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三年目の追憶  作者: 青鷺 長閑
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一章……三年目、其の一。

 一人暮らしの酷さというものを、今一度身をもって知ってしまった初夏(紛い)の候。

 昨日天気予報士の言ってた「六月も中旬と言ったところでしょうか。まだまだ朝の冷え込みが予想されます。夜は暖かくしてお休み下さい」という言葉を鵜呑みにし、長袖・長シャツ・長ズボンという格好で布団三枚掛けて寝てしまったのが一巻の終わりだったようで、朝起きたらもはや体感温度がサウナ以上だった。あの大嘘吐きめっ。

 昨日から一転、うだるような蒸し暑さの中、ゆっくりと布団から起き上がる。



 親元を離れ大学生活を始めて三年目。地元が離れているためか、同じ高校からこっちへ進学してきた人はほとんどいない。大半は地元の大学進学、もしくは就職だった。


「一紀ぃ、遅刻するぞー」

 かと言って友人がいないかというとそういうわけではなく、今現在俺の名を叫び家のドアを叩いているのが、友人の佐藤拓海だ。実は小、中、高と同じ学校で親友だったのだが、色々あって、学科こそ違うが大学も同じ道を歩むこととなった。


 何のことはない。それだけの関係だ。


「分かったよ。今行く」

 俺は玄関に向かって適当に答える。別に朝が苦手というわけではない。俺のアパートが拓海のアパートと大学を繋ぐ道の途中にあって、毎日迎えに来てくれるのでそれに便乗しているだけだ。

 手早く支度を済ませ玄関を出る。拓海がいた。

「よう、遅かったじゃんか」

「朝起きるのが遅くてな。日に日に起きるのがつらくなっていく」

「また夜遅く寝たんだろ? いつか絶対遅刻するぜ……おっと、急がないと今日は遅刻するかも」

 腕時計を見ながら拓海が言う。いつもは駄弁りながらゆっくり行っても間に合うのだが、やはり今日はちょっと遅かったようだ。

 俺達は小走りで学校へ向かうことにする。



「じゃあまた後でな」

「ああ」

 学校には何とか間に合い、校門で別れ、俺は自分の学部である経済学部のキャンパスへと向かい、拓海は法学部の方向へ歩いていく。


 俺は大学へ進学したが、正直言ってそんなに優秀なわけじゃない。高校も相応の進学校だったが成績は中盤かちょっと下ぐらい。だから進学も結構危うかった。

 挙げ句進学したは良いが、俺はまだ未来が見えていない。何とかして自分自身に社会におけるメリットがないものかと必死に探したが結局見つからず。如何せん「これが得意!」という分野が皆無なもんで、ええ。

 しかし拓海は違った。前述同じ小中高だったから分かるがアイツは頭が良い。高校の成績も、学年トップまではいかないもののかなり上位を維持していたはずだ。俺とはそもそも基礎が違う。勉強家だ。

 だから将来性もしっかりしていて、この大学で法律を詳しく学び、最終的には弁護士を目指しているのだそうだ。


 みんな果たしてそんなものなのだろうか。有望だから大学へ進学するのだろうか。


 俺はたまにこんなことを感じ、孤独感に襲われることがある。

 そんな事を考えながら、俺は人文学・経済学部棟へと向かった。


 いつもの、窓際後ろから二番目の席に腰を下ろす。日差しが強いものの、夏は風通しが良く冬はストーブが近いというなかなか好条件の席だ。

 今日最初の講義は金融論だった。国際系統は割と得意だが、こういう数学的な理論だったりするのはあまり得手分野ではない。ノートは取るがその場で即座に理解はし難いので、大抵は家に帰ってからそれらの理解に時間を費やしている。

 程なくして教授が来て挨拶をし、講義が始まった。が、とかく今日は眠く、いつも以上にぼーっとしがちだった。

 はてどうしたことだろう。確かに昨日は夜遅く寝た。とは言え殆どいつもと変わらず、十一時半頃には布団に入った。明らかにいつもより頭が回らない。

 そう思いながらも俺は何となく、良く晴れた窓の外を眺めていた。外を眺めると、これまた何となく、俺は感傷的な気分になった。


 こんな生活を始めて早や三年目。思い返してみれば反省点だらけだったかも知れない。もしかすると高校生活より怠惰な大学生活だったかも知れない。

 自分としては真面目にやっているつもりだった。でも、どんなに今努力してもかつての自分を超えられる自信はなかった。生活がガラリと変わった所以かも知れないが、今と三年前ではもっと違う何かがあるんだ。

 だがしかし、俺にはそれが分からない。今と昔で違うこと。自分が最近失ったもの。


 外は小春日和。身体は講義室にいながら、心はいつしか記憶の彼方へと旅に出て行ったようだった。


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