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第五話

「…い……と…」

「お…や……!!」

「おい大和!!」

ん…?

「…ああ、東か」

俺の前に鞄を肩に担いだ東がいた。

「『ああ、東か』じゃねえぞ。お前大丈夫か?もう放課後だぞ」

「…もうそんな時間か」

俺は鞄に物を入れて、鞄を持ち教室から出る。

「あ、おい待てって!!」

東が俺を追って教室を出る。

『あ、あの…神裂さん』

テレパス、つまり。

「染宮か。どうした?」

教室の外に染宮が鞄を持って立っていた。

「ん?この子誰だ?大和」

染宮に気付いた東が俺に聞いてくる。

『は、初め、まして。そ、染宮志穂と、言います』

「え?あ、ああ、初めまして。藤堂東です。…何でテレパス使ってるんだ?この子」

染宮からの挨拶に返事を返し、小声で俺に理由を聞いてくる。

「…染宮は喋れないんだ」

「そう、か」

俺の説明に東が顔を少し暗くする。

「…それで。さっきも聞いたがどうかしたのか染宮」

改めてここにいる理由を聞くと染宮はバツが悪そうな顔をした。

『その…すいません』

「…何がだ?」

『お昼休憩の時、神裂さんの様子が変わったの、私が神裂さんに失礼なことしたんじゃないか。って考えて』

その事か。

「気にするな。染宮は何も悪くない。…ただ、嫌な事を思い出しただけだ」

『でも、やっぱりそれって私が原因なんじゃ『違う。だから、気にするな』…わかり、ました』

染宮の言葉を遮り、歩き出す。染宮も納得出来ていないようだが同じ様に歩き出す。東も無言で歩き出す。




「相変わらず、凄いな」

『…はい』

靴を履き替え、外に出たが、校門の手前辺りから男子の行列が出来ている。


−こちら告白待ち最後尾−


行列の一番後ろの男子の横にそう書かれたプレートを持っている女子がいる。

「入学して一ヶ月過ぎたのに、未だに告白が絶えないって、凄いな九条さんは」

そう。これは九条彩音に告白しようとしている男子の行列だ。

『…あの、神裂さん。私疑問に思ってるんですけど、この行列の人達、何時も同じ人達な気が…』

「…入学から一ヶ月。九条が告白され始めたのは入学初日から。潔い奴はフラれたら諦めるが、今もこうして並んでる男子(馬鹿共)は九条がまだ誰とも付き合っていないから、押し続ければいけるんじゃないかと考えてるんだろ」

浅はかと言うか、愚かと言うか、知能指数が低いと言うべきなのか。

「まあ九条さんは、見た目完璧、頭脳明晰、運動神経抜群、ランクはA、その上、お金持ちのお嬢様。パーフェクトすぎるからな」

『その上、人付き合いも上手ですよね。最初の頃は、九条さんを嫌っていた人、女子に結構いましたけど、今じゃ少ないですからね』

「…突っ立てても仕方ない。俺達には関係ないから行こうぜ」

「え?ああ。何時もなら男子達がフラれるのを眺めてから帰ってるのに…」

『そんな事してるんですか!?』

「ああ、フラれた瞬間を盛大に笑うんだ。あいつ」

『か、神裂さん』

…染宮がまるで可哀想な人を見る目で俺を見てくる。何を話した東。…まあ、今は直ぐにでも此所を去りたい。気にしないでおこう。

「待ちなさい神裂大和」

俺を呼ぶ声がする。それは今一番聞きたくない声だ。

「聞こえてないの?神裂大和」

「お、おい大和!!お前、呼ばれてるぞ!!」

再び名を呼ばれ、東に止められて俺は、諦めて相手の方を向く。

「…何か用か、九条」

九条彩音が俺を呼んでいた。

「話が有るの。付き合ってくれないかしら?」

「…拒否け『行きましょ』…はぁ」

俺は、仕方なく無数の男子達の憎悪の視線を浴びながら歩き出した九条について行く。




学園の近くにある喫茶店。そこで俺は九条といる。東と染宮には先に帰ってもらった。

「…それで、一体何の用だ?」

頼んでおいたコーヒー(砂糖とクリームたっぷり)を一口飲み、九条に切り出す。

九条も頼んでおいた紅茶を一口飲んで、口を開く。

「ここ一ヶ月。貴方を見てきたわ」

「…これは驚きだ。まさか一年最強と言われる紅蓮の女王に見られてたなんてな。用件はアレか?『貴方じゃこの学園で生き残れないから辞めるべきよ』みたいな感じか?それなら『何で本気にならないの?』…何の話だ?」

面倒な話を持ってきたな。

「異能を、本気を出したら負けるはずないでしょ。なのに何で異能を使わないの?」

「…俺はFランクだぞ。異能なんて有ってないようなもんだ。それで本気がどうとか言われてもな」

「嘘ね。学園のランクなんて入試での実技試験の結果。手を抜けば誰だってFランクになれるわ」

「買い被り過ぎだ。第一何処に俺が手を抜いてる証拠が『‘大和’』っ!!」

九条に名前で呼ばれ、俺は身体が強張るのを感じる。

「証拠?そんなの、幼馴染みだからに決まってるでしょ」

「………」

…まだ、俺みたいな奴を幼馴染みと呼ぶんだな。お前は…

「ねえ大和。本気を出さないのも、Fランクなのもどうでもいい。一つだけ答えて。…どうして、いなくなったの?」

…やはり、聞くのはそれか。

「ねえ、どうして!?何でいなくなったの!?…やっぱり、‘あの事’に責任を感じて…」

九条の言葉に対して、俺は返事を返す。最低な返事を。

「九条」

俺に呼ばれ九条は俺の目を見てくる。俺は言葉を発する。

「人違いじゃねえか?」

「……え…」

九条が固まる。しかし俺は気にせず話続ける。

「いやさ、あんなに真剣に語ってくれたのに悪いと思うが、俺には九条みたいな幼馴染みがいた記憶は無いぜ」

「…何、言って…」

「誰と勘違いしているかは知らねえけど、俺は九条の幼馴染みじゃない」

「………」

九条は黙り込んだ。だがその顔は何かを言おうとして迷っている顔だ。だから俺は九条が何かを言う前に止めの一言を放つ。

「俺と九条は幼馴染みじゃない。第一、俺に幼馴染みなんているわけないだろ。…俺みたいな、約束一つ守れない、‘人殺し’に」

「っ!!」

九条は俯いて完全に沈黙した。

俺はコーヒーを飲みほし、立ち上がる。

「…じゃあな、九条。金は払っといてやる」

返事はない。俺はレジに行き、金を払って店を出る為扉を開きながら振り返らずに小さく声を出した。

「ごめんな、彩音」

俺は店を出た。

これで良いと頭では考えているのに、胸は凄く、苦しかった。

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