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誰かの詩。口遊めば、  作者: 歌島 街
#12 あたしのカタチ
25/51

あたしのカタチ②

 晶ちゃんと再会してしばらくたった中学一年生の三学期終わり間近、転校生がクラスにやってきた。こんな空港があるだけの地方都市に珍しい、アメリカからきた転校生だった。

 カズヒロ君……彼が教室に入って自己紹介をして、あたし、もう好きになった。我ながら単純。

 整った顔立ち、ストレートの清涼感溢れる髪、優しい声。そしてなにより同学年の男子とは比べ物にならないくらいの透明感ーーすいません、色々語ったけど、一番は顔です、顔。うん。学校中の女子は惚れちゃうんじゃないかなってなぐらい、カッコいい。あたしもその内の一人か。

 クラス紹介が終わって、あたしの隣の空いてる席に彼が案内された。やった。一人、心の中でピースサイン。グッジョブ、ティーチャー。

「よろしく」カズヒロ君が席に座りながら爽やかな声で言う。

 あたしは平然をよそおいつつ、「おてやわらかに」と、お返事ほざく。彼の頭にはクエスチョンマークが浮かんだみたいだった。あたしったら舞い上がっちゃって、バカだね。


 お昼休みになり、お弁当の前に晶ちゃんと一緒に手を洗いに行く。そこで彼女が「ずいぶんお気に入りじゃん、転校生のカズヒロ君」と、口に出した。

 なんで知ってるんですか、一言もいってないのに。むうぅ、後ろで見てたか……。

「何のことかな?」

「すぐ顔に出るねアイコは。協力したげるってぇ」

 あたしは素知らぬふりをするが、あちらは聞く耳持たないようです。ゲスな顔でニタニタしながら晶ちゃんがあたしの肩を叩く。うわ、手拭きがわりに使うんじゃないよ。まったく何考えてんだか。


 教室に戻って席に着き、ふと思う。いつもは空いてる隣の机を向かい合わせにして、晶ちゃんと二人でお弁当食べてるんだった。今日からカズヒロ君がいるんだからダメじゃん。

 うだうだ考えていると、晶ちゃんがカズヒロ君を見ながら「ねえ、三人でお昼食べよ、転校生くん」

 男子が女子二人と食べたがるかね? でもカズヒロ君は、「うん、いいよ」さらりと承諾。うぐっ、心臓が暴れ出す。

 机を向かい合わせ、あたしとカズヒロ君が対面に座り、晶ちゃんは机の中間にイスだけ持ってきて陣取った。協力ってこれですか……もっと順序ってもんがあるでしょ、いきなり食事とかさあ……はい、ウソです。よくやってくれました。えらい、晶ちゃん。

 全員が自己紹介をしてから、たわいもない世間話をする。でも、ほとんどは晶ちゃんがカズヒロ君に質問するだけ。あたしはうつむきがちに聞いてるのみ。ヘタレです。


「えっとぉ~。カズヒロ君? 海外から帰ってきて、お久しぶりの日本はどぉ?」

「うん、空港に降りたときにミソの香りがして、日本って感じた」

「あはは、味噌って……ウケる。じゃアメリカだと、バーガーとポテトの香りなのぉ?」

「はは、そうかもね。オイルの香りかな」

 二人で盛り上がってるし。どうしよ。あたし、お邪魔ですか?

 ちびちびとお弁当をつまむ。弾む会話を聞きながら、二人の声が遠くなっていく。あたし、取り残されーー「へえ~、カラオケって日本から広まったんだ。オケと言えばこの子、剣崎愛さんって、古い曲ばっか歌うんだよ。ポップスっていうか歌謡曲だしぃ。ウケない?」。

 きゅ、急に、なにさ……あたしは馬のしっぽのような金髪をゆらし、半笑いの晶ちゃんに、

「だって、おばあちゃんが好きだったから。それで覚えたんだもん」反論する。

「へえ、おばあさんに教わったんだ。僕はじいちゃんからいろいろ教わったよ、演歌とかね」

 カズヒロ君が白い歯を見せながら言う。あ、カッコいい。なに歌ってもさまになりそう。演歌のために、うちわでも作っちゃうか。

「うへぇ、いつの生まれよ、あんたたち……」

 晶ちゃんがバカにしてくる。ミーハーなケバ子はベタな曲でも歌っててください。演歌=古い、でもないし。

「最近の音楽とか聞かないの?」あたしがカズヒロ君に聞くと、彼はあたしが好きなバンドの名前を口に出す。うひ、趣味が合う。運命じゃ。あたしがはにかんでいると、晶ちゃん(半ば強引に)カラオケの約束を取り付けた。とんとん拍子に決まっていきますな。

 あのさ、晶ちゃん、心の準備ってものがさ~、早すぎるでしょ~? ……いえいえ、ありがとう、晶子さま。

「連絡先、教えといてよ」晶ちゃんがカズヒロ君に聞く。あ、ズルい。あたしケータイ持ってないのに。抜け駆けすんなし。

「僕さ、セルフォン持ってなくて、ごめん」

 申し訳なさそうにするカズヒロ君の顔が、マイハートにクリーンヒット。全然、OKです。

「あたしも持ってないよ。機械苦手で」

「おへぇ、イマドキの中学生なら持ってるでしょぉ」

 両手を広げて背もたれにそりかえる晶ちゃん。あなたがゼイタクなんですぅ。

 あたしはカズヒロ君と目を合わせて、笑いあった。……すごく、自然に。

 そんな幸せな時間を、昼休みの終わりを告げるチャイムが吹き飛ばした。あたしたちは急いでお弁当の残りをかきこむ。あっ、晶ちゃん汚い! ご飯ツブ耳について、ピアスみたいになってる!?


 次週の休みにあたしと晶ちゃんがカズヒロ君に地元を案内するという名目で、遊びに行くことになった。和菓子屋さんに到着して窓際の席に座って、各々注文したものを食べ始める。

 カズヒロ君は出されたお茶を、すすらないで静かに飲み(熱くないのかな?)。

 晶ちゃんは対照的に、ズルズル音立て「あちゃぁ!」と叫ぶ(やかましい女ですな)。

 お茶こぼした晶ちゃんは、おしぼりで着てる黒のワンピースを拭く。カラダのラインがもろに出るタイトなやつでスレンダーな彼女にピッタリだ。(ワンピっていうより、ボディコンってやつかな? ディスコミュージック、晶ちゃんよく歌うもんね。あなたも、古い女だよ)。服の黒を下地にして、おろした金髪ロングがいつも以上に、映えてる。さらに腕には百均のビーズで作ったブレスレット(頭に似合わずシックな色合い)。

 あたしがそのワンピース着たら、色々ダボダボになるだろな、とても着こなせそうにないや。

 そんで、晶ちゃんと逆にあたしはゆるふわ清楚系(ガーリー)コーデ。トップスは黒のブラウスで襟元に白のレース、ボトムスはピンクのフレアスカート。三月にこの格好だとすこし寒いけど、今日のために我慢してきた。気合です。

 カズヒロ君は白のシャツに黒のボトム。ジャケットには裏地がチェック柄で年季の入ったネイビーのPコート(お父さんのおさがりらしい、おしゃれです)。ステキな彼にピッタリなコーディネートだね。服の生地だけで高級感が伝わってくるぜ。


「あたしぃはスイーツのがよかったなぁ」なんて晶ちゃんグチる。和菓子もスイーツのカテゴリーじゃい。

「僕は和菓子好きだよ。このどら焼きおいしい、ありがとうアイちゃん」

「カズヒロ君も和菓子好きでよかった。このお店、おばあちゃんとよく来てたんだ」

 いつの間にか、みんな名前で呼び合う関係になってた。「ファーストネーム呼び、キホンっしょ」という、晶ちゃんの主張のおかげだね。

 それとも、あたしが今の苗字のこと好きじゃないの、晶ちゃん気づいてるのかも。どっちにせよありがとう、晶ちゃん。

 そのまま、あたしたちの会話は授業についての話になった。「ツマンね」とぼやき、一人でスマホをいじりだす不良娘をしり目に、カズヒロ君とのトークをする。あたし、お肌潤っちゃうよ。

「アイちゃん、教え方上手。頭いいんだね」

 カズヒロ君があんこのついた白い歯をのぞかせる。イエス!! だるい予備校なんか通っててよかったぜ。

「そんなことないよ、予備校でならったやつを、そのまま言ってるだけ」

「中一で予備校って早くないのかな? そもそも僕のいたアメリカだと予備校っていうのがないから、わからないや」

「ふーん。でも家庭教師とかは?」

「えっと、僕の親戚の大学生で……家庭教師は三人くらい、いたけど」

「おひゃ、カズヒロ君の家もお金持ちかぁ。ま、そんな感じはしてたけどぉ。実はアイコの家もお金持ちなんだよ。ほら、あのタワマンに住んでるんだって。あたしぃ行ったことないけど」

 晶ちゃんが窓の外にそびえたつ、積み木のオモチャみたいなタワーマンションを指さしたーーいますぐ崩れてなくなればいい、あの塔を。

 あんな家にだいじなトモダチを呼びたくないから、あたしは晶ちゃんが来るの、はぐらかしてた。

「……あたし父親、生まれた時からいなくて。その後、母親が結婚した人が、お金持ってたってだけだよ。あはは、玉の輿、大成功ってね」目を伏せながらつぶやく。

 暗くなっちゃったかな、ごめんなさい。あたしのオーダーした、あんみつの寒天が白濁してて……不愉快だから、あんこと混ぜて、ぐちゃぐちゃにする。

「お、いわゆる『マリネーゼ』ってやつだねぇ~」

 うん? 晶ちゃんは多分、「マリナーゼ」って言いたかったんでしょうね。

「アイちゃん、けっこうケッペキなんだね」

 あたしの気持ちを見透かしたのか、カズヒロ君が言う。あたしが潔癖だなんて、そんなわけないのにな。

「別に、人より恵まれてることに引け目なんか感じなくていいんだよ。使えるものは親でも使えってね。いいじゃない、『使わにゃ損』だっけ? 僕のおじいちゃんの受け売りだけど」

「そっか。そういう考え方もありなのかも。目からウロコかな」

「ちょい、アイコ! それ、前に、あたしぃも言ったけどぉ? なんだよぉ、カズヒロ君が言えばハートにドンってかぁ。ウケないぃ!」

 晶ちゃんは足をばたつかせる。あなたそんなこと言ってた? 覚えてない、ごめん。

「ははっ、僕、晶子ちゃんと同じ意見だったんだ」

「気が合うねぇ、あたしぃたち」

「うん、そうかもね」

「ならさ、ついでに聞いちゃう。アイコのことどう思う? 見た目カワイイよねぇ。すくなくともあたしぃはそう思うけどぉ?」

 スマホ片手に晶ちゃんがカズヒロ君に聞く。いいよ、そんなこと聞かなくて。でもなんで疑問形なのかなぁ。どういうことかなぁ? 今日のあたしコーデは晶ちゃんが選んでくれた勝負服のはずだよね? じと目でにらむ。

「うん可愛いと思うよ。気になってる男子、いっぱいいるだろうね」

 うそ、肯定されちゃった。バンザイ!(服のおかげかな?)でも、他の男子なんかどうでもいい。あたしはあなたに気に入られたいんです。……うう、緊張してきた。カラダが硬直するぜい。

「お、やったじゃ~ん。アイコぉ~」

 晶ちゃん、おやめください、スマホでわき腹ツンツンするのは。こっちが動けないのをいいことに、ちょっかいを出してくるんじゃないよ。

「それと、晶子ちゃんもね」

 不意打ちでカズヒロ君がささやき、晶ちゃんも固まる。おーい、もしも~し?

「……あたしぃはカワイくなんかーーない、です」

 晶ちゃんは、ほっぺたを紅色に染めながら、かろうじて聞き取れる声量でつぶやく。

「そんなことない、ステキだよ」

「こんな見た目だしぃ。アイコのが、ぜんぜんカワイイしぃ」

「たしかにアイちゃんと晶子ちゃんって、真反対なタイプだよね。だからこそ、どっちが上とかじゃないよ。それに二人が仲良いいのはすっごく伝わってくる。僕、父さんが転勤ばっかりで友達出来たことないから、本当にうらやましいよ」

「あたしぃとアイコはもうカズヒロ君と友達でしょ。……えへへ、男友達って、初めて」

「僕もガールフレンドって初めて、ありがとう晶子ちゃん」

「こっちこそ、さっきのお世辞アリガト……カズヒロ君」

「ちっともお世辞なんかじゃないよ。ねえ、晶子ちゃんのメイクって、なにかきっかけあったのかな? 僕ちょっと興味あるんだ」

「えっ、あたしぃなんかに、ご興味がおありで!? ……あたしぃね、昔すっごく地味でさ。自分が大嫌いだったの。だから見た目だけでも派手にして、ごまかしてんだ。あたしぃ……ブスだから、アイコと違ってさ。このブレスもお金ないから手作りだし。ホントはアイコとお揃いのヤツが欲しいんだけどね。もし、あたしぃがこの格好やめたら、きっと誰にも見てもらえなくなっちゃう。地味でブスでマジメなだけの女の子ってヒ(・)サ(・)ン(・)っしょ?」

「僕、晶子ちゃんのブレスレット、変に着飾ってないのがいいと思う。素顔の晶子ちゃんだって、きっと魅力ある。キミその姿、似合ってるけど……ノーメイクも見てみたいな。ほら、アイちゃんだって、派手なメイクじゃなくても、すごく可愛いでしょ?」

「えっ、う……考えとくぅ」静かになる晶ちゃん。

 カズヒロ君は少し微笑んで、トイレに行くと言い、席を立った。

 あたしはそのスキに呆ける女の肩に手を置いて、「あれれ? 晶ちゃん、さっきよりチーク濃いね……彼に気に入られて、よかったじゃん」耳元でボソり。

 すると晶ちゃんは「うっさいなぁ」と叫んでから、自分の頼んでた和風パフェを一口でかきこんだ。おいおい、マナーって言葉知ってるぅ? また太るぞ雪(・)だ(・)る(・)ま(・)。そのかっこいいワンピース着れなくなっちゃうぜ? 

 しばらくしてカズヒロ君が戻ってきたので、みんなで約束のカラオケに向かう。あたしはそこで盛り上がり、歌いながら、なにかを感じてた。だれか説明してほしい、アタシの心を。この気持ちを。

 だれよりもはしゃいでるあたしを、あたしは上から見下ろしてた。ずっと。



 三人で過ごした楽しい時間も終わり、自宅へ帰って夕飯。あたしと母とアイツで。なんの味もしない。いつも通り、ほとんどしゃべらないでいると母がカズヒロ君のことを話し出した。お父さんが有名な商社勤めで海外転勤から帰ってきたから、転校してきたという主旨だった。どこで仕入れてきたんだか。

 くだらない。そんなこと。仲良くしときなさいって。はいはい。


「それと、あの団地に住んでる子。晶子ちゃん? つきあいもほどほどにね」


 なんで、そんなことアンタに言われなきゃいけないんだよ。うっさいなぁ、黙(・)れ(・)。

 あの子のことなんか知りもしないくせに。あたしを助けてくれたのは晶ちゃんなんだ。

 そもそも、父親がいないのも、勝手に結婚したのも、あたしがワニに食べられるのも、全部アンタのせいだ。あたしがガマンしてやってるから、この生活が出来てるんだ。わかってんのかよ。

 聞いてもいないのに、住まいこそが人間を作ると、女はほざく。ずっと公営団地に住んでたくせに。何様なの? 人のお金で偉くなったつもり?


 無言で食器を片して部屋に引きこもり、ベッドで横になる。

 カズヒロ君は立ち振る舞いも、食事のマナーも、着てる服も洗練されていて、文句なしにステキな人だった。でも一緒にいるの、気後れしちゃう。あまりにも生きてきた世界が違うって、あたし、わかった。

 そう考えると、晶ちゃんのお箸の使い方とか、少し気になっちゃう……あたし以上に汚くて。やだな、友達をこんな風に見るなんて。大人になると、そんなくだらないこと気にしちゃうんだ。

 せっかく買ったブレスレット……重く感じた。あれ、もう要らない。つけたくない。晶ちゃんにあげようかな。

 そういえば晶ちゃん、帰りに「あたしぃもアイコもカレシいたことないから」って余計な事カズヒロ君に教えてた。


 あのね、カレシいたことないけど、あたしホントは……ううん、カズヒロ君はそんなこと気にしたりしないよ。


 どっちにしても、あたしも晶ちゃんも彼とはつり合い取れないか。今日一日でよくわかった。これが、失恋ーー心がざわついて、カサついて、ささくれが出来て、ボロボロ。

 ……いいんだ。あんなステキな彼と〝トモダチ〟になれただけで、あたしなんかには十分すぎるんだ。

 やめよっと、くだらないこと考えるのは。早く明日にならないかな、このまま寝よう。お風呂は朝入ろ。ズボラな、あたし。



 あくる日、登校途中の道に学生服の人だかりができていたので、立ち止まる。集団の中に金髪のド派手な頭があって、人をかき分け近づくと、思った通り晶ちゃんだった。

 うるんだ彼女の視線を追うと、横たわった子猫を守るかのように大猫がそばにいる。たぶん親猫だ。子猫の方は死んでるのかピクリともしない。

 大猫の方は子猫が停止している理由もわからずに、その体をなめ回している。

 その姿を見てキレイだ、とも、こっけいだ、とも感じる。

「あ、アイちゃん」スコップを持ったカズヒロ君が現れた。へえ、近所の家でわざわざ借りて来たんだ……キミは優しいんだね。

 で、子猫のなきがらを回収すべく、彼が身をよせる。すると大猫が四つ足を地面に広げ牙をむき威嚇。これじゃ近づけない。「どうしよ」晶ちゃんつぶやく。

 そんなとき、野次馬連中の一人が小声で「早くしろよ」。

 ガヤの中、その低い声だけが、ハッキリと聞き取れた。いつまでも脳の中リバーブして、耳障り。

 だったら自分でやれ。見ているだけなら消えればいいのに。

 あたしはカズヒロ君を押しのけ大猫に近づく。

「アイちゃん、危ないよ」彼の声も無視して、ツメの届く範囲まで思い切り踏み込む。乾いた音が発生し、大猫はあたしの足に攻撃することを躊躇した。さらにあたしは大声でどなる連続攻撃。

 すると、さっきまでの親心はどこへやら。大猫は毛を逆立て、一目散に逃げ出していく。

 こんなもんだよ。親だろうが、何だろうが、野良猫だろうが、人間だろうが、いざとなれば、わが身が一番カワイイんだ。

 子猫を持ち上げるーー軽い。まるで、この世のものじゃないみたい。死んじゃって、タマシイの分だけ体重が消えたんだね。

 手の上の子猫をまじまじと見つめる。傷がない、自然死なのかな。答えはわからないけど、苦しまなかったようにと願う。もう、遅いけど。

 鳴き声が聞こえ、数十メートル離れたところから、さっきの猫が恨めしそうにこっちを見ている。あたしは反対方向に駆け出す。後ろに、二人分の足音がついてきてた。


 さっきの場所からそう遠くない公園に来た。その一画にある大きな木の根元に、カズヒロ君が小さなスコップで穴を掘る。今日は肌寒いのに、額には汗がきらめいて、一心不乱に堀り続ける。むせ返るような土のニオイが、どこか懐かしい。

「これくらいでいいかな」カズヒロ君が息を弾ませながら、あたしに問いかける。

「うん、いいと思う」あたしはずっと手に乗せていた子猫を穴の底に、置く。

「バイバイ」晶ちゃんが声を震わせながら言う。

 それからあっという間に子猫は土でおおわれて、見えなくなる。掘り起こされたこの場所だけが、若々しい土の色。

「あの親猫、あたしのこと憎んでるだろな」

「そんなことない。感謝してるよ、アイちゃんに」

「いいの」

「え?」

「あたし、気にしないし」

「……優しいね、アイちゃん」

「そうだよぉ、アイコはすっごく優しいんだぁ」

 そんなことないのに。あたしはただ、なにもしない野次馬に腹が立っただけ。優しさなんか、かけらもない。全部が自分の都合なんだよ。


 カズヒロ君の頬を一筋の光のつぶが流れ、

 晶ちゃんの目から滝がとめどなくあふれてる。


 二人を見て、あたしだけが汚い存在のように思え、掘り返した土の部分をじっと見る。あの子猫、骨になるんだ、ここでさびしく。きっとあたしもそうだね。

 遠くから、学校のチャイムが耳に届いた。


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