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三年目の追憶  作者: 青鷺 長閑
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六章……三年目、其の五。

 意味が分からない。

「一体どういうことだよ、」

 今走っている道は、俺達が降りた駅から大学までに至る道、そのまた一直線上の整備された歩道だ。

 どこに向かっているのか、それは、

「一か月前からずっと入院してるってよ?」


 そう。

 俺の嫌な予感は的中した。してしまった。

「さっきの男の人の話によると、神菜はどうやら生まれたときからの病気持ちらしい」

「病気って、そんな話一度も聞いたことないぞ」

「俺もたったさっき聞かされるまで全然知らなかったよ。かつての神菜もそんなこと一度も言ってなかったはずだし」


 続く拓海の話をまとめるとこうだ。

 その病気は脳全体に障害をきたす。

 幼いころに彼女の病気が猛威を振るわなかったのは他でもない、それが後発性だったからだ。

 ただ、後発性といっても詳細な発症時期の特定は極めて難しくその具合も多種多様、場合によっては死ぬまで発症しないこともある。

 そういうことを考慮してか神菜は俺達にこのことを敢えて喋らなかったのだろう。

 しかし、神菜はその症状が現れた。

 一度現れた症状は薬剤を投与したとしても鎮静しにくく、また副作用も十分に危険性がある。

 早期発見だったとしても、記憶喪失で済んだら幸運、くらいに考えた方が良い病気。


 つまり。

 こうなった以上神菜が昔のままの神菜でいてくれる保証は微塵もないということだ。


 向かった先は「川嶋救命救急病院」という所だった。

 酸性雨で溶かされたのだろう、外壁は今にも崩れ落ちそうな弱々しい白色をしていた。

 正面の自動ドアから院内へ入り受付へと向かう。

「すいません、春浦神菜という患者が入院していると思うのですが」

 拓海がすぐさま受付係に訊ねた。

 少々お待ち下さい、と受付は何やら棚から書類を取り出した。どうやら入院患者の照合をしているらしい。

「はい、確かに当院におられますが」

 良かった。とりあえず神菜がここにいると分かったことで、俺も拓海も幾分ホッとした。

 拓海が続ける。

「実は私達、彼女の旧友で見舞いをしようと思ってに来たのですが神菜さんはどこに入院してますか?」

「救命救急棟二階ですが、親類の方以外は面会謝絶とさせて頂いております」

『えっ……?』

 救命救急棟に? しかも……

「面会謝絶って、何で…ですか?」

「現在病状が悪化しているためと思われます」

 瞬間、心の中に微かに生まれていた安心感が全て消え去った。


 失っていないもの。


 でも、自らの目で見てその存在を確認出来ないことからくる絶望感。


 俺らは受付を出て待合室の長椅子に腰かけしばし静かに泣き崩れていた。

 俯いていたせいで気付かなかったが、一人の女性が二人の前に立っていた。

 女性は俺達に話しかけてきた。

「あの……」

「……はい」

「いや、さっき神菜のことを話していたのが聞こえたので……」

「え、何で神菜さんのことを……」


 いや、その女性には見覚えがあった。


「私は神菜の母親です」


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