偽りの家族
私は時々、ある夢を見る。男の人と女の人が殺されている夢。でも、それが誰だか分からない。でも、私・花宮 明日香は知っている。その夢は、本当にあったことだと…。
階段をゆっくりと降りる私。リビングには、父と母がいた。冷たい挨拶を交わし、テーブルに用意してあった朝ごはんを食べる。
朝ごはんを食べ終えて、学校の用意をして家をでる。
私は、学校で誰とも話さない。担当の先生とすら話さない。まるで私はこの世にいないかのように、誰とも会話することなく学校で過ごす。
授業中は、全く話を聞かず窓をずっと見る。気がつけば、放課後になっているような感覚。放課後も1人で帰る。
そして、家に帰れば母とあの冷たい挨拶を交わして、部屋に行くだけ。父が帰ってくるまでに風呂に入る。父が帰って来て晩御飯を食べるときも一言もしゃべることなく、食べ終わり、ごちそうさまとつぶやいて部屋に戻り、ベッドで眠りにつく。そして私の、一日が終わる。
ある日、物置部屋にある私が小さいときに使っていたものを取りに、その物置部屋に行った。部屋は半分がものに埋れていた。
「はぁー。」
私はため息をつく。想像以上に物がたくさんあり、探している物を探すのに何時間かかるかと思うと、諦めようかとおもうほどの量だ。探し始めて、約10分がたった時だった。とある古新聞を見つけた。
「何…これ…。」
そこに書かれていたのは、5年前に起こったとある殺人事件のことが書かれていた。
「犯人は捕まっていない…。」
その事件が起こった場所は…、
「私の…5年前に住んでいた…家だ…。」
『殺害されたのは、この家に住む男女2名。娘がいたが、犯人に連れ去られた模様。犯人は逃走。』
そして、ある文章が目に留まった。
『娘の名前は、明日香。その後安否は不明。』
そして、私は思ったのだった。
時々見る夢。あれは、父と母が殺されたときの記憶だったのではないか。
では、現在一緒に住んでいる父と母は誰?
そのとき丁度奥で、大きな缶を見つけた。ガムテープでグルグルに巻かれ、表面はボコボコに凹んでいた。ガムテープを剥がし、開けてみると、布に包まれた物が入っていた。布をとってみると…、錆びつき先端には血と思われる物がついていた。
そして私は、今一緒に暮らしている父と母が、本当の父と母を殺したと思った。
あと、もう一つその犯行に使われたと思うものを見つけた…。
その夜、真実を知るべく、父と母に問いただした。
「…お父さん達って、本当のお父さん達じゃないんでしょ?。」
私の言葉に驚きを見せた父と母。
「どこでそれを知った?」
父が尋ねた。
「…。」
「答えろ‼」
父は怒鳴った。それと同時に、母からの冷たい目線を感じた。
「…。…お父さん達が私の本当のお父さん達を殺したの…?」
この言葉を言った瞬間、父と母の表情が急に優しい顔に変わり、母が言った。
「そうよ。私達があなたの本当のお父さん達を殺したのよ。ごめんなさい。」
私の近くで母は泣いた。でもその瞬間、
「ごめんなさい。本当のことを知ってしまった、あなたも殺さなければいけなくなった。」
母の手には包丁が握られていた。
「あなたのお父さん達みたいに、腕を一本一本切り落とそうかな。」
その言葉で、私はあの日のことを思い出した。本当のお父さん達が殺される瞬間を…。腕を一本一本切り落とされ、悲鳴をあげる父と母。そして、今目の前にいる父と母の笑い声。
思い出した私は、強い憎しみを抱いた。
父は、笑った顔で私に近づいてきた
「忘れておけば殺されずに済んだのにな。」
包丁を私の前でチラつかせ脅す父と母。
「許せない…。」
小さな声でつぶやいた私の声は父と母にはきこえなかった。
あの夢を見るようになってから、ある日私は父に聞いた。そして、父はこう答えた。
学校で嫌がらせをしてくる人がいたらどうすればいい?
その人にも嫌がらせをすればいい。
私の大切な物を壊されたらどうすればいい?
その人の大切な物を壊してあげればいい。
大切な人を殺されたら、どうすればいい?
その人の大切な人を殺してあげればいい。
その言葉を言った本人が目の前にいる。
じゃあ、どうしようか。私の大切な人はお父さんとお母さんに殺された。
お父さんにとっての大切な人は、お母さん。
お母さんにとっての大切な人は、お父さん。
そうだ殺してしまえば、いい。
そして私は、ポケットに入れていた物置部屋で見つけた…スタンガンを父達に…。
倒れた父達を紐で縛り、包丁を奪った。
「…あんた達が悪いんだから。」
そう言って、私は父達を…殺した。
私はこれで良かったと思っている。
そして今だからわかること。
5年前のあの日殺されたのは、お父さんとお母さんと…私だと…。