表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は隣の田中です  作者: 秋月 忍
小噺集
55/64

バレンタイン

ハッピーバレンタイン♪ お久しぶりです。


「え?」

 私は思わず、目の前の人物に声を失った。

「ん? どうしたの? マイちゃん」

 いつもどおりの、親しげな声。

 スキンヘッドの男性が、にこりと笑う。

「田野倉さん?」

「そうだけど?」

 帰り際。わざわざ着替えたのであろう。ぴしっと着込んだスーツ。非常に、カッコイイのではあるが……。

「法衣はどうなさったのです?」

「デートを申し込んだら、坊さん姿は嫌だと言われたらしい」

 悟が、苦笑しながらそういった。

「ああ、なるほど」

 私は頷く。

 田野倉は決してモテないタイプではない。いや、むしろモテても全然不思議ではない。

──その独特のファッションでなければ。

「法衣を着ていないと、誰だかわかりませんね」

「洋服着ていることが、ほぼないからな」

 悟が苦笑する。

 田野倉は、春夏秋冬、法衣袈裟懸けスタイルなのだ。

「結婚式も、法衣でしたよね」

「……あれは、浮いた」

 悟がくすくすと笑う。

 神式の結婚式の参列に、法衣で現れた田野倉は、正直、浮きまくっていた。

 もちろん、和服のひとはいるにはいたんだけど、やっぱり法衣袈裟懸けは目立つ。

「とっておきの袈裟で行ったのに」

 わかってないなーと田野倉は首を振る。

「ひょっとして、田野倉さん、デートに法衣で行ったことが?」

「いままで、ダメって言われたことないけど?」

 しれっと答える田野倉。なるほど。田野倉を相手に選ぶ女性は、かなりのツワモノなのだろう。

 もっとも、悟ほどではないとはいえ、田野倉は二枚目ではある。

 濃いめのスキンヘッドなので、スーツを着ると妙にやーさん臭くなるけど。

「やっぱ、神社の娘は、坊さん姿は気になるらしくってさ」

 田野倉は仕方ないねーと、そう言った。

 どうやら、少し前、仕事が縁で知り合った女性らしい。

「いや。さすがに、バレンタインデートに法衣で行くのは、どうかと思うぞ」

 悟が苦笑する。

「おおっ。さすがに結婚すると、如月も言うことが変わるねー」

 ふむふむと、田野倉が頷いた。

「じゃあ、マイちゃん、チョコありがとうね」

 田野倉はそう言って、いそいそと帰っていった。

「チョコ? 俺、まだもらってない」

 悟が不機嫌に私を見る。

「同じ家に帰るのに、職場で渡す必要はないと思うけど?」

「朝一番で、くれたっていいのに」

 悟は、そう呟いてから。

「まあ、いいか。家に帰ったら食べ放題だしな」

 私の耳に、熱くささやく。

 職場だというのに、まったく周りを気にしないで私の肩に手を回す。

 結婚しても、だんなさまは、信じられないくらい甘くて……私は、うつむくしかなかった。

田野倉にも愛を♪ でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ