七草粥
新年、おめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
(外伝、光る海、後くらいかな?)
「わあ、七草粥ですか。さすがに防魔調査室!」
私は、食堂で思わず声を上げた。
長年、食品会社に勤めていて、社食もあったけれど、正月七日に七草粥が用意されていたことなんてなかった。
防魔調査室の社員食堂は、数種類のメニューが選べる方式なのだが、今日は特別に七草粥がある、と張り紙されていて、なんとなく、テンションが上がる。
「一応、宮内庁直下だし、伝統食文化にうるさいんだよねー」
既にメニューを選び、テーブルへ移動しようとしていた田野倉が、にやりと笑った。
いつも伝統的な法衣を身にまとっている田野倉は、七草粥に、生姜焼きをプラスしている。
「田野倉さんは、生姜焼きですか」
田野倉の食生活は、最初、本当に驚いた。もちろん、肉を食べてはいけないとは思わないけれど、田野倉は『法衣』のままで、焼き肉屋に入るツワモノである。法衣で焼肉は、絵面がワイルドすぎると思うのは、私の価値観が古いのかもしれない。
というわけで、七草粥のサイドメニューが生姜焼きだということくらいは、驚くに値しないのである。
「マイちゃんは真面目に、七草粥だけなの?」
「一応、そのつもりです」
一人暮らしが長いせいか、あまり『伝統』のごはんって食べないから、とってもワクワクする。
七草粥を選んで、テーブルへ移動した。
とうぜん、如月も同じかなと思いながら、先に座っていた如月を見ると、手にしているのは、カレーライスだった。
「如月さんは、カレーですか?」
なんとなく、精進とか伝統食を食べそうなイメージだったから、驚く。
「正月過ぎると、カレーって食べたくならないか?」
「……なるかも、ですね」
カレーライスも既に日本食かも。
「今晩はカレーを作ろうかな」
ふと、呟く。
平日にカレーを作るのはたいへんだけど、なんだか食べたくなってしまった。
「じゃあ、食べに行ってもいい?」
如月が笑う。
「え? 今、食べているじゃないですか?」
「マイのカレーが食べたいんだ」
それは嬉しいけれど、そんなにカレー好きだったけ? と、首を傾げながらおかゆをほおばる。
「ま。カレーより、食べたいものがあるんだけどね」
耳元で、如月に囁かれ。
新年早々、私は、喉を詰まらせそうになった。
時事ネタSS。みなさまにとっても素敵な一年になりますように。