存在する世界
手元に出るはずの鉛筆が無い。
なんでも生み出せる鉛筆は一体どこに存在してしまっているのだろうか。俺は勉強机に向かって考える。
消しゴムで消した物は俺のイメージに依存してその存在を消す。俺はなんでも生み出せる鉛筆のない世界を消したとき、一体何をイメージしていただろうか。その時の俺のイメージを思い出してみた。なんでも生み出せる鉛筆のない世界というと、ひどくつまらない世界だ。それを消したという事は、ひどくつまらない世界が消え、面白い世界が俺を待っているはず。そこで気付いた。
なんでも消せる消しゴムを扱いきれなかった俺に、なんでも生み出せる鉛筆を持たせたところで何も変わらないんじゃないかという不安を俺は抱いていた。その不安がまずかったのではないか。
消しゴムで消したのは俺が頭の中で考えた世界じゃなく、俺が心の中でイメージした世界だったかもしれない。頭で思った世界ではなく心で感じた世界だったかもしれない。
鉛筆を扱うのは俺じゃない方が良いかもしれないという俺の深層心理によって以前の世界が消去された可能性。それは十分に考えられた。
しかしそうなると手元に鉛筆がない事は大きな問題ではないかもしれない。何にせよつまらない世界を消したのは確かなのだから、今鉛筆を持っている誰かの手によって世界は俺の理想に近付くはずだ。そこまで考えると安心出来た。これから鉛筆を持っている人間の手で世界は変わっていくだろう。
その日は何も起こらなかった。明日に期待して今日は眠る事にする。一体どんな世界が俺を待ち受けているのだろうか。布団に入ると割とぐっすりと眠る事が出来た。しかしその晩、ある夢を見る。
消しゴムで字を消す夢を見た。消しゴムで消すと字は消える。当然、それ以上の何かがあるわけもない。その夢を見て俺は自分が大きな勘違いをしている事に気付いた。
翌日。俺はいつもより早い時間に目を覚ます。そして夢の事を思い出し、強い不安感に襲われた。
なんでも生み出せる鉛筆がない世界を消したから、今この世界にはなんでも生み出せる鉛筆があると思っていたがそうじゃない。鉛筆で文字を消すと後には何も残らない。新しい文字を書かない限りそこは空白のままだ。
俺は消しゴムでつまらない世界を消した。それによって何かが生まれると思っていたが、物を消すための道具で何かが生まれるはずがない。
そうなると俺は消しゴムで世界を消してしまった事になる。だがしかし世界は未だに存在している。おかしいと思った。
俺は最後に消しゴムを使ったノートを開いて、消した文字を見る。
俺がいつも何かを消したいときに使っていたノート。それは使い古されていながらも、書いた文字を消すだけのノートだから白紙のままだ。一ページ目の一行目だけが消しゴムでこすられて痛んでいる。そこを見て俺は驚いた。文字が残っていたからだ。完全に消えていなかった。少しだけ文字が残っている。
なんでも生み出せる鉛筆のない世界。かすれて読みにくいが確かに残っていた。消しゴムが文字を消し切れていなかったのだ。今までこんな事はなかった。あの消しゴムで文字をこすれば字は完全に消えていたはずだ。
「おはようございます。新しい消しゴムはいりませんか?」
その時、俺の背後から声がした。それは内臓の一部と引き換えに俺に消しゴムを譲った謎の生き物の声だった。
俺はその生き物に質問して今の状況を確かめる事にした。