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私は隣の田中です  作者: 秋月 忍
小噺集
56/64

花火と浴衣、時々退魔  (第一話 マイ&如月)

外伝、光る海より後、花嫁より前の夏の夜ということでお楽しみください。

※花火と浴衣、時々退魔(ss集より再録)

神社の境内から見える花火は、少しだけ遠いケド、障害物もなく、とても綺麗だ。

 ここは、花火大会の穴場スポット。少し小高い山のため、周りに灯りが少なく暗いため、花火の美しさが際立っている。

「スターマインだ」

 今日の私は、古典柄のあさがおの描かれた浴衣だ。隣で花火を眺める如月も、浴衣姿である。ちなみに、着付けをしてくれたのは、桔梗。式神さまは当然、着付けだってできるのだ。

 如月の和装って想像したこともなかったけど、主人公サマは何を着てもカッコイイらしい。すっと伸びた首筋が、とてもセクシーである。

 夜とはいえ暑いというのに、なぜか密着してベンチに座り、如月に肩を抱かれている。

 誰にも見られていないとはいえ、恥ずかしい。

「どうした? マイ」

 耳元で如月が囁く。耳に息がかかるのは、絶対わざとだ。

 付き合い出してからというもの、如月は私がドキドキしてしどろもどろになるのを明らかに楽しんでいる。

「……近すぎます」

「ダメ。仕事だから」

 私の抗議に、如月は面白そうにそう言った。

 仕事。そう、これは仕事なのである。だからといって、やりすぎである。

 私は如月と違って、異性に免疫がないから、ちょっとくっついただけでも、平常心でいられない。仕事だというなら、手加減してほしい。

「うーん。やっぱり来ましたね」

 フィナーレの花火が終わるとともに、浴衣の襟足から、暑い夏の夜というのに冷気が忍び込む。

 それが、ここが『穴場』である理由。私たちが呼ばれたゆえんである。

「……男だな、しかもかなり古いやつだ」

 目の前に現れたのは、人魂を従えた、狩衣の男。

 朱色の太刀を持ち、赤い目で私を見る。

 ゾクリとする、怒りと嫉妬のこもった瞳だ。

「マイ! 摩利支天!」


 オン・アニチ・マリシェイ・ソワカ


 私の唱えた力に、狩衣の男の顔が苦悶の表情に変わった。

「なぜだっ、許さぬ、許さぬぞっっ」

 絶叫をあげながら、男は太刀を私に振り上げた。思わず後ろへ逃げようとして、私は足を滑らせてしまい、どすんとお尻をついてしまった。

「マイっ」

 グイッと腰を落として私を庇いながら、如月は独鈷所ごと太刀を弾き飛ばして、刀印を結んだ。


 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前


 世界が金色の光に包まれ、男の姿は光の中に溶けていった。

「大丈夫か?」

 いいながら、如月の目が私の足元に向けられて止まる。

 浴衣で尻餅をつくという失態のため、裾が完全にみだれてしまっていた。

「み、見ないでください!」

「無理」

 如月はそう言って、私をそのまま抱き上げた。裾がめくれたまま抱き上げなくてもいいのに、と思う。

 ちょっと意地悪だ。

「……この角度だと、セクシーすぎて業務報告できない」

 如月の視線が私の胸元におちていて。

「勤務中です……」

「じゃあ、マイからキスしてくれたら、仕事に戻る」

「……意地悪」

 私は如月の首に手をまわして、唇を重ねた。


 そののちの調べによれば、男は江戸時代ごろの亡霊で、どうやら女に騙されて命を落としたらしい。

 以来、ここで花火見物に来るカップルに祟っていたとのことだ。

 できれば、来年は、仕事じゃなくてプライベートで二人で花火が見たいなあと思う。

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