表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

7


 翌朝、怠い体を起こして朝食をとった。

 内容は昨日の残り物のスープ。干し肉で出汁をとり少しの野菜が入ったシンプルなもの。

 ぼーっとしながらも、居候の私が出来ることをする。まず掃除。

 空気の入れ換えをと思って彼のベッドの横にある窓を開ける。押し上げてつっかえ棒で支え開ける窓ガラスは分厚くて超重い。失敗して指挟んだらお陀仏だと思う。ちなみに、これは下ろすときも大変で昨日はつっかえ棒が鳩尾に入ってうずくまる結果になった。

 次に羽箒で埃を落とし、床を掃く。この羽の模様があの三羽かトリオの鷹にそっくりなんだけど、おかげて掃除がはかどる。

 さて、次は洗濯でも……と思ってふと窓から外を見たときだった。

 

 なんか、小さな丸い虎耳が窓の端に見える。思いっきりこっち向いてるのが見えてる。


 え、声かけるべき? それとも無視? あ、ピコピコ動いてる。


 どうしようかな……。あ、そうだ。確かまだあったはず。

 洗濯は少し後回しにしてキッチンへ向かった。


 「よし、ちょっと休憩しようかな」


 わざと大きな声でそう言って戸棚から取り出したのは昨日作った焼き菓子。酸味の強い林檎を甘く煮たコンポートと卵に小麦粉を使ってフライパンで焼いたケーキ。

 まだ半分残っているそれを1人分切り出し、小皿に乗せて窓枠にそっと置いた。


 「良い天気だなぁ~、あ、空見ながら食べようと思ったけどこんな良い天気だしやっぱり洗濯先にしよう! 曇ったら困るし!」


 非常にわざとらしい、自分でもびっくり大根役者な言葉を残してお風呂へと向かう。もちろん隠れて見るけど。

 ピコピコ動く小さな耳はまんまと騙されてバッと顔を出した。


 (あ、あの時の子だ)


 あの時、私をバケモノと呼び叫び怯えていた利発な男の子。また来たってことは気になるのかな? 怖い物見たさか?


 その子は、キョロキョロと部屋を見渡してこっそりとケーキを掴みサッとまた身を隠してしまった。

 その姿を確認して、またわざとらしい演技をする。

 

 「あ、あれ? ケーキがない! ……鳥にでも食べられたかなぁ」


 こんな演技に騙されるってどうなの? 思わず笑みがこぼれる。

 少し時間が経ってから窓の下をそっとのぞいたら落ちたケーキの屑だけが残っていた。


 「ふふっ。知らない人から食べものもらっちゃ駄目でしょーよ」



 


 ギルさんが帰ってきたのは外が真っ暗になってからだった。

 木の扉がギッと開いて、まだかまだかと待っていた私は飛び上がって玄関を見た。


 「おかえりなさい!」

 「お、おう。ただいま」

 

 なんだ、やけに元気だな。どうした? というギルさんに小さな虎耳の話をした。


 「あー、エドか」

 「あの子エドっていうんだ……。とても可愛かったですよ。前は怖がってたのにどうして来たんでしょう」


 2人で残りのケーキを食べながらのんびりと話す。


 「好奇心には勝てねぇんだろ。こっちにニンゲンを連れ帰ってきてから毎日どんな生き物なのか聞いてくるぞ」

 「そうなんだ……。里に子供は沢山いますか?」

 「んー、まぁそれなりにだな。夏になれば赤子が生まれるから少し増えるだろうが、20ってとこだろう」


 「え、夏に生まれる?」

 「まぁ、いつでも生まれるっちゃ生まれるけどな。秋が繁殖期間だからなぁ」

 

 繁殖期間……!?

 え、まさかの動物的要素が強いの?


 「ん?どうした?」

 「あ、いえ、こっちは繁殖期間っていうのがあるんですね」

 「一応な、昔はその時だけだったらしいが今はあやふやだ」

 「なるほど」

 「ニンゲンの世界にはねぇのか?」

 「ありません」

 「それなら子供は沢山居るんだろうな」


 少子化がなんだという話をするのも微妙な気がして曖昧に笑っておいた。

 

 「なぁ、こんな話ししといて今更だけどよ」

 「はい、なんでしょう?」

 「ニンゲンは何歳なんだ?」

 「あ、そういえば言ってませんね」


 というか、自己紹介なんてまともにしていない。異世界から来たとかぶっ飛んだ話しかしてない。そういえば名前すら教えてない。


 「改めて自己紹介してもいいですか?」

 「おう」

 「名前は入山美里といいます。年は25歳です」


 「ちょっとまて」

 「?」

 「名前って……」

 「はい、美里です」

 「ミサト……。じゃあニンゲンってのは」

 「種族ですね」

 「まじか」


 俺は今まで種族名で呼んでたのかと、地味に落ち込みショックを受けるギルさんは25歳という年齢を思い出してまたショックを受けていた。どうやらこの世界では働けるようになる15歳からは大人と見なされるようで私もそのくらいだろうと勝手に思い違いをしていたらしい。

 まぁ、分からないよね。どう考えても私だって虎の年齢を当てるなんて無理だ。


 「ギルさんは何歳なんですか?」

 「俺は23だ」

 「え!!!」

 「おう、まさかの年下だな」


 こんなに頼りがいがあるのに年下だと? さすが15で成人の世界。


 「毛並みと髭の張りで何となく分かるぞ」

 「そ、そうですか?」


 わかんねーよ。とは言えない。


 「あーなんだ、その敬語やめねぇか? ニンゲン……、ミサトの方が年上だしよ」

 

 年上年上言われるのはなんとも複雑だったけど、特に反対する理由もないので私はそれを有り難く受け入れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ