

『この世界に舞い降りたキミはエンジェル 翼が折れても どこまで落ちていこう そうキミは堕落天使(フォーリンエンジェル) ボクはキミにフォーリンラブ』だよ。中学生にしても痛すぎです。あれか、その包帯もファッションか?


 和泉ちゃんと一緒に、どこまでも堕天しろ。落ち続けて、二人でフォーリンヘル!

 

 おっと。くだらないこと考えてないで、リュウ君たちの演奏ちゃんと聞かなきゃ。あとで動画復習するにしても、やっぱりライブは生が基本だよ。腹に響く低音がたまらんのです。



 あたしたち(あたしとソウ君は演奏してないけど)の出演が終わり。『フリージア』さんの出番になる。

 最初はアップルティーをモチーフにした、甘すぎる世界観のラブソングだ。こんな歌は甘党のあたしでも躊躇しちゃうぜ。胸がキュンキュンするよ。乙女どもが。

 続いて、ダウナーな音作りの重い歌で『お前が欲しいのはシングルカットだろ?』なんて歌詞の洋楽(前曲との温度差ありすぎじゃね~?)。だけど、盛り上がる男子たち……スカートの中しか興味ないだろ。

 あ、燈さんのアニソンは……割愛です。うん。メガネ、メガネ。

 それから、はいっ、お決まりパターン発動。アニソンからのアンコール&レスポンスっと(はよ終われ)。


 ふ~む、なるほど。高橋先生のおっしゃってた通り、さらなるパワーアップを遂げている美女三人組だ。音の一体感、というかバンドが一個生命の様相を呈しているぜ。すばらしい『合奏』です。と、ステージ横から聞いていて実感する。セットリストは大いに再考の余地ありですけどね。

 でも演奏以上に気になったのは、彼女たちの髪型。


 ベースの燈さんはショートボブそのまま横一直線に揃っていた前髪を斜め切りしていてアシンメトリーに。たとえるなら木琴だ、あれは。いい音なりそう。

 ギターの弦音さんは両もみあげの毛を三つ編みに束ねてる。う、サラサラストレートがうらやましい。あと、やっぱ乳でかい。肩これ、肩。

 だけど、なによりも変化したのは梓ちゃんだ。男の人よろしく、こめかみ部分に刈込を入れていて地肌をのぞかせている。そのうえ前髪をワックスで固めているのか、リーゼント状になっていて表情がよく見える。まるでヤンキーなヘアースタイル。

 カッコいいけど、だいぶイメージ変わるな。フワフワブロンドのお嬢様が、女王様に変貌したような印象。ドラム&ボーカルも男顔負けの荒々しいプレイです。いわば、女版コーキ君だ。歌は彼女の方が圧倒的に上手ですけどね。


「ずいぶんフインキ変わったな、アイツ」

 急に話しかけてきたコーキ君にびっくりする(心読まれた!?)。うそうそ、コーキ君も歌うまい……よ? リズム完璧だし。ブレスとピッチがめちゃくちゃなだけ。

「うん、梓ちゃん成長性ハンパないね。髪形も、おもい()()()るし」

「なんだ、ヒケメ感じてんのか?」

「別になにも?」

 ウソついて強がるあたし。ホントはちょっと気圧されてる。

「バカ。お前だってちゃんとシンポしてるだろが。ギターも……髪の毛もな」

 あ、コーキ君は気づいてくれてたんだ、あたしが髪伸ばしてるの。ちょっとうれしいな。

「ありがと。優しいね、パンクマンさんは」

「俺は短い方が……いやポニーテールがいいけどな」

「そうなの? じゃあ、はい」後ろ手で髪をまとめて縛ってみて、疑似ポニーテールを作ってみる。

「……いいな、今夜お前の――」

「はい、さっきから()()発言なので、今夜もなし!」

 ポニテから手を離し、両手でバッテン作る。

「けっ、クソが」

「あ、汚い言葉づかい。もう、あたしンちは永遠になし!」

 舌打ちして、幕横から消えていく下品男。おい、また片づけサボるのかバカ金髪。ちがった金髪じゃないんだった……じゃシンプルに『バカ』でいいか。コラ、バカ。帰るなバカ。


「ちゃんと〝フリージア〟の音を聞きなさい、ケンちゃん」

 先ほどのライブでの発汗が収まらないリュウ君が、戒めてきた。あたしじゃなくてあのバカ(コーキ君)に言ってほしい。

「はいはい。りょ~かいで~す」

「むう。最近調子乗ってるね、キミは」

「全然です。みんな尊敬してるし。特にリュウ君」

「くう~。大人になったな、ケンちゃん!」


 カエルさんちょろい。殊の外ちょろい。もっとゴマすっとくか。


「いやマジ~、さっきのベースも超カッコいいんですけど~。ギターとベースとボーカル兼任で、一人三役とかさ~、マジで~。控えめにいって~。最&高~。マジうちらの部長~。マジで~。マンジで~」

 あ、ふざけ過ぎて、逆にバカっぽくなっちゃった。これは流石に……

「おっほほ、本当のことでも、あたくし照れちゃいます」

 こうかはばつぐんだ! ちょろい~。マジ、ちょろい~。なぜだかの敬語が行き過ぎて、オネエ言葉になってて、カエルさんキモイ~。

「あたくしの演奏、そんな琴線に触れまして?」

「ココロが弦に乗るって言うのかな? リュウ君の情熱がこっちまで伝わってきたね」

「それはないな」

 リュウ君が急に変顔――じゃなくて真顔になり、つぶやいた。その顔、心臓に悪いからやめてください。

「どういうこと?」

「音に感情なんか宿りませんってこと。心がキレイだから、演奏も素晴らしいとかな。そんなのありえないから。音楽は技術でもってして奏でるだけだ」

「ええ~? つまんない考え方~。あたしは感動したからいいの」

「ま、解釈は受け取る側しだいだから」

 にやけて、今にも鳴き出しそうなカエル男。あなたも、コーキ君も、『フリージア』さんたちだって、楽しんでるからあんなにステキな演奏が出来るに決まってんじゃん。


「二人ともうるさいよ。話声ばっかり拾っちゃってるからね」

 ビデオマン、ソウ君が苦情を申し立ててきた。あ、すいませんです。

 あっちのライブをちゃんと聴こうとステージに向き直したら、ちょうど演奏は終了した……。さーせん。

 楽器をスタンドに立てかけて、三人が姉妹のように仲良く手をつなぎ、客席に向け揃ってお辞儀する。拍手万来でそれにこたえる観客たち。あたしもそれに参加する。ふん、文化祭では、こうはいかないんだから。


「いいぞ~! 美しょーじょ戦士たち~! サイコー!」


 リュウ君がビター&スウィートな声で、謎の賛辞を飛ばした(なんじゃ美しょーじょって)。彼女たちの『どーてー』発言に対しての嫌がらせとも取れるな。まだ根にもってるとは、さすがカエル粘っこい性格だ。

 その掛け声に気分を良くしたのか、ベースの燈さんが珍妙なポーズをし始めた。

 ……超ダッセえ、ビジュアル系バンドのジャケット写真、もしくはアニメの決めポーズにも見える。高校三年生ですよね、あなた。

 他二人は燈さんの行動になかば呆れつつ、同族と思われたくないのか、じりじり後退していく。あ、あの梓ちゃんですら、忌々しそうな表情を浮かべてる。

 その切ない刹那、対岸の幕横から血まみれの牛――いや、赤ジャージの高橋先生が飛び出てきた。脇に竹刀を真直ぐに構え、燈さんに突撃していく。が、燈さんは貫かれる瞬間、身をひるがえし竹刀を回避。まるで闘牛士だ。赤いのは高橋先生の方だけど。

 その結果、高橋先生の目標を失った竹刀はよろめいて、弦音さんの大きい胸に不時着した。うおぅ、下から竹刀で突き上げられたせいで、弦音さんのただでさえ大きい胸が()()()()()盛り上がりをみせる。

 その状態で彼女たちの時間が静止した。映画の再生を一時停止したような見事な不動っぷり。いや……梓ちゃんだけほっぺたを膨らませて小刻みに震えている。ハムスターみたいでカワイイ(髪形ヤンキーのくせに)。

 間があってから竹刀が床に転がり、顔から血の気が引いていく燈さんと高橋先生。お互いが「自分は悪くない」と罪をなすりつけ合う。うーん、醜い争い。

 二人を無視して弦音さんが竹刀を拾い、先ほどのコーキ君もびっくりなほどのドラミングが体育館に反響した。女二人の奇声がフィルインだね。


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