沢渡くんは、見える人
『青の弾丸』
「沢渡くん、じゃあ、南条が観覧車に乗るところねー」
「はい」
オレはそう言って、演技に入った。しかし……。
――あ、やっぱり。
黒くどんよりとしたモノが、ぼんやりとそこにあった。
何ごともないように、オレは観覧車に乗り込む。
乗り込んだ椅子の上に、小さな鬼がカッとオレを睨みつけて座っていた。
――ああ、もう嫌や……。
カメラにうつらないように、そっと九字を切りながら、オレはため息をついた。
『ガケ』
前乗りしたオレは、今度の舞台になる『ガケ』を見に行く。
――やべえ。
さすが、自殺の名所だけあって、たくさんイヤーなものが浮かんでいた。
手に負えない。
「もしもし、如月さん? あ、オレっす。あのですねー」
オレは、防魔調査室の知人に電話を掛ける。撮影までに、払ってもらえるといいなあ、と思って、宿に入る……もう一度、如月さんに電話するハメになった。
『監督さんのインスピレーション』
「沢渡くん、こんどの『弾丸』のロケ、○○洞窟ね」
「え? そんなシーン、脚本にありましたっけ?」
オレは渡された台本をぺらぺらとめくる。
「いやー、ちょっと、下見に行ったついでに観光したら、ピーンときたんだよね」
監督は嬉しそうにそう言った。
ちなみに、この監督のピーン。とっても嫌な予感がする。
そして。
洞窟に入ったオレは、また、すぐに如月さんに電話した。




