あなたがそばにいて欲しい③
中学二年生もそろそろ春休みに入る前のある日、あたしは公園のベンチで曇り空を見ながら、寒さに震えてた。長い年月を雨風にさらされたであろうベンチは、あたしの振動に呼応し悲鳴を上げる。三月でも上旬じゃまだまだ冬の寒さが残っていて、足もとが冷える。とりあえずマフラーをほどき太ももに乗せて簡易防寒。そして彼が来るのを待つ(女を待たせるんじゃないよ、まったく)。
すると、背後に気配というか、音を出さないよう、かなり慎重に草を踏む音が聞こえた。
「にゃあ!」
そして、耳元で発生した猫の……いやカズヒロ君の声。「おばけぇ!」絶叫しながらベンチからわざと崩れおちるあたし。何やってんだ子供か。四つん這いのままベンチを見上げる。背もたれ越しに人影があった。
「びっくりするでしょ。バカ」
「やられたよ、へへ」
言いながら立ち上がる時、カズヒロ君は手を貸してくれなかった。
あたしが手から土を払っていると、落としたマフラーをカズヒロ君が拾ってくれて、表面の土を払い落としてこっちに投げてよこした。剛速球で、まっすぐストレート。あぶね、落っことしそうになった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ドライなやり取りが、乾いた空気を揺らす。どうしてこんなになっちゃったのかな、あたしたち。全部あたしのせいなんだけどね。
「で、話ってなに? 晶子、待たせてるんだけど」
へー、カノジョのこと呼び捨てなんだ。いいね、カズヒロ君。男らしくて。男になったんだっけか。
「晶ちゃん、ずっと学校休んでるみたいだね。言っといてよ『だめだよ、カレシが消えて辛くても、学校は来ないと』って、あはは……また引っ越すらしいね、海外に。お金持ちっていいね」
「親の都合でね。どうしようもないよ」
カズヒロ君が顔をゆがめた。苦しいのかな? なんだよそれくらい、あたしはもっと苦しかったんだ。おばあちゃんがいなくなってから。ワニに食べられてから。
「サマータイムがあるなら、ウィンタータイムってあるの?」
「さあ? もういいかな」
「ずいぶん冷たいね、男の子ってそうだよね。あたしのこと好きって言ったくせに……次はすぐ晶ちゃんに乗り換えて。それからあの子を傷つけて、はい、さよなら。あたしも男に生まれたかったな」
「そんなつもりで、付き合ってたわけじゃない」
「しょせん身分違いの恋だよね。晶ちゃんも身の程わかったでしょ。あんな団地にーー」
カズヒロ君のビンタで頬に衝撃が走った。舌に鉄の味が広がる。
「最低だね、キミは。二度と会いたくないよ。晶子にも近づくな」
「じゃ、約束するからーーキスして。あの続き」
未練たらたらなあたしのお願いを聞いて、すぐに彼があたしの肩を抱く。食い込む指が動物の牙みたいだ。もっと壊れるくらいに強くして。一生跡が残るくらい噛みついて。
続いてカズヒロ君は乱暴にキスをしてきた。それに驚く間もなく、向こうの方から舌をあたしの口に差し込んでーー舌と舌が絡み合う。鼓膜の内側で唾液を交換する音がして、それで満たされる。
いいな、晶ちゃん。うらやましい。彼といつもこんなことしてるなんて。ズルいよ。
ずっとほしかった。彼の愛が。こんな形でしか手に入んないなんて。ううん、愛なんかじゃない。ただの行為だ。脅迫してさせてるんだから。でも、それでも……したい。苦くてもいいから、カズヒロ君としたいんだ。
お願い、あと少し、もう少しだけ……あっ。
舌が引っ込みクチビルが離れ、その間に唾液の糸が赤い橋を作る。あたしの血が混じった橋。いつまでも見つめていたい、唯一のつながり。
無表情のカズヒロ君が口元をぬぐい赤い橋は消え、彼はツバを吐き捨てた。あたしは、わざとノドを鳴らすように唾液を飲み込んでやる。ゴクリと音が立って、彼が汚物を見るようにあたしを見下ろす。
「これでおしまいだね、気が晴れた?」
「……うん。あ、あともう一つ」
「……なに」
「晶ちゃん、最後に大事にしてあげて。あたしの大切な友達だから」
「わかった」そういってカズヒロ君の緊張した顔が綻んだ。やっぱり晶ちゃんのこと好きなんだね。あたしの事なんか眼中にないよね。あたし、わかってんだ。
「あのね、大事にって生でしてあげてことだからね。女ってそれが一番ーー」
さっきと反対の頬を叩かれた。いてて、とんだ暴力男。晶ちゃん別れて正解だよ、こんなやつさ。
カズヒロ君が去っていく、あたしを置いて、なにも言わないで。あたしは冷え切ったベンチに座って膝抱え、舌に残った感触を何度も再確認する。
あたしこのまま消えたいな、だっていますごくシアワセなんだもん。このキモチのまま、どこかに。
神様っているんだね。ありがとう、お礼になんでもさせてあげる。それとも、してほしい?
中学三年生になっても、晶ちゃんは学校へ来ないみたいだ。高校どうすんだろ。どーでもいいけどさ、あんな団地住まいちゃん。まったく連絡も取りあってないから、スマホ解約するか。連絡先いっさい増えないし。ネットとかよくわかんないし。目覚まし専用機となったスマホがあたしをバカにしている気がするぜ。くそう、機械の分際で。子供のころから身近にあれば使えるようになってたのかな? うちビンボーだったから、昔はね。
……なんだか、イライラしてる。理由は一つしかない、母の懐妊だ。相手はもちろん義父。あたしに相手されなくなってから今度はあの女ですか。男なんてみんなそう。誰でもいいんだよ、どうせ。
あいつらに子供が生まれたら、あたしの居場所なんてなくなるんだし、高校入学と同時にどっか一人暮らししたい、と二人には伝えた。なんの反対もなかった。よっしゃ、受験がんばるぞ。
ひたすら勉強をしていたら夏休みに。志望校に向かって追い込みの時期で、毎日机にかじりついている。でも今日はなんだかうるさいなと思って、自室の窓から外を見たら、たくさんの人たちが長蛇の列を作ってた。夏祭りか。けっきょくお祭り行ったの、晶ちゃんと中一のとき一回だけだったな。
でも、けっこう風が強そうだから、花火とか無理だろな(ザマアミロ、バカップルども)。
すると、あたしのスマホが鳴りだした。晶ちゃんからだ、すぐ出ようとするけど、どうすれば電話に出れるのか、とっさに思い出せなくて時間を食った。指を横に滑らすのムズイ。
「遅いよぉ」晶ちゃんが最初に文句を言い、あたしは謝る。
「あのさ……久しぶり。アイコは最近どお?」
「勉強ばっかりで、疲れた」
あらら、普通にグチっちゃった。というか、カズヒロ君との約束どうしよう。まいっか、連絡してきたの向こうからだし。あたしは近づいてないよ、と屁理屈。
そのグチを皮切りにして、久しぶりのガールズトークに花を咲かす。楽しいなやっぱり。でも、カズヒロ君の事にはお互いに触れない。触れたくないんだ。
そんな会話の中でいまのあたしにとって、最大のグチが口からこぼれた。
「今度、母親が子供産むの。あたしお姉ちゃんになるんだ、この年で」
「へえ、アイコよかったじゃん」
「よくないよ」
「……なんでさ?」
「いつも勝手なんだ、お母さんって。あたしのキモチも知らないで……大嫌い」
「アイコんち、お母さん片親でしょ? 凄くね? 頑張ったんじゃん。ずっとアイコが大きくなるまで育ててくれたんだから、感謝してあげないとカワイソウだよ」
晶ちゃんに何がわかるの。あたし父親いなくてずっと肩身がせまかった。そのうえ自分の都合で急に結婚して。あたしが〝こわれもの〟になって。いまはシアワセだって? ふざけないでよ。これまでずっと我慢してきたのはあたしだ。
「そりゃ頑張ったんじゃない? なんせ中学生で出産したんだから」
「え……お母さん若いと思ってたけど、そうだったんだ」
晶ちゃんとお母さん、前に会ったっけ(会わせたくなかったけど)。晶ちゃんのこと団地住まいってバカにしてんだよ、あの女。かばう価値なんかないよ。
そう思って、最近のあたしも同じことを言っていたのに気づく。このカラダに流れてる母親の血をすべて出したい。一滴残らず。はい、いいわけです。
「わかった? 若くして周りの反対押し切って、産んで。それで誕生したのが、あたし」
「だからアイコはそこにいるんだよ。生んで育ててくれたからなんだよ」
やけに突っかかるね晶ちゃんは。なんなの、人んちの家庭事情なんかどうでもいいでしょ。
「そうしてくれなんて頼んでないもん。いい迷惑だよ」
「恨んでるの?」鼻声になってる晶ちゃんの声。
「ずっとずっと恨んでるよーーこれからだって」つい熱くなって、本音。
「じゃあ、あたしぃも恨まれるんだね」
どういうこと? 何言ってるのか、わからないよ晶ちゃん。ねえ。
「調べたら……できてた。ずっとこないから、おかしいな、とは思ってたけど」
「カズヒロ君との?」
「決まってるでしょ! 他にいるわけないじゃん! バカアイコ!」
晶ちゃんが声を荒げ、それが耳に響くたび、視界がぐにゃりと歪む。
「ごめん、ちょっとコウフンしちった。あのね、最後の日、カズ君としたんだ。アレつけないで」
あの日、あたしがくだらないことをカズヒロ君にアドバイスしたから、それのせい?
「あたしぃ、どうしても直接欲しかったの。バカだよね、ほんとにさ」
「……わかるよ晶ちゃん。愛してもらったっていう記憶が欲しかったんだよね、カラダに」
「はぁ~? お子様アイコがいっちょ前にかたんなし」
そうつぶやいて、晶ちゃんが小さく笑った、ように聞こえた。
あたしがカズヒロ君を脅して、愛情のかけらもないキスをするだけで、あんなに幸せに包まれたのに……それ以上のことしてたんだよね。わかってた、知ってた。なのに、嫉妬の嵐が心をバラバラに引き裂くんだ。
二人に嫉妬したのか、友情にかられたのかわからないけど、カレンダーを確認する。
「最後に……したのは、三月の終わりごろ?」
晶ちゃんが「そうだよ」と言いづらそうに返事。照れるんじゃないよ、いまさら。保健の授業を思い出して計算する。よし、八月中までならいける。たまには役に立つじゃん学校の授業も。
「晶ちゃん。夏休み中になら、いけるね」
「……なにがさ」
「病院だよ。あたりまえでしょ。親の同意もいるらしいけど」
「…………あたしぃアイコならわかってくれると思ってた。同じ人を好きになって、譲ってくれたトモダチならさ」
「違う、カズヒロ君は晶ちゃんが好きだったの。最初から」
「二人の間に何かあったのもわかってたし……けど怖くて聞けなかった。だってカズ君、アイコへの態度急に変わりすぎだし。ウケる」
晶ちゃん、わかってたんだ。ごめんなさい、トモダチなのに黙ってて。
最低だねあたしは。最低ついでにもっと嫌われよう。
「落ち着いて聞いてね、晶ちゃん。ちがう、晶子」
「なにさ、あらたまってさ」
「あたし、カズヒロ君とした。晶子が学校休んだ日」
息をのむ声が聞こえて、沈黙がおとずれた。話を続ける。
「最低の男でしょ、最悪のトモダチでしょ。どっちのカラダがよかった? なんて二人で笑いあったんだよ。答え、教えてあげよっか?」
「ウソだぁ!」悲痛な叫びで、耳がしびれた。
「それにね、片親で頑張って育てても、全然子供は感謝してくれないよ。あたしがそうだし。みんなも冷たいよ、永遠に色眼鏡で見られるんだ。実体験だからね、リアルでしょ」
このレッテルはホントに変わらないんだ。生まれた瞬間から一生だ。声は届かなくても、あたしを見ながらしゃべる誰かのクチビルが、いつも教えるんだ。
「だから堕ろそ。いいよ、高校入って他の男見つければ。カズヒロ君なんか大した男じゃないよ」
「アイコやだよぉ、いやだぁ」
「バカ、晶子、もう小学生じゃないんだからアイコ禁止。甘ったれないでよ。もし産んだら、誰にも祝福なんかされないんだよ。その子も、アンタも。そんで、あたしは一生……」
電話越しに晶ちゃんの泣き声が聞こえる。その声が、あまりにもか細いその声が、赤ん坊の助けを求める声に聞こえて、続きのことばを紡ぐのを阻む。言わせてよ、お願いだから。
「カズヒロ君と好きあったアンタを憎んで、恨むから。バカにして、見下して、許さないゼッタイ」
電話が切れた。通話の終了を告げる断続的な音が、あたしと晶ちゃんの友情が終わったことを何度もつぶやく。
真っ白な空間で、晶ちゃんとカズヒロ君が幸せそうに笑いあっている。目の前にあたしが立っているのに気づいていない、二人とも何かに夢中になっているせいだ。晶ちゃんの手の中には、白い布に包まれたナニかがあった。あたしは近づいてそれをのぞき込む。赤ちゃんがいる、かわいい無垢な存在。ただ、いてくれるだけでみんなが笑顔に包まれるような……。あたしも触れたくてその子に手を伸ばす。すると、その子はあたしに目を向け、
「お前が〝わたし〟を殺した」
そう叫び、赤ちゃんの皮膚が溶け出して血が噴き出し、あっという間に骨だけになる。続いて晶ちゃんとカズヒロ君もその子に合わせるように同じくガイコツに。そのまま三人のカラダから血が流れ続け、白かった空間が赤く染まっていく。あたしはその光景が恐ろしくて顔を手で覆う。が、自分の両手も骨になっていて。なにも隠せない。
世界が赤く染まっていくーーどうしてなの。あたしになぜこんなもの見せるの。やめてよ……お願いします。許してください。かみさま……
時計の針が深夜一時を指してた。汗だくになっているのがわかり、ベッドから起き上がる。晶ちゃんと電話の後、寝ちゃったんだ。スマホを見てみると着信履歴はゼロ。どうするのかな、晶ちゃん。こんな時間にもかかわらず、また電話する。何度試みても、応答なし。
言い過ぎたな、ひとりで悩んでるトモダチに向かって。よし、お風呂で汗流しながら、説得の仕方考えよ。
リビングにいくと、そこで母と義父はまだ起きてた。生まれてくる子供の名前をテーブルをはさんで、イスに座り相談してるみたいだ。そばのテレビをつけていて、出ている芸能人の名前からとってうんぬんとか盛り上がってる。テーブルの上に置かれたグラスが汗をかいてて、水たまりに。
人の気も知らないでいいご身分ですね。ふと立ち止まる。すると、番組が切り替わり、深夜のニュースが始まった。
団地で中学三年の女子が飛び降りたとニュースが流れ、あたしの時間が静止する。
ウソだよ全部、ウソだ。
あたしが頭で否定しても、アナウンサーは淡々と情報を読み上げる。それが終わると、すぐに次のニュースに移っていった。都合の悪いものを隠すように。見たくない現実から目を背けるように。
あたしに、誰かが、何かを、語りかけてくる。
愛、聞いた? 今のニュースでやってた団地ってあそこじゃない。いやねえ、中学生で飛び下りなんて。いじめかしらね。あたしがその年の時なんて、アンタ生んでたんだから。今時の子は根性ないわね。そういえばアンタの友達……だれだっけ、団地の子、まえに授業参観で一回会った、ああ、晶子ちゃんだっけ。まあ、もう付き合いもないわよね。あんな不良とは。ああいう子がいじめで同級生を自殺に追いやるんだから。ヒドイもんよ、貧乏っての
「うっさい! だまれっ!」
咆哮して、声の主を突き飛ばす。ソイツは座っていたイスごとひっくり返って、少し大きくなっていたお腹から床に着地する。その始終がスローモーションに見えた。
我に返ってお母さんを抱き上げようとすると、あたしが追撃するとでも考えたのか、義父に腕をつかまれる。爬虫類顔の男は何も言わずに立っている。
「あたしに触るなって言っただろ! ワニッ!」
久しぶりにコイツに触られた、キモチ悪い。いままでの行為がフラッシュバックしてーー押さえる手に噛みついてやった。ざまあみろ。
あたしは家から飛び出す。
着の身着のまま、晶ちゃんの住んでる団地へ来た。でも、部屋まではわからない。一回も晶ちゃんの家へ遊びに行ったことはなかったから。彼女が嫌そうだったから……あたしたち、ホントに友達だったの?
団地ってこんなに広かったっけと思い出しながら、周辺をウロウロする。ブルーシートで覆われたとこに、警察関係者であろう人達と野次馬の集まりが。
……シートで隠しきれていない壁面に、飛び跳ねた血が、夜の色を映してる。
あたしはそこに近づいて、警察官に止められ、「子供は帰りなさい」と追い返される。
仕方なく離れると、そばの茂みにチープなビーズが飛び散って、キラキラしてる。明けの明星にはまだ早い、その星色はラピスラズリ。晶ちゃんの誕生石。赤黒いソースがアクセント。
あたしは駆け出す。ここじゃないどこかに行きたい。誰もあたしを知らないとこへ、あたしの存在を消してくれるところへ。
消えたい。あたし、とうめいになりたい。
ーー後日、家に戻ったあたしに、母が流産したと義父から伝えられた。義父は許してくれと、ワニのように這いつくばって、泣きじゃくった。あたしが恐れた男はもういない。目の前にいるのは、コドモを殺され父親になり損ねた、ちっぽけでみじめな男。
あたしのかつての共犯者。
あたしの最初の男。
「前から言ってたけど、高校入ったら一人暮らし、したいです。場所はあたしが決めるから、書類だけ、お願いします。それと、もう中学行きたくないです。お母さんにも会わないようにしますから。高校行くまでは一人でおとなしくしてます。もろもろよろしく、お父さん」
あたしはお姫様なんかじゃなかった。みんなを不幸にする、魔女だったんだ。
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「ーーという訳でこの中絶の歌、どうしてもダメなの。だって他の誰でもない、あたしが奪ったから、赤ちゃん二人と晶ちゃんの命を」
部室の窓から差し込んでいた夕日も、今はかろうじて頭が見えるくらい。外から吹き込む風があたしのべとべとになった肌を撫で、多少、気が安らぐ。
「ずっと、今まで誰にも言えなかった。ありがとう、聞いてくれて」
ソウ君、コーキ君、リュウ君。三人とも返事をしてくれない。そうだよね、あたしみたいな人間とは、もう話もしたくないよね。今日でお別れだね。
あたしの独白が終わり、部室に静寂がーーと思いきや、外でスズムシが鳴きはじめ、輪唱をしだす。部室にもそのアンサンブルが伝わり、広がってく。
なのに、みんなが美しいハーモニーを奏でているその中に一匹、調子はずれの音を出すヤツがいる。その音は妙に大きくて、いつしか輪唱は喧騒になってしまった。いるんだよね、いない方がいいヤツって。
でも誰かに愛してほしくて、自分なりに必死に鳴いてたんだと思う。どんなに不格好でも。見苦しくても。




