表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰かの詩。口遊めば、  作者: 歌島 街
#10 微笑みの偽り
21/51

微笑みの偽り②

 結局、コーキ君がライブ直前まで来れなくて、ドラムセットもあたしたちで運んだ。頼みますよ先輩。恨みを込めて金髪の補習男を見つめる。

「んだよ。悪かったって」

 お金が無くて美容院に行けないのか、根本が黒くなったプリン色ツートンカラー髪のコーキ君が謝ってくる。やだ、今日こそは許さない。ちゃんと掃除手伝え。あたしだってバイトと部活、掛け持ちしてるんだから。

「ドラムの代わりにメトロノームでも置いておけばよかったね」

 ソウ君が言った。そうだ、そうだ。イヤミの一つでも言ったれ。

「走りすぎないし、下手なフィルインもやらんし」

 リュウ君も会話に参加する。ドラムでリズムを刻んでる合間に、他の叩きをアドリブで入れるやつが「フィルイン」だっけか。変に入れられるとこっちも狂うから、リュウ君に合意。今度は意見が合ったね。なんて考えて、少し頬が緩む。

「けっ、下手で悪かったな。おい、なに笑ってんだよ?」

 コーキ君に言われて、慌てて仏頂面にする。怒ってますからね、あたし。


 四人揃えばいつも通り。さっきまでのチグハグ感はどこへやら。これでこそ「ダンデライオン」。さあ、そろそろライブ開始の時間だ。やったるぜ。軽く飛び跳ね体をほぐす。

 今回の対バンではあたしたちが前座。前の失言のお詫びもかねて打ち合わせの時、あたしが提案したからだ。あの時、雰囲気悪かったな。「わかりました」って梓ちゃんが答えてくれたのが唯一の癒しだったよ。持つべきものは性格のいい美人令嬢だね。よしなーにゃ(よしなに)



 舞台袖から下をチラ見すると観客が大勢。アバウトに数えてみて百人弱くらいか。放送効果のおかげか想像以上に多い。体育館で正解だね。

 先生たちも見に来ているが大半は夏休みなのに補習やら部活やらで残っていた生徒たちだ。さっきの女子バレー部も怪訝な目つきで見ている。見せつけてやるぜ。あたし達の部活動を。

 そして時間になりステージに出て。挨拶をし、演奏スタート。


 一曲目はあたし選択の洋ロックナンバー(イッツ・マイ・人生!)だ。お笑い芸人がネタで使ってて割合メジャーなヤツ。そのマネしてピック投げパフォーマンスしたらウケてた。やったぜ。


 二曲目はコーキ君の選択した、オールディーズ洋ロックナンバー。月の名を冠する有名ドラマーバンドの楽曲らしい。これぞ若者のアンセムだ。マイ・世代だぜ。

 コーキ君とソウ君のリズム組は、演奏をがんがんリードしていーーあれ? なんか練習の時と違う。ソウ君どした、ベース……なんかヘタ。三味線みたいなベンベン・ベースと、ドカドゥカ・ドラムの掛け合いユニゾンがカッコいい曲なのに。違和感をぬぐえないまま演奏は終わった。

 それでも会場は盛り上がり、体育館は熱く(暑く)なる。うん、おっけ。おっけ。


 三曲目はリュウ君のアニソン……前回もそうだけど、クラスメートに流行りの歌をリサーチした結果のコレらしい。聞く人間違ってる気がするけど、歌ってて楽しいからいいや。

 それにリュウ君ってほっとくと『死刑囚の刑執行直前の心境を表現した歌』とか『戦場で手足が無くなって苦悩する元兵士の歌』とか、暗くて救いのない曲ばっかりチョイスするし。

 アニソンがサビに入り、眼鏡をかけた集団が合いの手を入れてきた。みなさん激しいですね~。体感温度さらに上昇。会場なお盛り上がる。ただ、あたし達より目立たないでほしい。


 そして、ソウ君がチョイス&メインボーカルの四曲目がスタートすると、待ってましたとばかりに蒼ガールズが吠える(和泉ちゃんも含む)。

 オラオラァ! メス犬どもエサの時間だぁ、たんとお食べぇ。調教師になった気分でステージから彼女たちを見下ろす(見下す)。

 あ、やっぱおかしい。ソウ君のボーカルはいいけど……ベース弾いてるのかな? 全然聞こえね。まいっか、あたしが盛り上げたるぜ!

 バックコーラス担当な上、間奏中は暇なので、あたしはリュウ君の隣でエアギター。自分の肩まで伸びてるくせ毛を振り乱しヘッドバンキングを決めてトリップする。見てみてぇ~!!

 そんなあたしがカエルさんには邪魔だったんですかね。リュウ君におしりを蹴り上げられて、あたしは「きゃん」と鳴かされた。

 あたしも立派なメス犬でした。はい、おとなしくしてます。


 あたし達の最後の曲が終わって、会場は大盛況。あの女子バレー軍団も拍手してくれてた。嬉しいな。

 それを見てたら投票も楽勝かなと思う。

 だって前の放課後ライブでもフリージアさんの時、見てる人たちの反応いまいちだったもんね。負けなんて、ないない。弦音さんも加えて五人で全国大会だ。 

 いやその前に、関東予選か。みんな全国、全国言ってるけども。ライブ終了後の達成感に包まれながら一人ツッコみ。



 フリージアさんたちの番になり美人三人が現れた。下で見ている男どもがどよめく。ちぇ、あたしじゃ(胸が)足りないってか。

 不貞腐れていると、梓ちゃんがドラムセットに向かう前に「重音部さん素敵でしたね。()()()()()()と愛ちゃん」お褒めの言葉をくれた。

 ソウ君も褒めたげて~。あの人落ち込むと後々めんどくさいので。

「でしょ。選挙のマネなんかやめてさ、みんなで一つのバンドでよくない?」

 今、思いついた。我ながら名案だと思う。仲良くしようよラブ&ピース。ドラム二人になっちゃうけど。

「それもいいですね。でも、燈先輩は流石に『部長』ですから」

 そっか部長さん……燈さんは簡単に移籍なんて出来ないよね。軽口叩いちゃった。ごめんなさい。

「梓、何してるの。準備早く」弦音さんが声を張る。

「じゃあ、愛ちゃん。わたくし達の演奏もお楽しみください」

 そう言ってドラムセットへ歩き出す梓ちゃん。「よしなに」は無しか。つまんないの。

 ありゃ、今回のフリージアさんの準備を見て違和感。ドラムセットにマイクを付けてる。梓ちゃんが歌うの!? ビックリです。難しくないのかな。あたしなんかボーカル専任でいっぱいなのに。

 驚きを隠せないまま壇上から降りてステージを見上げる。

 あたしから見て右にベースの燈さん。真ん中にドラムの梓ちゃん。左にギター弦音さん。

 アンプの関係上、全部の楽器があたし達と同じ配置か。違うのはボーカルがいないので、ベースとギターの距離が近いくらい。


 準備が終わって燈さんが挨拶をし、梓ちゃんがドラムスティックでカウントしだす。いったいどんな曲やるんだろ。

 前回はギターの弦音さんを中心にした楽曲構成だった。あれだけの超絶技巧ならばその考えがベターだろう。とにかくソロメインの感じ。ギターは凄いけど聞いてる方は飽きてきちゃうかもね。少なくともあたしはそうだったし。オーディエンスを置いてきぼりにしている。


 今回もそうかなと思っていたら、違った。一曲目はCMでも使われているようなメジャーでテクニカルなナンバー、意外。少し前にこの曲を作ったバンドのリーダーが有名女優と不倫をしたことでも話題になってたな。

 でもそんな事は作品の良さには関係ないだろ、って歌ってる気がした。この人たちが演奏していると。まさしく『そうする以外は私じゃない』ってことですね。

 弦音さんのギターはリズムを刻みつつ添え物程度にメロディを奏でる。いつもより前に出ずに裏方に徹している形だ(あれ、リズムギター?)。赤い稲妻ギターの首に髪留めみたいな(カポタストだっけ?)ものをつけてる。なんだあれ、楽器デコってんのか。

 むしろメインは燈さんのベースと言わんばかりに低音を響かせる。指の動きが蛇のようにうなり極太弦弾き、ギターは引っ込めとばかりにベースでメロディラインを支配する。この人こんな上手だったのか。流石、強豪高校三年生。

 先月は歌の方も自信なさげに歌ってたけど、今は違う。三人娘の中でも頭一つ高い背を凛と伸ばし、堂々たる歌唱っぷり。……あたしもあれくらい身長ほしかったな。

 ボーカルの隙間を埋めるようにベースは楽曲の至るとこに顔を出し、曲を牽引していく。リードベースってヤツだ。燈さん、ノンストップで大変そう。

 梓ちゃんはドラムを叩きつつファルセットでコーラスをし、サビに華咲かす。ドラムボーカルなんて無理あると思ったけど、逆にドラミングにメリハリが出来ている。マジか。

 あたしの周囲を見渡すとザワザワしてる。そりゃそうだ、前回と比べると雲泥の差。月とすっぽん。像と蟻。あたしの胸と弦音さん(ちぇっ)。

 いつものギター女王様のワンマンショーはどこへやら。見事な合奏です。曲の終了とともに拍手喝采。ぐぬぬ。


 弦音さんがさきほどのギター髪留めを外したと思ったら二曲目が始まる。なんだか重々しい音作りだ。ダウンチューニングってやつか、誰がチョイスしたんだろ?

「なあ、わかってるよ。お前が正しいってことが。オイ、なあ」とか英語で歌ってる。燈さん、英語イントネーション、お上手です。

 それにしても、「なあ」(ゆー・のう?)って語られても……なぁ~?(あい・どん・のう) 『十代の魂のニオイ』ってサビも意味不明です。

 それを燈さんとともに流暢に歌い上げる梓ちゃんを見て、彼女が選んだ曲と確信する。梓ちゃんって案外、病んでる系お嬢様なのかな。高橋先生のせいだ。きっと。


 そういや今日はレッドの三十路はいないな~? どっかにいたり……あっ、いた。

 高橋先生は体育館の上に設置されてる通路からステージを見てた。唇の両端が吊り上がって、三日月作ってる。おまけに竹刀でエアギターまでしてて……あ、さらに上体をものっそいエビぞりだした。よし、そのまま、そっから落っこちろ。もしくはカエル男におしり蹴られろ。


 変人は置いといて、さらに驚いたのは三曲目。それは前回のあたしたちが演奏した譜面化されていなかった、あの「アニソン」だ。リュウ君の手から弦音さんが叩き落としたやつ。『フリージア』さん達で譜面起こしたってことか。

 あたしはどや顔で二番の歌詞を作りましたよなんて言ったけど、今歌われている詩の方が曲調にマッチしてる。一番の歌詞とちゃんと対になった歌詞だ。キチンと世界観を理解していなければ書けないであろう言葉が紡がれ、楽曲の良さを数段向上させてる。だれかアニメマニアさんなのかな(梓ちゃんか?)。

 取り敢えず、隣のメガネ男子が「ふぬぅ、麗しぃ」とか言ってて気持ち悪いのは確実です。だけど『一度きりの恋なら、私と遊ぼう』って……いいサビですよね~。


 曲が終了して会場が揺れる。なんてこった、あたしたちより盛り上がってる。だれも「ダンデライオン」の存在など記憶に留めてはいるまい。あたし自身、フリージアさんの演奏に聞き入ってたし。

「部員一人につき一曲だから、ワタシたちはここまで。また今度ね~」燈さんが背後のスタンドにベースを置いて残念そうに言う。……いやいや、あなた絶対帰る気ないでしょ。

 聴衆はブーイングを起こし、それを無視して「バイバイ」と幕横に消える美人三人組。するとブーイングが自然とアンコールに変化した。


 やられたぁ!? これは、前のライブであたしが自分アンコールしたことに対しての意趣返しだ。完全にバカにされてるよ、あたし。だって部長命令で「一人アンコールやれ」って言うんだもん。自分意思ではないですから。あの時、ちょっと楽しくなっちゃったのは事実だけど。

 コールが沸いてしばらくしてから、横幕から燈さんがちらっと顔半分を見せ、みんな声を張る。そして、彼女引っ込む。おい、早く出てこい。じらすな。あざといんだよ、ったく。

 そんな茶番を三回ほど繰り返し、満を持して登場する女神たち。

 あー、はいはい。キレイキレイ。騒ぐなっ! 男どもっ!


 で、始まる、四曲目。うん、待ってましたよ。イエーイ。フ~。ちっ。

 そして弾き乱れるギター。キャー、女王様ステキー。お、これはあたしでも聞いたことのあるフレーズ。たしか陽気な白人兄ちゃんが弾いてたのを昔テレビで見た記憶がある。思わず〝飛びたく〟なるようなキャッチーなメロディー。

 聴きながら「きゃりふぉるにあ」のようにスカッとしたそのフレーズが、じめじめした体育館の空気を吹き飛ばすようだ。行ったことないから想像だけども。

『ライトハンド奏法』ってやつが使われてるのかな。リュウ君が前に部室でやってくれた時に「凄い、凄い」って喜んだけど、弦音さんがやると手が見えない。一音々々のクリア感も段違いだ。全部の指を使い高速で弦を弾いて(叩いて)るのに、精密機械のような精巧さ。あたしが聞けばわかるぜ(エッヘン)。いや、負けてるんだって、我らが部長ことリュウ君が。……やっぱ、指数の差かなあ。

 全ては弦音さんのギターソロの為の布石だったんだ。いや、それだけじゃない。燈さんと梓ちゃんの土台があってこそ、今回のフリージアさんだ。今日は完全敗北したよ。

 体育館に鳴り響く歓声を聞きながら、あたしは彼女たちを強敵と認識した。


 放課後ライブの打ち上げにファミレスに来た、あたし達「ダンデライオン」。

「フリードリンクを一つ頼んで、四人で飲みまわそう」という、ソウ君のケチにも程がある気色悪い提案を唾棄し、普通に注文をするとしよう。ソウ君は水でいいよね。


 え~と、リュウ君は日替わり定食Bセットね。じゃああたしはAセット。コーキ君はCですね。え、リュウ君Bじゃなくて、ケンちゃんと同じAに変えて?(定食の話ですよね)はいはい。

 あん? ソウ君はみんなのヤツを少しつまむ? ふざけんなし。じゃ、お値段優しくお子様Dセットね。はい、A二つと、Cと、Dで、お願いしまっす。注文終了!

 は? やっぱリュウ君はAじゃなくてCぃ~? はい、さっきのAをCに変更でおなしゃす! A・C・D・それとはい、AをCで。

 はぁん? リュウ君やっぱBぃ~!? もう知りません。セルフでやれっ。

 コーキ君は車じゃねえから、今日はビールゥ?? 未成年の飲酒ダメ、ゼッタイ。また留年すんぞ。ってか『今日は』ってなんだコラ。余罪あんのかぁ!?

 三人乗った車で、高速道路ハイウェイ(トゥ)事故ってこい(ヘル)

 はあ~、疲れた~。何度も呼び出されて店員さんもあきれ顔してたし。熱いよぉ、クーラーが利いてないぜぇ。


 夕飯を食べつつ、反省会開始。フリージアさんの演奏を聞いて他三人も打ちひしがれているかと思いきや、彼女たちに関するトークに花を咲かせてる。

「あんな美人でベースの上手な人、女子軽音にいたんだね。要チェックだよ」

 ソウ君が軽口叩く。あなた、燈さんに完全に技量負けてるから。あたし分かるよ。そもそも自分がメインボーカルの時、演奏おざなりになってんの気づいてるのかな、ナルシストさん。

「それにしても、今日はいつにも増してベース酷かったね」と、言いかけて口をつぐむ。

「ドラムにボーカルか、悪くなかったな。俺もやるか」

 コーキ君がほざく。やめてっ! あなたが歌ったらこっちまでダメになります。

「やっぱ、あのギターだよ。弦音ちゃん……たまらんぜ」

 リュウ君が舌なめずりしながらつぶやく。弦音さん逃げて、変態がいます。


 あたしはみんなの会話を聞きながらあいまいな返事をし、作り笑顔した……久しぶり。変じゃないことを祈ろう。

 でも、ホントに気になるのはそんなことじゃない。一切、会話に出てこない、今日のあたしのボーカルのこと。

 あたし、この部に必要なのかな。教えてよ、だれか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ