五章……三年目、其の四。
「悪いな来てもらって」
翌日。
俺は約束通り九時に、寮から徒歩数分の拓海の寮に行った。
「それは良いけどさ、ホントに行くのかよ」
「まぁ、ちょっとだけな。電話でも言ったけど厳しく追及するわけではない」
「そうか……あ、ところで神菜の大学ってどこなんだ?」
「ついさっき近隣の人から訊いたんだけどな、どうやら川嶋国際情報大学らしいぞ」
「川嶋国際情報? じゃあ寮生活するほど自宅から離れてないんじゃないか?」
そうだ。そこは決して近いというわけではないが、わざわざ高い寮費払って住むほどかけ離れてはいない。
要するに、同じ市内ってことだ。
あれ? 国際情報ってことはじゃあ……
「アイツは文系だったのか?」
「どこの学部かは知らないけど、普通に考えるとそうなるだろうね」
何だ、アイツも文系だったのか。
「とにかくまずそこへ行こう」
「歩いて行くのか。大分かかるぞ」
「いやいやまさか」
「じゃあ循環バスでもあるのか?」
「ないと思う」
「マジか。割り勘してもタクシーは高――」
「なんで電車という交通手段が出てこないのかなぁお前は!」
「…………おぉ」
市内とは言えローカル線で十一駅小一時間と結構遠く、やはり自宅通学は難しいのかも知れなかった。
プラットフォームを出ると、そこは周りに建物も大きな道もない、田園一色だった。
遠景にもそれらしき建物は見当たらない。
「降車駅はここで合ってんのか」
「ああ。大学は駅の真裏にある」
見ると、確かに駅の正面よりも裏のほうがあからさまに建物が多かった。
俺達は駅裏を背に歩きだした。
「昔はこの裏が棚田だったらしくてな、」
拓海が説明してくれた。
「農業が盛んだったそうだ。でもしばらくたって農耕が廃れると、今度は今歩いてる辺りが住宅地帯として発達したとか」
なるほど。それで駅は田園の方に向いてるのか。
「大学ってどの辺にあるんだ?」
「十分も歩けば着くだろう」
拓海が即答する。
俺はそれに妙な違和感を覚えた。
「……あれ、そう言えばお前、どうして道知ってんだ」
「ネットで調べれば出てくる」
「……なぁ、そんなにアイツのことが気になるのか。わざわざ足を運んだって門前払い食らうだけかも知れないんだぞ」
「だから、試しに行ってみるだけだとさっきから――」
「試しにで昔の友達の安否確認しにわざわざ近所の人に話訊いたり通ってる大学調べたり、増してや休みの日に行ってみたりするか?」
「…………」
俺の質問攻めに拓海は二の句が継げなかったようだ。
しかし、この際だから俺は一気に捲し立てる。
「この間も言ったんだけどお前さ、本当はアイツ、神菜のこと――」
「そうだよ」
拓海は意外にもあっさりと肯定した。
すると、今度は拓海が言葉を連鎖させるように単語を繋げていく。
「俺は中学の頃から神菜が好きだったんだ。でも告白はしなかった。何故だか分かるか?」
「そんな勇気が、お前にはないだろう」
「それもあるかも知れない。でも本当の理由は違う」
「じゃあ何だ」
「俺はな、あの三人グループ自体が好きだったんだよ。幼少期と小学生の六年間を一緒に過ごした、俺とお前と神菜の三人が」
なおも拓海は続ける。
「いつか神菜が言っていた。いくら幼馴染だからといっていつまでも仲良く一緒にいられるわけじゃないって。そんなの分かってるんだ。でも、だからこそ、限りある存在だからこそ俺は好きだった。神菜を好きである以上に、あの三人組がさ」
「…………」
今度は俺が逆に何一つ言えなくなってしまった。
「だから今まで黙ってた。でも察せられたんじゃ仕方ないよな。そうだよ。俺は神菜が好きだ」
「……そう、だったのか」
拓海が俺達のことをそんな風に考えてるなんて思ってなかった。
でも、拓海がそう考えてるからこそ……
「神菜を探すんだな」
「あぁ、そうともさ」
そんなことを話しながら歩いてるうち、気付いたら神菜の大学はもう目の前だった。
正門をくぐると目の前に木目の看板があった。
見ると行書で「総合大学センター」と書いてあったので、そこの扉を開けて中へ入る。
通路わきの教職員室は一定間隔で仕切られており、間取り的に考えるとどうやら学部・学年で分かれているようだった。
「とりあえず一学年をしらみつぶしに訊いていこうと思う」
「分かった。最初はどこに訊くんだ?」
「一紀はここで待ってて。一人で行った方が迷惑じゃないだろうから」
そう言って拓海は玄関に一番近い、国際情報学部の職員室に入っていった。
拓海は年老いた男の人と話をしていた。遠いので内容までは聞き取れない。
だがそのまましばらく会話を続けていたので神菜のことが分かったのかなと思っていた。
拓海が話を終えて戻ってきたその瞬間。
俺達は大学を駆け出していた。




