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孤独なオオカミと、盲目の少女の話

作者: 霧島雅狼

狼×人間の短編恋物語第2段!


感想くださいっす!

 ――少年は、いつも一人だった。



 その少年は、人の言葉を喋り、二足で歩く、人間と狼の間に産まれたオオカミだった。



 少年はただ、友達が欲しかった。



 しかし村人は少年を拒絶した。



 ――それはある意味、当然なのだろう。



 少年は森の中で、一人で泣いていた。



 そして少年は――出会った。



 それは、自分と同じ年の、人間の少女だった。



 少女は、少年に向かって言った、



 「……なんで泣いてるの?」



 ……と。


 少年は驚いた。そして少女に訊ねた。



 「……君は、僕の事が怖くないのかい?」



 ……と。


 すると少女は、



 「どうして?」



 と言い、首をかしげた。





 ――少女は、目が見えなかった。


 事故で頭を強く打ち、それから目が見えなくなった。

 そして彼女は家族から捨てられ、一人森の中を一人さ迷っていたのだ。



 少年は、少女と暮らし始めた。

 少女は、よく笑った。


 少年は頑張って獲物を狩ったり、その獲物を村にいる人間の祖母の所へ持っていって野菜や調味料等と交換して貰っていた。



 ――少年の両親は、既に他界していた。


 ……少年の両親は、内乱により死んだ、そうだ。

 少年は、両親の事は覚えていない。


 何故なら、まだその時の少年はあまりにも幼かったから――少年は、何一つ覚えていなかったのである。



 ――祖母はとても優しい人で、少年に何度も「一緒に暮らそう。」と言ってくれていたが、オオカミであるは自分がいると迷惑になる、そう思い断っていた。







 ――そして、それから8年が経過し、二人とも18歳となっていた。





 そしてある日の夜、彼女はベッドで横になりながら隣のベッドで寝ているかつての少年である青年にこう言った。



 「……ねぇ。あなたはどんな顔してるのかな?」



 ――と。


 実は、青年は自分がオオカミであることを彼女にずっと隠していた。


 青年は言った。



 「……さぁね。」



 ――と。


 それから青年は自分の肉体を見る。



 オオカミの顔、全身を覆う蒼と白の獣毛、筋肉質な人間の様な肉体、鋭く黒い爪、スラッとした尻尾――。


 どう見ても人では無いし、かと言ってオオカミでも無い己の肉体――……。



 青年は彼女の事を愛したし、彼女も彼を愛していた。……しかし――――そこには、種族の壁があった。



 青年の言葉を聴いた彼女は、



 「教えてくれたって良いじゃない……。」



 そう言って布団に潜り込む。



 ――……教えたら、君は怖がるよ。



 青年は心の中でそう呟いた。



 ――青年は、嫌だったのだ。嫌われるのが。





 それから一週間後、青年と彼女は森の中を散歩していた。


 手を繋ぎながら歩く。


 ――青年は彼女に自分の正体がばれないようにいつも彼女の手を繋ぐ時は、手袋を着けていた。



 彼女は、



 「……私さ、こうしてあなたと歩けて、幸せだな。」



 と言い。それから彼女は青年の顔を見つめた――――とは言っても、彼女の瞳は見えてはおらず、彼女は自分の勘を頼りに顔を向けたのであるが……。


 青年は彼女の顔を見つめる。


 彼女は、



 「……私は、両親から捨てられて、でもあなたに出会えて、こうして今も生きていて……。


 全部、あなたのお陰だよ?」



 と言った。


 それを聴いた青年は、



 「どうしたの?」



 そう普段では絶対しないような話を始めた彼女を心配して、そう彼女に聞いた。


 彼女は恥ずかしそうな顔で、こう言った。



 「……わ、私さ。あ、あ、あなたの事がずっと好きで……、さ。


 だ、だからそのっ……、付き合ってって言うか……、恋人になって欲しいの!、今更だけど!」 



 彼女は、顔を真っ赤にして、こう言った。


 ――青年はとても嬉しかった。

 かなりの勢いで尻尾が振られる――――しかし……。


 青年は哀しそうに微笑み、彼女に言った。



 「……ゴメン。君とは付き合えないよ。」



 ――……僕は、人じゃないから。




 その言葉を聴いた彼女は俯く。……そして。


 ――彼の手を、振り払った。


 そのまま何も見えていないのに走る。



 「……ちょっと!?」



 青年は慌てて彼女を追いかけた。



 ――……何が、悪かったんだろう?



 青年は崖に向かう彼女を引き止めようとした。

 しかし彼女は走る、そして――――落ちた。



 「……ぐっ。」



 彼は手袋をしていない方の手で、彼女の手首を間一髪で掴んでいた。


 ……彼女は青年に向かって言った。



 「……嫌いな私を、それでも、助けようとするのね……。」



 ――と。


 青年は、



 「……違う。僕も、君の事は好きだ……。


 でも、僕は……、君とは付き合えないんだ……。


 僕は……、人間じゃないから。」



 と言った。

 すると彼女は、微笑んだ。

 目から一粒の涙が零れる、しかしそれでも彼女は――笑っていた。



 「……知ってたよ。


 それくらい……、あなたが人間じゃなくて、それを隠そうとしてた事くらい、ずっと一緒に住んでいたんだから、分かるよ……。


 最期に、あなたの本心を聴けて、良かった……ッ。」



 そして彼女の身体は、青年の腕を滑り……、谷底に落ちて行く。


 ――……気が付くと、青年は落下しながら彼女の身体を抱き締めていた。


 ――青年は初めて、彼女を抱き締めた。


 ――青年は初めて、彼女の温もりを感じた。


 「……愛してる。」



 青年は彼女にそう呟いた直後、青年の身体は谷底に激突した。




 ――「痛……。」



 青年は激痛の中に目を覚ました。

 左腕は折れている様だった。


 ――激痛。


 彼女は、無事だった。

 ――青年の身体がクッションになったのだ。


 しかし彼女は軽く頭を打ち付けたらしい。頭から血が流れていた。


 ――しかし青年の身体は痺れ、動くことは出来なかった。


 ――……彼女が、ゆっくりと目を開いた。


 そして青年の顔を見つめ、こう言ったのだ。



 「……見……、えて……、る?」



 ……と。


 それから彼女は微笑みながら、言った。



 「……カッコいいじゃん。」



 ……と。







 ――それから一ヶ月後……、


 青年と少女は一ヶ月前と同じように森の中を散歩していた。



 ……違うのは、青年が骨折した片腕にギプスをはめていることや、彼女の頭に包帯が巻かれている事、そして青年が手袋をつけずに彼女と手を繋いでいる事である。



 青年は彼女の顔を微笑みながら見つめる。尻尾は、緩く振られていた。


 ふと、彼女は立ち止まり青年の顔を見つめる。


 ――……そして彼女は、笑顔でこう言った。



 「……ねぇ、キスしよっか?」



 ……と。



 ――……その日、ある森の中で、一人の人間ともう孤独では無くなった一匹のオオカミは、口づけを交わした。




Fin

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― 新着の感想 ―
[良い点] 童話みたいにロマンチックで好きです。 主人公二人、素敵な恋ができて良かったですねー(*^^*)
2014/07/09 22:35 退会済み
管理
[一言] 良かったです。 心が温かくなるお話でした。 少女の視力が回復したときはご都合展開すぎる気がしましたが、それも忘れてしまうぐらいオリジナリティがあって良かったと思いますよ。
[一言] 正体を知った少女の一言 「……カッコいいじゃん」が素の言葉が出ている様で良かったです。
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