鎧の鼓動
あらゆる事情により、ログインできずに更新に2年も掛かってしまいました。もし、序盤からお読みいただいた方が今でも目を通してくださるのであれば、心よりお詫び申し上げます。また、これを機に新たに目を通してくださる方もお待ちしております。ようやく、このサイトに復帰できました。他の作品も長らく更新できていなかったので、謝罪を込めて更新していきますので、よろしくお願いいたします。
「奈美ちゃん、見ろよ、あの少年。活発そうなイケメンだねぇ。そろそろ男を作った方がいいんじゃない?美人がもったいないよ」
坂場は奈美に対して親心を持っているのか、どこか心配そうに問いかける。
「仕事中ですよ。だいたいこんな役職についた時点で異性との交際なんて視野に入れていません。ましてや一般人との交際だなんて、あり得ません。」
奈美は不機嫌な返答を返すが、どこか向きになっているような雰囲気を漂わせる。
「そうですかい。はやくおじさんに彼氏の顔を見せてほしいもんだ。」
坂場は日本軍東海支部の保安部隊に所属する男であり、この部隊の隊長を勤めている。不慮の事故で日本軍科学支部に勤めていた母親を亡くし、その後に軍に志願したまだ若い奈美が坂場の部隊に配属された頃から何かと世話をやく、奈美にとっては兄のような存在なのだ。
「そう言えば坂場さん、式は来月でしたっけ?」
「あぁ、そうだ。ようやく俺も結婚する日が来るのよ。この任務が終わったら、しばらくはそっちの準備で休暇を貰うことになってるからな。上も気が利くよ。これも、我が国日本が中立国で平和維持をしているおかげだな。」
坂場には最愛の彼女がおり、結婚を控えていた。兄のように慕っていた存在が結婚するとあり、奈美は心から祝福している。しばらくは坂場は留守となるため、奈美は留守を任されている。
「そうですね。坂場さん、本当におめでとうございます。この任務はやく終わらせて奥さんの所へ行ってあげてくださいね」
奈美は温かい笑みで坂場を祝福する。
「おいおい、まだ奥さんじゃないって」
照れながら幸せを噛み締める坂場の顔は、奈美にとって安らぎの瞬間でもあった。
しかし、その時だった……
「ん?」
「どうした、奈美ちゃん?」
何か異変を感じた奈美に坂場は問いかける。
「いや、いまオルタエネルギーの反応が僅かですがメーターに表示されたような気が…それも上空に」
オルタエネルギーの周波数を関知するメーターが助手席に設置されており、常時メーターを伺っていた奈美だったが、一瞬だけ上空に何かをとらえたように見えたらしい。
「上空?日本軍の機装歩兵の巡回隊でもとらえたんじゃない?」
「いえ、この市街地付近は衛星の管理で統一しているはずです。機装歩兵は配備されてないはずですが……え?」
みんな、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!
天木の叫び声が響いた。
辺りを歩く人々は何事かと天木を見る。
天木は必死に叫ぶ。
「みんな逃げろ!!!!上から何かが!!!!!」
辺りの人間は、天木の言葉など相手にもせず、変質者を見るかのような視線を浴びせる。
「なんだ、あの少年?どうし……うわっ!」
しかし、その天木の声を聞き、何かを悟った奈美は坂場に言葉を発そうとしたが、間に合わないと確信し助手席から身を乗り出しバンドルを奪い全力で切った。
天木が上空を見上げるやいなや、その何かは降り注いできた。
「くそっ、間に合わっ……」
ドカァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!
凄まじい衝撃と砂煙で辺りは覆われた。その衝撃で辺りにいた人間は吹き飛ばされる。
う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
その凄まじい衝撃で天木も吹き飛ばされる。日本軍のトレーラーは奈美の気転により上空から降り注いだ何かとの直撃は避けたものの、近場の建物に突っ込んでしまい、身動きが取れなくなっていた。
ビリリリリ……
辺りを覆う砂煙の中で奇怪な電子音が鳴り響き、それと同時に見えなかった【何か】が姿を現した。
「ちっ、やはり急場凌ぎのステルスシステムか、役に立たん。」
砂煙の中から姿を現したのは、謎の機装歩兵であった。
一人が姿を現すと一人、また一人と次々と姿を現す。
「てて……奈美ちゃん、大丈夫か?」
衝突の衝撃で頭部を軽く切ってしまい、出血している坂場は、奈美の安否を確かめる。
「はい……なんともないです。え、あ、あれは!?!?」
姿を現した謎の機装歩兵を見て、動揺する奈美。
「どうやらコイツら、この積み荷を狙ってるらしいな。どこから嗅ぎ付けたのかは知らんが厄介な事になったぞこりゃ」
焦りながらも、どこか落ち着いている坂場。その後、この事態に対応すべく後部座席に乗っていた数名の兵達が出動する。
「ここは我々が食い止めます!その内に脱出を!」
日本兵の一人が坂場と奈美に伝えて、後部座席から外へ飛び出した。
彼等もまた、機装歩兵を身に纏った鎧武者である。
オルタエネルギーを弾丸として打ち出すマシンガン、連射弾ツバメと相手の弾丸から身を守る盾、ザンテツを装備している。腰にはオルタエネルギーを充満させて衝撃波を放つ日本刀型の風松を持つ。その姿は日本の鎧武者そのものであり、一般兵であるため、足軽を連想させる姿をしていた。
「頼んだよ!坂場部隊の精鋭たち!無事に帰ったら一杯やろうや!」
大きな掛け声で部隊の渇を入れる坂場。
撃てぇ!!
ドドドドッ!!!!!!
市街地の中で激しい銃撃音が鳴り響く。
カシャン!と鈍い音を立てながらマスクのバイザーをオープンさせ、一人の謎の機装歩兵が言う。
「ローグ部隊、敵を殲滅せよ。ローグ2は俺と共に例の積み荷を頂戴する」
ローグ部隊と呼ばれた謎の機装歩兵達も連携を取り行動を開始する。
その姿は日本の機装歩兵の姿によく似ているが、全体的に異なる形状をしている。迷彩柄のカラーリングを施され、それぞれがフライトユニットを装備しており、更には風松とは形状が異なる刀のをそれぞれが持ち、腰には小型のナイフも常備している。ローグ部隊は全員で5人。それぞれが1~5までの識別コードで呼称している。ローグ1がリーダー格であり、マスクの形状が他とは異なり、指揮官を現す角を備えている。そして、右肩にはそれぞれの識別コードであるナンバーがマーキングされている。
「了解、殲滅に移る。」
他のローグ達が呼応する。
「ステルスシステムは長時間の稼働は無理だが、短時間での運用なら可能か。目眩まし程度にはなるな、さっさと片付けるぞ」
一人のローグ、ローグ3が言葉を発すると、バイザーの横のスイッチをスライドさせ、ステルスシステムを作動させ、再び姿を消す。
どうやらこのステルスシステムは短時間での使用しか出来ないようだ。
ローグ3に続き、4、5も行動を開始し、敵の殲滅に当たる。
「てて……いったい何なんだ……?」
先程の衝撃で吹き飛ばされた天木はなんとか立ち上がり、辺りを見回した。そこには先程までのいつもの平和な光景は無く、鉄の鎧を纏った鎧武者達が戦う戦場の光景が広がっていた。
「何なんだよ……これ……?どうして……なんで戦ってるんだ?」
先程までの光景とのギャップが激しすぎて、動揺する天木であった。それと同時に、世界ではこのような光景が日常的に発生していると言う事を、先程モニターで見ていたニュースから連想させた。辺りは激しい銃撃で壊滅状態である。
「こんな……こんな事が……どうしてだ……どうして……」
戦闘に巻き込まれ、死亡した人々の屍が目に入り、罪もない人々が巻き込まれ命を落としていく事に激しい疑問を抱き、怒りが込み上げてくる天木。
その時だった。
ドクンッ
「えっ?」
ドクンッドクンッドクンッ
何かの鼓動が天木の頭に鳴り響く。その鼓動は次第に早くなっていく。
「この音……さっきの変な感じに似てる」
何故かローグ達が降ってくるのを予測した天木は、その時に感じた違和感を思い出す。
「何かが、俺を呼んでるのか……?いや……どこか懐かしいような気も」
頭に鳴り響く鼓動は、天木にとって懐かしさのようなものを感じさせていた。するとその鼓動が指す場所を、天木は見つめた。
それは、先程天木が目撃した軍用のトレーラーであった。
あのトレーラーの中に、天木を呼ぶ【何か】がある。
確信した天木は、不思議とその鼓動がする方へ、【戦場】へと足を進めた。
この一歩が、彼を戦場へと誘う一歩だったのか。それとも、最初から戦場へと赴く事が決まっていたのか。
戦場に向けて歩み始めた天木は、この1歩が自らの運命を、世界の運命を左右するとは、この時はまだ考えもしなかっただろう。
トレーラーの積み荷の中の暗闇で、天木を待つかのように、2つの眼が鈍く光を放った。
次回はいよいよ本格的な戦闘開始。様々な伏線をはり、終盤に向けてその伏線を回収していきますので、細かく目を通していただければ幸いです。