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誰かの詩。口遊めば、  作者: 歌島 街
#6 なんにもないか
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なんにもないか②

 それからも引き続きコーキ君に車中で部活の話を根掘り葉掘り聞くあたし。ふんふん、カエル男に女の影なしっと。


「んだよ。ずいぶんアイツのこと、お気に入りなんだな」

「え……だってみんなの事まだ知らないから、もっと詳しくなろうかと」

「みんなじゃなくて、カエル野郎のことばっかじゃねえか。なら、俺の話はどうだ? 俺のおふくろホステスやっててよ、親父は有名な財閥跡取りの金持ち。よく知らねえけど。だって、ちゃんと結婚してできた子供じゃねえから」


 出た言葉に驚くあたし。コーキ君は愛人の子として、生まれたってこと?


「へ、へえ、そうなんだ……あたしもね、実はホントの父親って会ったことないの。コーキ君とおんなじで、片親です」

「お前ーーそうだったのか、ワリい。だから、たまに暗い顔してんだな。俺と同じで」


 不良の人ってそういうトコ、鋭かったりする。動物的嗅覚ってやつですかね。コーキ君のファーストフードのポテトみたいな金髪を見て、あたしは勝手に納得した。


「ま、影が濃い方が光もまた増すってことだね。いい女には色々あるの」

「んなこと言って、恥ずかしくねえか?」

「……少し」

「なら言うな! お前、自分のオヤジに一回も会ったことないのか」

「そうだよ。そのあと結婚した人が、いまのあたしの父親ーー義父ってこと」

「だったら俺の方が恵まれてるか。親父にガキの頃、遊んでもらったコトもあったしな。今思えば楽しかったぜ。中学に入ってからは当たり散らしたけどよ」

「そうだね、多感な時期だから難しいよね」


 この前まであたしも中学生だったことを思い出し、うなずく。


「そん時、親父に『殺してやる』って言ったことあったな」

「あたしだって、コーキ君の気持ち、わかるけど……そんなことしちゃダメだよ」

「しねえよ。いや、できないだな。親父、自殺しちまったから。理由は汚職だかなんだかの責任とってとかだ。俺、頭悪いからよくわかんなかったけどよ。ま、せいせいしたぜ。金もたんまり入ってきたし」


 コーキ君てば、けっこうヘビーなパンチを次々と繰り出してくるね。あたしノックアウト寸前。

それにしても何でそんな話をあたしに? 夜のドライブで変なテンションになってるせいかな。

 対向車がライトアップするコーキ君の顔はセリフと違って物憂げで、お父さんのこと全然割りきれてなさそうに見えるよ。


「ねえコーキ君。ならなおさら、お金大事にしたほうがいいよ。お父さんが残してくれたタイセツなものなんだから。あんなタカリ屋さんたちに、ホイホイおごっちゃダメ」

「ははっ、アイツらがタカリ屋か、ちげえねえ……俺がもう金出さねえって言ったら、カエルもソウも離れてくんじゃねえか」

「それ本気で言ってるの? ならあたし、コーキ君の事ケイベツする」

「へっ。そりゃ困る。冗談だ」

「お金なんか介さないで二人と接してみればいいよ、怖いのかな? 三人はそんなに安っぽい繋がり?」

「どうだろうな」

「あたしたちなら大丈夫。くだらない賭けなんかしなくたって、やっていける。わかる。あたし人を見る目あるもん」


 出会ったばっかりなのに何かっこつけてんだろ、あたしってば。恥ずかしいなあ。コーキ君と同じく変なテンションだ。夜の魔物のせいにしようっと。


「お前、あつ苦しい女だな」

「……そんなことないです。あたしはクールビューティーなんです」


 視線は前方のまま、コーキ君が変な顔する。失礼な。


「あ、オゴリなしになったらソウ君はどうだろ。あの人ケチっぽいし……もしいなくなっても、あたしベースやるから安心して」

 車の中にコーキ君の笑いがこだました。それは、テノールでオトナらしい男の人の声だった。


 車内は温まったけど、カーナビが目的地への到着を知らせる。すこし名残惜しい。

「ついたぞ」停車しようとするコーキ君に声かけて、あたしは道路の方を指さす。

「ごめん、もう少し先でお願いします」

「あ? わかった」

 そのまま車を走らせてもらうと、真っ暗な小道の先に幽霊屋敷のような佇まいのアパートが。夜と溶け合って、黒一色に染まったオンボロ我が家だ。


「これ、あたしの住んでるとこ」

「なるほど。こりゃ……結構な年代モンだ。よく住めんな、こんなとこ」

「住めば都っていうでしょ? こんなとこでも、あたしは大好き」

「セキュリティとかダイジョブか?」

「いざとなったら大声出すから大丈夫」

「なんかあったら俺にすぐ連絡しろ、いつでも来るぞ」

「あはは、ありがとう。コーキ君って優しいね、女の子誘う時もそうやって落とすの?」

「いや、こんなアパートに女一人じゃ、さすがに心配するだろ」


 コーキ君はあくまで真剣な顔で言う。あ、この人は大人の男性なんだ。いまさら意識しちゃう。


「……あたしね、最初はコーキ君にここを見せたくなくて、ちょっと手前で降ろしてもらおうとしたんだ。いくら好きでもボロはボロだから。でも、さっき昔話を聞かせてくれたお礼です。あたしも隠さない。今日はありがとうございました」

「けっ。ガキらしくて、ショージキだな」

「あたし子供じゃないし。……ねえ『センパイ』うち寄って、お茶、してく?」

「ああ? ……バカ。冗談でもやめとけ」

「え? カラオケで助けてくれた時に、あたしのこと『俺の女』って言ってました……よね?」

「ありゃあれだ、コトバのあやだ」

「あはは、残念です。ねえ、いまのあたし、少しはオトナっぽかったかな。オンナ感じた?」

「……どーだかな。ガキはとっとと寝ろ」


 あたしが降りて車がゆっくり走り去っていく。ブレーキランプでサインしてくるかなと思ったけど、なんもなかった。なんかあるでしょ『ア・イ・シ・テ・ヌ』とかさ~。

 もしコーキ君が「寄ってく」って言ったらどうしたろ、あたし。そんな事を考えながらアパートの急な階段をギシギシ音を立てないように、そろりと登る。うわっ、手すりが冷え切ってて氷みたい。

 帰った部屋の中も外と地続きな氷の世界だった。それなのに、あたしの頭は季節外れのカイロのようにポカポカしてて、ちっとも寒くなかった。

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