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祖国から15,000海里、遥か先の小さな海 (Ein kleines Meer, 15.000 Seemeilen jenseits der Heimat.)  作者: 蒼野 壮太


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7.三重の伝承保存会とUAPS(Mie Folklore Preservation Society and UAPS)

 民俗学の世界で名の知れた河合真知子氏の自宅は、賑やかな小学校のグランドを出たすぐ脇にあった。

 三重の伝承保存会のメンバーも、同席してもらえるらしい。一石二鳥だ。

 咲季は初めて会ったときのような、よそ行きの顔をしている。昨夜、松阪牛のすき焼きをはしゃぎながら食べていた人間と同一人物とは思えない。

 玄関のチャイムを押すと、インターフォンから「はい」という意外と若い声が聞こえてきた。娘さんかなと思いながらも、「今日、ご訪問のお約束をしていた未確認空中現象研究会の小島と」

「岸本です」

 横から口をとがらせた咲季が割り込んできた。秘書としてチャイムを鳴らすところから、どうしてやらせてくれなかったんだという顔だ。たぶん。

 すぐに玄関のドアが開いた。そこにいたのは、ショートカットでサラサラ髪の、咲季よりも少し若いくらいの少女だった。

「真知子さん。いらっしゃいましたよ」、そう家の奥に呼びかけると、「少々、お待ち下さいね」と言って自分も奥へ引っ込んでいった。

「すごく可愛い子でしたね」

 咲季が言う。

「ナオミ・ワッツの若い頃に似てた」

「先生。それ、誰ですか?」

「女優だよ。そのナオミ・ワッツを若くして、日本人っぽくした感じだった」

「先生。それって、似てるって言えるんですか?」

 そんなことを言っていると、奥から40代後半くらいの整った顔立ちの上品そうな女性が出てきた。

「はじめまして、河合真知子です。どうぞお上がりください」

「はい。失礼いたします」

 秘書の咲季が言った。


「あなたの研究会の会報で、顔写真は何度か見ていましたけど、実際にご本人を見ると、このあたりの人の顔をしていますね。秘書の方も」

 応接に通され、咲季と並んでソファに座った私達の顔を見比べながら、真知子氏が言った。表情であったり、遠い血筋が同じであったりといったところから、その土地特有の顔というのはやはりあるのだと思う。

「私も岸本も三重の出身でして」

「そうでしたか」

 先程の少女が「失礼します」と言いながらお茶を運んできた。お茶をテーブルに並べ終わると、そのまま真知子氏の横に座った。

「紹介しますね。『三重の伝承保存会』の竹内京子さん。私の共同作業者でもあるのよ」

「えっ!竹内さんって『小さな海』の聞き手として署名のあった、あの竹内さんですか?」

 咲季は驚いた様子だ。もちろん、私も驚いた。

「おどろいたでしょう?」

 真知子氏はそう言うと続けて、

「京子ちゃんはね。あの話を12歳のときに蒐集したの」

「えーと、小学生の時にですか?発行も同じ年に?」

 咲季が疑うような口調で聞き返す。

「そうなんです。もちろん一人で聞き取りをしたわけじゃないですよ。叔父の付き添いです」

 竹内京子が答える。

 私も、感心のあまり、思わず口を出してしまう。

「うーんと、『三重の伝承 怪異編』の発行は5年前でしたから、まだ高校生ということですか?で、河合さんの共同研究者?」

「今、高校2年生です。ずっと民俗学に興味があって、真知子さんに弟子入りしちゃったんです。共同研究者だなんておこがましいですよ」

 そう言いながら見せる笑顔が、とても可愛い。ふと視線を感じて、横を見ると咲季が怖い顔をしているような気がした。

「あなたの本土空襲のUFO論文、大変良かったですよ。『火の球』ですか。B-29の機銃で撃墜もされてるんですね」

 真知子氏は、私の拙い論文をきちんと読んでくれていたのだな。

「撃墜されたのか、霧散したのか、不明瞭な報告ですけどね。仮にUFOだとしても戦場の空を飛ばすのですから、撃墜されてもいいくらいの使い捨てなんでしょうね」

 思わず、今日の本題を忘れて応じてしまう。

「あなたの論文。本土空襲の『火の球』を、マシンと決めつけていないところがまた素晴らしいと思いました。空襲の犠牲者や、それを背負って戦う日本軍パイロットの思念の具現化という解釈も匂わせていましたね」

「はい。綺麗事ですが、ほとんどの人は、本心では戦争なんて望んでいなかったのだろうなと、そういった思いが形になって戦場の空に現れても不思議とは思えないほど、多くの悲しみがあったのだと。当時の記録を読みながら思ってしまいまして・・・。その気持ちが論文にも乗り移ったのだと思います。本当は、そんな感情は抑えて、冷徹かつ実証的に書かなければいけないのですが・・・」

 真知子氏はするどい。

「やはり、そういう気持ちが隠されていましたか。民俗学で伝承を蒐集していると、語りの中に隠されたものが混じっているな、と思うことがよくあるんですよ。そうでしょ?京子ちゃん」

「そうですね。隠さなければならないんだけど、風化はさせたくない。だから、変容させる。語り手のそんな気持ちを感じることが、結構ありますよね」

 竹内京子の言葉を引き取って、また真知子氏が続ける。

「語りって、人から人へ伝わるうちに少しずつ姿を変えていくんです。 原型を探ることもありますけど、大事なのはその変わり方に込められた思い。 民俗学は、そういう語り手の気持ちや共同体の記憶を尊重する研究なんです。 だから、優しさの営みだと私は思っています」

「でも、真偽を知りたくなることはないんですか?」

 咲季が尋ねる。

「ありますよ。実際に真実を探り当てることもありますね」

 真知子氏が答える。

「でも、それって味気ないですよね。せっかく語りの中で優しく包まれていた思いを、無理に引き出すなんて」

 今度は竹内京子が引き取る。やはり共同研究者だ。素晴らしい連携だ。

 そろそろ、本題の切り出し時かな。

「戦時中、このあたりにドイツ人の集落があって、それが隠され伝承として残されているということはありますか?」

 私がそう言うと、

「たとえば、この子守唄の話」と言いながら、咲季が鞄から『Henge』の最新号を取り出して、子守唄のドイツ語解釈を説明する。

「異言語を話す山の住人の話もですね」

 咲季が話を続ける。素晴らしい連携だが、不思議だ。ドイツ人集落の話は今初めて出したのに、咲季は分かっていたかのように資料を出してきた。

 南田との会話を、盗み聞きしていたわけではあるまいし・・・。

「集落があったかどうかは分かりませんけど、私の父方の祖母は外国人だったようです。私が、物心ついたときには亡くなっていたようですが、名前はハナです。日本人の名前ですよね。だから、どうも素性がはっきりしないんですね。ただ写真は1枚あります」

 真知子氏はそう言うと、竹内京子の方を見た。

「私の父方の曾祖母もロッテという外国人だったそうです。どこの国の人だったのかまでは、やっぱり分かりません。亡くなった祖父は知っていたのでしょうが、祖父が自分の母親のことを話しているのを聞いたことはありません。父も聞いたことがないと言います」

「ロッテというのはドイツ語圏の名前ですね」

 私が言うと、真知子氏が答えた。

「戦時中や終戦後しばらくは親が外国人というと、差別されたりする時代だったようです。特に戦時中は、同盟国のドイツ人だったとしても、イギリス人やアメリカ人と見分けがつかなかったでしょう。だから、身元を隠していたのかもしれないですね」

「お祖母様の写真があるとおっしゃいましたね。拝見できますか?」

 真知子氏に尋ねると、「ちょっとお待ち下さいね」と言いながら、写真を探しに行った。

「竹内さんの、ひいお祖母様の写真はありますか?仏壇の写真にありませんか?」

 咲季が聞く。

「見たことがないですけど、どこかにあるのかな?仏壇には飾っていないですね」

 ドイツ語圏出身のロッテさんが仏教徒なわけないだろう、私は、声に出さないよう心でツッコミを入れる。

 そんな話をしているうちに、「これが祖母です」と言いながら、真知子氏が写真を持って戻ってきた。

 もとは、名刺サイズの小さな写真だったらしい。原版は実家にあって、真知子氏の持っているものは複写したものだという。

「元の写真の裏には、クリーム色の押し花が貼られてましたね。ずいぶん崩れていて、何の花なのか、どんな意味があったのかは分かりませんけど」真知子氏が付け加えた。

 可憐な女性だったのだろう。

 古い写真だけあって、かなり、明暗が曖昧になってきているが、明らかに日本人には見えない。正面の写真ではなく、こちらを振り返るようなポーズの上半身の写真だ。

 髪は黒くは見えない。おそらく金髪だ。かなり長く、大きく編み込んである。

 北欧系の顔をした美しい女性だ。20歳前後か、もっと若いようだが、なんとも言えない。

 襟のある厚手のシャツを着ているようだ。色はわからないが白ではない。袖には縦に一本、黒っぽい線が入っていて、中心になにかのマークが入っている。花のようにも見えるが不鮮明だ。もちろん色もわからない。だが、少なくともドイツ女子同盟のユニホームではなさそうだ。

「いつ頃の写真ですか?」

 真知子氏に聞いてみるが、彼女にも分からないらしい。戦時中か終戦直後くらいじゃないかという。なぜなら、祖父が終戦時に20歳で、ハナさんも同じ年頃に見えるからだとの推測だ。

 写真を見ていると、どういうわけか、とても感傷的な気分になる。彼女は幸せな人生を送ったのだろうか?

 どうして、他人のことなのに、こんな気持になるのだろう。

「名前はハナさんでしたっけ?」

 真知子氏に、あらためて聞いてみる。

「私の旧姓が松田ですので、松田ハナですね」

「Nein, das ist falsch. Hanna. Hannelore eben.(違うわ。ハンナ。ハンネローアよ)」

 隣りに座っている咲季が、咲季とは思えない声でそう呟いた。反射的に咲季を見ると、そう言った本人が一番驚いているようだ。そんな顔をしている。

 私は少し安心した。瞬間、咲季が別人になったのかと思ったからだ。

「どうして?」

 真知子氏が、咲季に尋ねる。真知子氏はドイツ語が分かるのか。

「あれ?いえ、すみません。なぜか自然と出てきたんです。忘れてください」

 ハンナの日本語名がハナか、ありそうな話だ。やはり、記憶の奥底で、咲季は何かを知っている。

(まだ、記憶の奥底だ)

 真知子氏とは血の繋がりがあるから当然だが、ハナさんには、咲季や竹内京子とも同系統と言えば良いのか、どこか似ているところがある。私もそうなのだろうか?

「こういった話は、UFOと何か関係があるのかしら?」

 真知子氏が、当然とも思える質問を私に投げかけてきた。

「先ほど、河合さんが褒めてくださった私の論文。本土空襲の『火の球』についてまとめた論文のことですが、実はあの論文には書けなかったことがあるんですよ」

「どういった?」

「B-29の搭乗員は、ドイツの重戦闘機やジェット戦闘機、ロケット戦闘機を見たという報告もしてるんです。名古屋や岡崎、呉の空襲の時です。もしそういった報告が見間違いではないとしたら、鈴鹿あたりが、もっともそのような航空機の基地としては都合がいいのかなと。鈴鹿には海軍航空隊もありましたし」

「なるほど。面白い話ですね。それに、その報告された航空機も広義のUFOと言えますね」

「河合さん。素晴らしい。そうです。広義のUFOなんですよ。つまり、そこにいてはいけないモノです」

「先生。そんなこと私には一言も話してくれませんでしたね?」

 咲季が口を挟んできた。いつも通りの咲季だ。

「いや、細部は曖昧なので話さないって言ったじゃないか。これはその一部だよ」

「一部?まだ、話していないことがあるんですか?」

「ちょっとだけね」

 その時、しばらく黙っていた竹内京子が口を開いた。

「このお話って、私や真知子さんのルーツ探しでもあるんですね?」

「そうなります。さきほど岸本が示した伝承以外に、そういったルーツを暗示するような話はありませんか?」

「『横顔の美女』の話があります。偶然ですが、真知子さんのお父様が語り手なんです。しかも、聞き手が私です」

「『横顔の美女』?ノーチェックでした。『三重の伝承 怪異編』に収録されている話でしたよね?」

「そうです」

 

『横顔の美女』

 昭和20年頃のこと、町の北の川のそばにある家に、年の頃15、6歳の美しい娘がやってきた。噂によると東京から疎開して来たとも、その家の70代老夫婦のどちらかの隠し子であるとも噂されていた。

 私(語り手)は、娘をひと目見た途端に恋に落ちた。長くつややかな漆黒の髪、花のように香り立つ白い横顔。

 娘は私の周りでも話題になり、恋のライバルは日に日に増えていった。

 ある初夏の夕刻、私が工場から帰宅する際に、娘が正面からやって来るのが見えた。娘は私に一礼し、「暑いのに、ご苦労さまです」と声をかけてきた。

 私も頭を下げながら、「今、お帰りですか?」と勇気を出して聞いてみた。

 娘はニッコリと笑うと、「勤労奉仕の帰りです。時々すれ違いますね」と以前から私を知っているというように、親しげな雰囲気で返答してきた。

「勤労奉仕ですか、ご苦労さまです。飛行機の部品を作っているわけではありませんよね?」

「はい。あなたとは違って、私は農作業のお手伝いをしております。今日は稲刈りでした」

 なぜ、私が鈴鹿の海軍航空機部品の製造工場に勤めていることを知っているのだろうか。不思議ではあったが、人づてに聞いたのかもしれない。

 私が周囲の男友達に、娘と会話したと吹聴したところ、誰もが悔しがり、羨ましがった。

 数日後、また娘とすれ違うことがあった。私は、「今日も勤労奉仕ですか?」と声をかけてみた。ところが、娘はこちらを見もせず、一礼だけしてすれ違っていった。

 先日の会話が夢だったのではないかと思ってしまうほどの落差に、狐につままれたような気分になった。

 そのうち、私は呉の海軍工廠へ転属することになった。これでしばらくは娘とも会うことができなくなる。私は、いつも娘とすれ違う道で娘が来るのを待っていた。だが、その日は会えずじまいであった。翌日も同じ場所で待ったがやはり会えずじまい。その次の日にやっと娘と会うことができた。

「呉に行くことになりました。しばらく顔を合わせることもなくなりますね」

「そうですか・・・」

 娘は、今日は立ち止まって、私を一瞬見据えて、寂しがっているような、心配するような、どちらとも取れる表情をした。

「どうか、ご無事で」

 そう言うと、娘は白い横顔を見せながら、通り過ぎていった。

 呉から戻ってきたら、勇気を出して求婚しよう。その時の娘の様子から、私はそう決意した。その夏に、呉は大規模な空襲に見舞われ、8月に落とされた原爆によって、直接的な被害こそ受けなかったが、広島から避難してきた人々の受け入れや医療処置などで大混乱となった。

 私はなんとか難を逃れ、娘の白い横顔を思い浮かべながら、鈴鹿へ戻って来た。初秋のことだった。

 ところが、戦争から戻ってくると娘はどこにもおらず、住んでいた家も無くなっており、そこには一面の白秋桜(あきざくら)が咲いていた。

 人に聞くと、誰もそこに家があったこと、娘がいた事などを覚えている者はいなかった。私の男友達も、同じように、娘のことを記憶している者はいなかった。

 考えると、私も娘の横顔はよく覚えているのだが、正面の顔がどうしても思い出せない。あの娘は花の精だったのだろうか。

(竹内京子)


「この話のどこが、ルーツと関係するんです?」

 私には、失恋をロマンチックに語っているようにしか思えなかった。

「真知子さん。私から説明しちゃっていいんですか?」

「どうぞ。京子ちゃんから説明して」

「この話は、真知子さんのお父さんが、そのまたお父さんから聞いた話だということです」

「昭和20年ころだと、河合さんのお父さんのお父さん、つまりおじいさんの時代ですね。ご本人の体験談ですか?」

「そのようですよ」

 竹内京子が真知子氏を気にしながら答え、話を続ける。

「いくつか、不自然な部分があるなって、真知子さんと話してるんです。農作業の勤労奉仕にしては白い顔であること。横顔の美女が『私』の勤め先を知っていること。鈴鹿に『私』が戻ってきたときには、横顔の美女が消え、住まいも無くなっていたこと。白い秋桜(コスモス)が、・・・その頃は『コスモス』とは言わず『あきざくら』と言っていたそうですが・・・植えられていたこと。秋桜は自生しないんです。特に、白いコスモスは自生力が弱いので、誰かが種まきか、苗を植えたとしか思えないんです。最後に、このように町ぐるみで、と言っても当時は村といった規模らしいんですけど、横顔の美女の存在を隠そうとしているように見えること」

「コスモス?」

 無意識に口をついて出てしまった。

「はい。秋桜です。なにか気になることがありました?」

「あ、いえ・・・」あの白い花は、秋桜だったのではないか?まあ、いい。今考えることではない。「たしかに、妙な部分はありますね。でも、河合さんのおじいさんのお話なんでしょう?それをお父さんが聞いたのであれば、話としてはほとんど原型のままなのでは?」

「そう思いますよ。真知子さんのおじいちゃんとハナさんの馴れ初めなんだと思うんですけど、きっと、真知子さんのお父さんに語られていない部分があるんです。ですから、ちょっと不思議な話になってる」

「それで、真相は?」

「ここまでですね。でも、ハナさんと結婚したから今の真知子さんがいる。白い秋桜で終わりではなくて、語られていない事があるのは確かですよね」

 私の中で、見たかったものが少しずつ姿を現して来たような気がした。

「う〜ん。少なくとも農作業の勤労奉仕が本当だとしても、北欧系の人だった可能性がある。実際、ハナさんは北欧系の顔立ちをしていますしね。もしかすると農作業というのは屋内だった可能性もある。漆黒の髪というのは、目立たないように染めているんでしょうね」 まずは、外見的な違和感に関わる部分。

「あと、海軍航空機部品の製造工場というのは、知られている鈴鹿の工場とは別の施設だった可能性がある。そう考えたほうがいい。そこでは、おそらくドイツの技術者と日本の技術者が一緒に機密性の高い作業をしていた。ハナさんも何らかの関わりがあって、だから、おじいさんの勤め先も何かのきっかけで知っていた。もしかすると一緒に作業をしていたなんてこともあるかも知れませんね」

 次に語り手の勤め先を知っていたという部分。

「その後、日本が敗戦して進駐軍がやってきた。当時は機密資料など慌てて焼却したとか言う話もありますから、ハナさんのことも隠蔽されたのかも知れません」、「でも、ハナさんは秋桜を植えた。それには隠れたメッセージが込められていて、おじいさんは横顔の美女を探し当てた。そうして真知子さんのお父さんが生まれた」

 最後に、存在の痕跡が消されていたという部分。

 早く言葉にしないと忘れてしまいそうな気がして、一気にまくし立ててしまったが、論理的には破綻はないと思う。

「ちょっと私には難しくて、なんとも言えないですけど、そんな物語が、包まれていてもおかしくはないですよね」

 竹内京子は、そう言うと真知子氏の方を見た。真知子氏は黙ったままだ。実は、同じ結論を持っていたのかもしれないなと思う。

「先生。すごい発想力ですね」

 咲季が口を挟んできた。

「鈴鹿のどこかに、日本軍の支援を受けたドイツ軍の拠点があって、それが伝承やB-29の搭乗者からの報告として残されたのだったら・・・。そう考えると、つながってくる話が多いからね」

 それを聞いて、真知子氏が言う。

「小島さん。あなたのUFO論文で書けなかったことは、私の祖父が語らなかったことと密接に関係していたのかも知れませんね」、「でも、拠点を作るほどのドイツ人が、戦時中にどうやって日本に来れたんでしょうか?」

 太平洋戦争勃発後は、ドイツから日本への航路は連合国によって完全に封鎖されていた。真知子氏の疑問は当然だと言える。

「私は潜水艦で来たと考えています。拠点と言っても1945年の5月にドイツは無条件降伏しています。日本の戦争もその8月に終わりましたから、完成はしなかったのでしょう」

 私はそう言いながらも、この地へ来て、さらに混乱していた。それは、ハナさんやロッテさんのように、軍事活動の中に女性がいることだ。普通の行動ではない。

「ところで、『小さな海』はどこにあったと考えますか?」

 私は、『小さな海』の聞き手として署名のあった竹内京子に聞いてみた。

「え?あの話も関係してくるんですか?」

「はい。潜水艦は小さな海に出たのだと思います。そこがナチスドイツの日本拠点です」

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